「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

農家蔵保存と利活用等
青森県尾上町  特定非営利活動法人尾上町蔵保存利用促進会
蔵は繁栄の象徴だった

 尾上町は、基幹産業が農業で米とりんごの栽培が盛んです。また、昔から植木業が盛んなことから植木・造園業者が多く、各家庭にも庭(つぼ)といわれる庭園が数多くあります。そのような関係から尾上町には蔵と庭園が多く、農村アメニティコンクール入賞、農村景観百選、かおり風景百選に指定されるなど農村景観維持の町として全国的にも高く評価されております。
 日本三大蔵の町は、倉敷市、喜多方市、川越市の3市ですが、商人が繁栄の象徴として蔵を建造し街並みを形成してきました。当町においては、蔵の建造主も建造する職人もいない昨今、334棟の蔵が現存しています。その蔵所有者の約94%が農家の方々です(全世帯2948の11・3%)。ここに大きな存在意義と価値があります。とくに同町金屋地区(世帯数271)には78棟の蔵があり、密集しています。
 年代別には1862年(文久2年)、141年前に建造された蔵が一番古く、明治、大正時代と続きます。終戦後、農家は小作人から自作農となり、蔵を建てることを目標に皆農家は頑張ってきたと聞きます。蔵を建造する費用は当時で米百俵と言われています。良質の壁土と砂がタダで調達できる場所があり、蔵に夢を託し自作農となった農家は先を競うように蔵を建て、昭和20〜30年代に建造ブームが起こり、これだけの蔵の数となっています。
 蔵の構造は、農産物の貯蔵施設と文庫蔵併用で、米とりんごの貯蔵は1階、2階は大事なものを保管する場所として活用されてきました。りんごは旧正月頃まで貯蔵しながら、農家がリンゴ仲買人と価格交渉、売ることに自ら努力し農業経営基盤確立を図ってきました。一様に農家は潤い、蔵の存在が嫁婿をもらう判断基準の一つでもあり、蔵は商人も農家も繁栄の象徴でステータスです。


蔵保存利活用とグリーン・ツーリズム

 今日、農業形態の変化に伴い貯蔵施設ではなく物置庫となり、蔵は次第に所有者も地域住民もステータスという価値感が薄れてきました。当町で生まれ育ち、暮らしていますと、これだけ蔵があっても見慣れた風景で評価されるほどのものではないと思っている人が未だに多くいます。当町では蔵の建造主、建てる職人もいない今日、蔵は少なくなっても多くなることはないと断言できます。故に後世に残すべき建造物、文化遺産として認知し、蔵保存と利活用活動を推進する組織の必要性、この実状を一人でも多くの方々に理解してもらおうと、町内外賛同者26名で平成14年1月27目に当会を設立致しました。
 設立以来、「蔵保存と利活用促進、グリーン・ツーリズム事業推進基盤確立」を指標に、(1)蔵マップ発刊(2)会報蔵ジャーナル発刊(3)蔵フォーラム開催(4)蔵・農家庭園ウォッチング(5)農作業体験ファームスティ(6)ぶどう・りんご収穫体験(7)蔵所有者懇談会(8)受入農家懇談会(9)古農具収集展示など積極的に事業活動をしてきました。その活動が各社新聞掲載、NHK「東北各駅停車」、青森テレビ「らくてんスタジオ」放映などメディアに取り上げられました。さらには16年度農業高校教科書「グリーンライフ」掲載決定など大きな成果を残すことができました。


農作業体験ファームスティ

 その波及効果が蔵所有者はじめ地域住民の意識高揚につながり、蔵・農家庭園ウォッチング協力体制の確立〈(1)蔵内部見学提供(2)古農具と展示蔵提供(3)農家所有の庭園提供〉と農作業体験ファームスティ・収穫体験受入農家(11農家)基盤が確立しました。
 とくに農作業体験ファームスティは、弘前大学農学生命科学部地域環境学科・谷口建教授と学生の協力で昨年、19人の学生を当会会員農家5人で受け入れました。その体験を基に受入農家懇談会を開き、新たに6人の受け入れ農家が誕生し、去る5月9〜11日(2泊3日)、同学生40人と柏木農業高校生4人の受け入れにつながり、農村においてグリーン・ツーリズム事業の必要性と感動を実感させることができました。
 受け入れ農家は「初めは不安でした。だけど、自分の子どもが帰ってきたようで本当に楽しかった。いつでも遊びに来て欲しい。私たちも学生から農業の良さを改めて学ぶことができました」「グリーン・ツーリズム事業の必要性を実感しました」と感想を述べています。また、学生も「2泊3日の農作業体験ファームスティは、とても充実し、楽しく、そして厳しくもあり、心に深く残るものになりました。たくさんのことを学ばせてもらい、改めて農業のあり方について考える機会となりました」「実際体験してみて、農業の厳しさと経営の難しさを知り、農業とは無縁だった私でもグリーン・ツーリズム事業について考えを持つようになり、受け入れしたお父さん・お母さんたちの農作業の手伝いをし、もっと農業を深く学びたい」とアンケートに感想を寄せ、離村式の当日は、各々記念写真を撮り、握手を交わし再会を確認し合い、受け入れ農家も学生も涙ぐむ、感動のファームスティでした。


農村文化の漂うまちづくり指標に

 明年5月7〜9日、東京都内女子中学校38人(広域連携津軽・ほっとスティネッワーク170人受け入れより)・20日、千葉県船橋市立中学校50人(同ネットワーク260人受け入れより)の農作業体験ファームスティ受け入れが確定しています。大手旅行会社数社から問い合わせが頻繁となり、グリーン・ツーリズム事業推進基盤確立と事業定着化に大きく前進しました。さらなる受け入れ農家啓蒙を図り、事業推進基盤確立に努力していきます。
 このような前述の活動を町行政においても高く評価して、備品購入(200万円)助成・観光振興プロジェクト委員・田園空間整備事業推進委員委嘱や商工会事業との共催で「蔵・庭園巡り」を開催し、例年にない来訪者確保(2030人)に貢献しました。庭園巡りは、これまで(平成4年から)10年間無料開放してきました(助成補助金・商工会負担金などで運営)が、今年度共催の条件として無料開放廃止を提言し、有料化(500円)と開催運営の改善に寄与することができました。
 当会は今後、社会的・法的に認知された特定非営利活動法人(15年5月5日設立総会、7月末登記完了予定)の認証を受け、蔵保存と利活用の促進(利活用の拠点づくり、蔵並みの環境整備)を図りながら、蔵所有者及び地域住民の意識高揚、農村景観の維持発展及び環境保全(遊休農地利活用)、グリーン・ツーリズム事業推進活動などを積極的に展開し、(1)農家蔵の町、グリーン・ツーリズムの町としてのステータス確立(2)地域農業の再構築(3)農業と農村の持つ豊かさ、農村文化の漂うまちづくりを指標に、ひいては当町農業・農村活性化(地域の活性化)に寄与していきます。