「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

里山の創造とまちづくり
埼玉県川口市  安行みどりのまちづくり協議会
協議会を発案した理由

 「植木の里」と称される埼玉県川口市安行(あんぎょう)地区に、東京外郭環状道路の通過と道の駅「川口・あんぎょう」の整備や埼玉高速鉄道線の開業などを契機にした市街地開発の波が押し寄せる環境とともに多くの人たちの交流拠点が生まれた。地区の自然環境と植木産業の背骨である里山(斜面林)の保全とまちづくりを願って住民が自主的に結集し、里山の再生と創造活動を始めた。


まちづくりの目標と当協議会の目的

 地区の将来イメージとして「リフレッシュ・オアシス 植木の里 川口・あんぎよう」を掲げ、植木産業が維持される自然に富んだ町となることを目標としている。
 目的は、安行地区などの植木産業の活性化と緑豊かな環境の保全に努め、良好な住宅地の形成を図り、会員相互の意見交換やさまざまな人たちとの交流をおこない、まちづくりに対する理解を深め、安行地域の発展に寄与することとしている。


地区の現況概要

 地理的位置は、東京都心部から約20kmの首都圏域に位置する。
 産業構造は、江戸時代からの歴史ある安行植木の産地であり、植木関連施設が集積している地区である。また大規模流通施設も低地部に多数立地している。
 都市基盤状況は、広域交通(東京外環自動車道、国道298号、都市計画道路・浦和東京線)の整備がされており、道の駅「川口・あんぎょう」から約1・5kmの位置に営団南北線の延伸されている埼玉高速鉄道線の戸塚・安行駅が整備されている。
 自然環境は、県立安行武南自然公園の指定を受けた大宮大地の縁部に斜面林が残り、首都圏に最も近い有数の自然環境を維持している地区である。
 市街化の状況は、植木産業の斜陽化により、農地や樹林地の土地利用の転換が生じており、住宅地のスプロール化が進み始めた地区である。


活動場所と会員など

 川口市安行領家・安行原・安行地区を中心に約3ha(私有地、公共地)を直接の活動エリアとしている。会員は40人。植木産業従事者や会社員、寺の住職、元教員、会社を退職した人(化学者・ロボット設計技師・会社社長ら)・家具職人・自営業・大学講師などや会員の夫人などが手伝い、家族的な雰囲気と異業種交流の場の活動となっている。


活動の開始と継続

 道の駅「川口・あんぎょう」の整備を踏まえ、平成7・8年度に川口市が作成した当地区での都市整備のあり方に関する基本構想づくりが当協議会発足のきっかけであった。作成段階で、多くの市民参加型プロジェクトが実行され、住民のやる気(まちづくり意識の高揚と積極性のある住民の発掘)につながった。その後、埼玉県・川口市の支援(助成金)を受け、協議会として発足したのは、平成9年10月9日であるが、以来、学習活動・里山の保全と活用活動・広報活動を展開、いろいろな人に観てもらい、来てもらうためにウォーキング大会などを開催している。平成12年度からは、自主的に活動を進めている。
 まちづくりの活動には終わりはない。


活動の展開

 すべて会員の手作り活動。都市デザインの専門家や地区に住む植物学者のアドバイスを受けながら活動を展開しており、一つの活動が次の活動を生み出している。
○斜面林にあった里道(赤道)部分に「木道の小径」、「散策路」を整備した。
○ゴミ捨て場化していた里道脇の私有地の「ゴミ拾い」をおこなった。
○荒れ放題であった奥の林間部を間伐と下草を刈り、「林間の広場」や「カブトムシの小屋」を造った。
○里山への「案内看板」や散策用ガイド地図「安行好路マップ」を作り、安行に訪れる人を優しく迎えている。
○湧き出る清水を生かし、里道の脇にあった遊休地に「トンボ池」を造ってビオトープの出現、「武蔵野」の原風景の再生を試みている。
○都市部に残された貴重な「イチリン草の自生地」が発見され、生息環境を整備した。
○地域の祭りに参加するとともに協議会主催のウォーキングを実施している。その時に安行の郷土料理「安行だんご汁」を振る舞っている。
○地区内の寺の境内(ふるさとの森の指定地)にある彼岸花群生地の手入れの手伝いをおこなっている。
○林の中に湧き出る清水の水質観察や動植物の観察を定期的に実施している。
○協議会の維持費工面のため、オリジナルグッズの「木のペンダント」やイチリン草をあしらったTシャツの販売などをおこなっている。
○他のボランティア団体との交流や会員の目印「帽子・腕章」などを作った。
○地域の文化祭などイベント会場で、協議会の活動状況をPRするためパネル展示などをおこなっている。
○活動経過やトピックスをまとめて「みどり通信」(平成15年5月現在、42号)を発行、会員らのコミュニケーション強化に努めている。


地域の変化と効果

(1)里山の保全と多様性の創造
○林内の「ゴミ捨て場」一掃で、ゴミを捨てる人がめっきり減った。
○トンボ池の周りには、多くの小鳥が来るようになり、遊びに来る子どもも増え、ザリガニやオタマジャクシなどを捕って楽しんでいる。
○放置され荒れ放題だった斜面林が、市民が散策する公共的な空間としてよみがえった。
○里山の自然環境として、さまざまな林床植物と昆虫や鳥類の増加など、彩りの豊富な多様なものとなった。

(2)地区の活性化
○イチリン草の自生地が市の天然記念物に指定され、今年は約1万5000人が観賞に訪れた。
○他にない特徴ある環境の出現によって、多くの人が訪れ森林浴やウォーキングを楽しみ、喜ばれている。また安行の名が多くの人に知られ訪れる人が増え、その結果、地域の植木産業の活性化につながってきている。

(3)自分のまちへの誇り
○里道が地域の人たちのかっこうの散歩道になったことと、安行のことが話題(イチリン草)(彼岸花)(みどりの環境)になるにつれて、住民が誇りを持つようになった。
○住民にボランティア意識が芽生え、まちづくりを自ら考え行動する住民が増えた。
○協議会の活動が地域の人たちに理解され、会員の誇りにもなってきた。
○協議会の活動の場が地域の人たち(旧住民・新住民)の交流の場となっている。
○安行名物(安行だんご汁)が人気を呼び、小さな町おこしにもつながっている。

(4)民有地での公共性の発揮
○地権者でもある住民が多く参加する活動であるため、会員自らの私有地を提供しての活動など、民有地でのまちづくり活動がスムーズにおこなわれている。

(5)多様な市民層発掘の仕組みと活動の展開
○地区の基本構想策定段階で多様な市民参加型プロジェクトがおこなわれたこともあり、参加者の知識や興味などが多様性に富み、その結果元気ある人材が発掘され、協議会活動に参加している。
○新たな活動に際しても、リーダーの適任者を選びやすい。

(6)手に職を持つ市民の参加と空間整備の着実な実現
○植木産業に従事する住民が多い地での環境保全活動ということで、とくに手に職を持つ会員が多い。そのため、埋念や議論先行に陥りすぎることなく、できる範囲での空間整備という成果を出しつつ活動を展開している。

(7)目に見えるまちづくり活動による市民意識の醸成事例として
○小さなことであっても(そうであるからこそ)比較的短時間で活動を具体化し、目の前の変化として現れることで、市民感覚に即応するものとなっている。
○地区のウォーキングに当協議会の会員が案内人として付く機会が増え、イベントには当協議会活動の中で開発された「安行だんご汁」を振る舞うなど、他の地区からの来訪者を歓待する住民意識が育成されている。その上で、最大の地場産品である植木産業があらためて見直され、「植木の里」に住む住民としての誇りを養っている。

(8)都市計画マスタープランの地区プラン実現化プロセスとして
○当協議会のきっかけとなった地区の基本構想は、必ずしも都市計画マスタープランとの関係が明確ではなかったが、行政が策定した地区の計画を住民と連携しつつ実現するプロセスとして、本事例は多いに参考になると考える。

(9)安行のまちを魅力的にするすべての人や組織との連携
 当協議会は住民個人が自主的に集まり活動している。何らかの組織が主導する活動ではないため、協議会の存在自体がさまざまな組織や市民との連携を目指している。その実践例を紹介する。
○地域の祭りとの関係―「みどりの地球号祭り」(植木業関係者が実行委員会を務める)ヘの参加で、同じ地域で活動する仲間としての連帯意識を高めている。
○安行観光協会との連携―植木の開祖を讃えた「吉田権之丞祭記念事業」に参加し、先人の功績を改めて学びつつ、観光の重要性の認識を高めている。
○行政との連携―埼玉県や川口市が企画した当地区でのウォーキング大会の実行委員会に参加し、大会当日もボランティアとして積極的に協力支援している。
○大学との関わり―当地区が、早稲田大学の講師が研究する「まちづくり」の課題地として取り上げられ、同講師や学生などから地域の課題や将来像について提案を受け、その提案を生かすよう努めている。
○川口市食生活改善推進員協議会の協力―「安行だんご汁」の開発や提供を通じて「食改」との協力関係を築き、女性の目から、男性が中心の当協議会活動にアドバイスをいただいている。