「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

少子高齢化に対応した地域の魅力づくり
青森県青森市  特定非営利活動法人活き粋あさむし
浅虫地域の概略

 浅虫地区は本州の最北、青森県の青森市東端にあります。5000人近くいた人口も現在では約2000人となり、世帯数は約700、高齢化率(65歳以上の人口)32%で青森市の平均の約2倍あります。そして単身高齢者の割合が市内で最も高い地域です。小学校の児童数は全校70名を切り、年々減少傾向にあります。市内では最も少子高齢化の進んだ地域であります。
 温泉地であり、観光のまちとも言われ観光への公共投資が520億円なされているところでもあります。しかし観光にたずさわっている人口は2割程度で、ほとんどの生活者は観光とは直接関係を持たない生活をしています。


発足と取り組みに至る経緯

 平成11年度に始まった青森市のへルスプロモーション事業の地域モデル地区となり、市民ワーキングメンバーを公募しました。その市民ワーキンググループが平成11年6月に発足しました。行政のモデル事業というとやらされ感があるのですが、市民自身が自分たちのコミュニティの課題を知り、その優先課題について取り組むのだという趣旨に共感して、この機会に今までの組織ではできなかったことをやろうと奮起しました。地域の様々な組織はメンバーが固定し、高齢化して新しいことを企画することが困難な状態でした。また、若い世代がメンバーに入ることもできるまちづくり組織を作りたい思いで発足しました。
 平成14年4月からは「活き粋あさむし」と変え、現在会員数は、賛助会員も含めて約90名で活動しています。平成15年3月、NPOの認証を受けました。


健康なまちづくりの目指すところ

 健康なまちとは、病気を予防するというだけではなく、住んでいて、いいなあと思える地域のことです。そして、地域の人々が文化の中で考えていくものです。活動を始めるにあたって、ワークショップを5回開催し、健康なまちづくりの目指すところとそれを実現するための具体的な取り組みを話し合いました。既存の組織では解決できなかったことや団体の壁を超えて、まちのことを考えて話し合いが進められました。
 少子高齢化への対応として定住人口の増加をもたらす事業を誘致しようという意見が多くあがりました。しかし、住宅を用意しても地域に魅力がなかったら、誰も住みたいとは思わないのではないかということで、自分自身が住んでいていいなあと思う地域をつくることから始めようということになりました。


活動記録
 活動を始めた平成11年度、12年度は予算が会費収入のみで、花植え、ホタルの飼育など身近な小さなことしか取り組めませんでした。次に平成13年から始めた活動は「うれし、たのし、あさむし倶楽部」という、浅虫の季節ごとの楽しみ方を提案している体験型イベントです。地域の住民とともに県内から多数参加がありました。カタクリの観察、森林公園のトレッキング、浅虫ダムの活用、クルーザー、そしてなんと言っても温泉体験。たくさんのリピーターが生まれ、地元の人が地元をよく知る機会となりました。このイベントで企画した湯めぐりは現在旅館組合で湯札に商品化し外来入浴を気軽にできるようになりました。また、カタクリの観察イベントは参加者が多くなると観光協会も同様のイベントを行なうようになり、私たちの役割は終えました。私たちは地域の交流ということでイベン卜を企画しましたが、観光の分野にも波及効果がありました。
 その他、平成13年度には、「アカマツの巨木救済募金」「高齢者のパソコン教室」「手作りねぶた」など地域で困っていることを取り上げて事業化していきました。そして、平成14年2月に青森市で開催された国際会議の北方都市会議でシンポジウムを行ない私たちの活動が取り上げられました。

 平成14年からは単発のイベント的な事業だけではなく、地域の少子高齢化に積極的に対応するような活動を継続して行なう方向に変わりました。
 夏休みにサマースクールを開催し、地域の大人が講師やサポーターとなって子どもたちと交流しました。浅虫ではどんなコミュニティスクールをめざすのかを地域の子どもから高齢者まで参加してワークショップを開催しました。平成15年度からは通年でコミュニティスクールを開催することになりました。隔週の土曜日午前9時から午後3時まで、浅虫地域ならではのカリキュラムと科学や芸術など本物を体験する機会を設けています。土曜日に仕事をしている家庭が多い地域なので利用する子どもが多く、望まれている事業になりました。
 「浅虫食文化の再生と創造」事業では、昔からある料理のレシピ集づくりをしています。新しい文化の伝承方法で、地域の食文化を次世代へ伝えるために、レシピ作成とその試食会を開催しました。食文化の再生だけではなく、創造的な浅虫の名物料理の開発も進めています。
 そしてこの食文化事業の基盤の上に、地域の高齢者に健康で安心できる楽しい食事を提供する食堂「浅めし食堂」を平成15年10月にスタートしました。この食堂の食材には地元浅虫地域の遊休農地で作りはじめた無農薬の野菜や低農薬のお米を使っています。健康長寿のためには食事が重要な役割を持っており、栄養士と医師の監修によりバランスのよい昼食を週6日提供することになりました。650キロカロリーで塩分4グラム以下、20種類以上の食材を使い高齢者が必要な栄養素がバランスよく入っています。一人暮らしの高齢者用に小さな束の野菜販売も喜ばれています。
 「浅めし食堂」は、雇用を創出し、高齢者をはじめとして地域の健康づくりに役立つ地域の居場所になりました。雇用スタッフのほかにもボランティアで参加しているスタッフも自分の役割を持ち、サービスを受ける側ではなくサービスを提供する元気な高齢者も活躍しています。食堂で得た収益はコミュニティスクールなどのまちづくり活動に活用しています。

活動の成果

「活き粋あさむし」はコミュニティの普通のおじさん、おばさんの会員が一住民として参加している市民の組織です。コミュニティの活動では、私たち地域の優先課題からテーマを決めてきました。住民のためにもなる、企業のためにもなる、組織のためにもなるというように、一緒に活動する組織や個人に利益があり、満足感が得られるような働きかけをしています。
 私たちの活動は多岐にわたりますが、幅広いコミュニティの活動が一人ひとりを変え、生活を変えることができました。ここに住んでよかったと思うようになった人が活動を支えています。自分の住んでいる顔が見える地域でまちづくりを実践していくことは、昔からの人間関係や体制があり難しいことでもあります。しかし、このままではいけないと思った人々は自分から、そして自分の周りの人を変化させていきました。活動を支援する賛助会員や寄付が年々増加していきました。
 私たちは次代を担う子どもたちと一緒に行なう活動を続けてきました。そして、子どもたちに関する活動をきっかけとして、まちづくりに参加しにくい30歳代や40歳代の人も活動に参加してくれるようになりました。地域の活動をわがこととして実感を持ってもらうことができました。
 地域の児童数は横ばい状態でありながら、近隣の地域での激減ぶりと比較すると児童数の減少はゆるやかであります。転入児童もわずかではありますがあります。私たちの活動が直接影響したのではないかもしれませんが、住む地域や通学する学校を選択する時のひとつの要素にはなっていると思います。
 Think Globally Act Locally―世界のことを考えながら地域の活動、足元の活動からはじめようという合言葉がよく引用されるようになりました。グローバル化が進んだ今こそ、その実感できる活動の場であるコミュニティにおいて、住民が主役になる新しい活動が必要であると思います。一部の力を持った人の活躍ではなく、普通のおじさん、おばさん、子どもたちに力がつく地域活動において、「活き粋あさむし」の活動はよきモデルであると言えます。
 平成15年度から地域の食堂を始めるにあたり、単なるボランティアではなくスタッフを雇用し、継続した活動にしていくことになりました。私たちは地域の中において責任が増してきました。魅力ある子育て支援、高齢者支援の活動が定着してきました。浅虫へ定住を促進しても安心して住むことができる基盤づくりができてきました。次は定住人口を増やすための活動にやっと手を出してもいい準備ができてきました。平成16年度は既存の雇用の他に新しいサービスを創出して雇用を増やす活動をしていきたいと考えています。
 さて、最近の私たちは自分たちのコミュニティのことだけでなく、子育て支援やコミュニティビジネスについて、行政や他の地域の市民と情報交換をすることが増え、他の地域や組織の支援をする立場にもなってきました。
 観光地でもありますので、私たちの活動がまちの空気を変え、注目されることで、観光業の人たちにも利益をもたらしています。


主な受賞歴

・平成12年毎日介護大賞 青森支局長賞 ・平成15年あおもり活性化大賞、大賞