「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

中学校進学への不安をやわらげる地域の自信養成イベント
東京都江戸川区  小学校卒業記念ナイトウォーク実行委員会
はじめに

 春休み中に目立つ子どもたちのゲームセンターへの出入りや夜間のたむろなど、その原因は、卒業による開放感あるいは気のゆるみ、中学校へ進むことへの期待と不安、そんな複雑な心境によるものではないか。そんな議論から、大人たちが小学生時代の忘れられない体験から考え出された、私の街の自信養成イベント「小学校卒業記念ナイトウォーク」。6年生を対象とし、27キロのコースを夜10時に出発して、深夜の都心を歩いて回ってくる。その目的は、自信を身に付け強く生きるための力を培うことだ。
 今年で11回目を数え、今回は、過去最大の参加者数で、対象となる子どもたちの約65%の267名、支える大人たち298名、総勢565名という規模で実施した。下級生たちも卒業の時は自分たちもと待ち望み、街の大人たちも、学校、家庭、そして地域のいろいろな団体、職業の人たちが結集し、それぞれ工夫を凝らし、子どもたちを楽しく、安全にと全力で支えている。また、第1回参加の6年生が、社会人となり、若い人が実行委員となって支える新たなシステム化の芽生えも見えた。
 取り立てて特徴のある街ではないが、次代を担う子どもたちを強くただしく育む「小学校卒業記念ナイトウォーク」を通して、街の人づくりの輪が大きな広がりとなっている。


徹夜で安全誘導に奔走する街の大人たち

 最初に、今年実施したナイトウォークの概要をご紹介したい。
(1)事前準備
 約6か月前・平成15年10月、小松川、平井両青少年育成地区委員会を中心に、大人のみによる実行委員会を設立。数回の会議を重ねる中で実施案を決定した。実施案の骨子、開催主旨については、@子どもたちを屋外に連れ出す。
Aチャレンジする心を育む。
B冒険する気持ちを体験させる。
C仲間と行動を共にする喜びを知る。
D成し遂げた感激を味わう。
と設定した。
 参加対象は、16年3月卒業生とその父母。参加費用は、保険代等300円とする等と定め関係先への実施協力依頼をした。また、学校施設の使用届、警察署への道路使用願い、消防署への火器使用願いを提出、医師にはボランティアとして同行依頼をした。
 実行委員の役割分担は、本部、班リーダー、歩行リーダー、安全誘導、タイムチェッカー、医療班、受付、接待等とした。そして学校等を通じての参加者の募集。実地踏査、全体会で担当別の役割等を最終確認、そして実施の1週間前に参加者へのオリエンテーションを開催し、参加する子どもたちと班リーダーとの顔合わせ等を行なった。
(2)実施
 3月27日(土)、夜9時過ぎ、各役割を担う実行委員の準備も完了。出発地の小松川小学校体育館には、友だちと楽しそうに子どもたちが集合。それに反し不安げな顔で見送りに来る親たち。受付でゼッケンをもらい6、7名で編成された班ごとにミーティング、そして出発式。江戸川区教育長、地域7小学校、3中学校の校長や教頭、地域選出の各級議員、町会・自治会の方々等の激励、見送りを受け、夜10時の時報に合わせて、1班から順次43班までが元気に出発した。コースは、例年どおり、主に幹線道路の歩道を信号に従って進み、列の先頭の歩行チーフは列が乱れないように速さを調節しながら進行。一方、車道には、各交差点でピカ棒を振って安全誘導を担当する車、全体を把握する本部車、人員や時間をチェックするタイムチェッカー、健康状態を見守る医療車など歩行担当以外の役割を担う実行委員たちの車が伴走。班リーダーは子どもたちの様子を見ながら、通過地点、名所旧跡の説明にも当たる。
 午前0時40分、九段坂上で最初の休憩をした。出発からほぼ10キロ、各自持参の夜食をとった。休憩後は、満開の夜桜を仰ぎながら皇居のお濠に沿って最高裁判所、国会議事堂等を望みながら数寄屋橋、銀座4丁目と進行。深夜も灯るショーウィンドーの艶やかな銀座通りに驚きの子どもたち。
 午前2時20分、隅田川永代橋のたもとで2回目の休憩。出発から約17キロ、ゴールまであと10キロ。接待の方々が用意してくれた軽食や飲み物をいただきながら大川端でしばし疲れをいやした。
 まもなく小川を暗渠して作られた長い仙台堀公園通り、夜明け前の満開の夜桜を見上げながら進行。この辺は丁度胸突き八丁といった頑張りどころ。疲れもピークの様子の子どもたち、各班はみんな一緒にゴールとの決まりに合わせ、各班が一緒になって進む。
 午前5時40分過ぎ、出発地の小松川小学校に先頭のグループが到着。そして6時過ぎまでに全員が到着。保護者たちの拍手に迎えられて体育館に入り完歩証を受け取る子どもたち。完歩できた子どもの姿に目を熱くする親たち。疲れた身体にもかかわらず完歩の感動に溢れた声で互いの健脚をたたえ合う子どもたちの姿、再びにぎやかな声が体育館に戻った。


文化、スポーツ行事は全町一緒が基本の私たちの街

 私たちの街、江戸川区小松川、平井地区は、江戸川区の西端に位置し、区内で最も都心に近く、また、荒川、旧中川に囲まれた4平方キロ程度の島状の地域で、2町だけで構成されている。住民は、両町で約6万3000名、7小学校で児童数は約2700名、3中学校で約1100名の生徒数といったこじんまりとした地域でもある。こうした地域特性から、二つの地区委員会、50の町会・自治会、10校のPTAなどの活動も連合や協同で活動、また、ふるさとまつりや運動会、スポーツ大会などは、幼児から高齢者までの参加を基本に、全町が一つになって活動するのがごく自然な形となっている。


子どもたちの健康管理面等が懸念された中で発足したナイトウォーク

 第1回のナイトウォークは、平成6年春の実施である。当時は、青少年委員の会合などで、春休み中における子どもたちの問題行動等が議論され、この歳頃の思い出に話が及んだ。
 田舎の学校の行事で、友だち同士で助け合いながら一晩中いくつもの峠を越えて歩き続け、目的地についた時にみた日の出のすばらしさ、友だちの紅潮した顔が忘れられない。また、ボーイスカウトで、上級生に助けられてやっと完歩できたオーバーナイトハイキングが忘れられないといった熱い思いが語られた。
 こうした体験を基に青少年委員によりナイトウォークの実施が検討された。現行の方式がとられた理由は、@誰でも参加できる、A多様なコースがとれ挑戦的な要素が持てる、B社会学習の機会となる、C道路が広く明るくて安全、D夜間で支援者の使用に支障が少ない、E仕事への支障が少なく協力が得られやすい等の理由である。
 ナイトウォークの検討素案をもって、地域諸団体、学校、PTA等に相談した。話し合いの中で、特に学校側から、子どもたちの健康管理面、生活リズムヘの影響、夜通し長距離歩行の体力、あらゆる事故への対応等からの懸念が示された。賛意を得るには至らなかったが、地域諸団体の方々から面白い、ぜひ協力したいとの意見も寄せられ、学校教育では難しいことだからこそ地域教育で子どもたちの可能性を引き出そうということになった。


ナイトウォークで広がる街の和と輪

 第1回のナイトウォーク開催により、子どもたちの挑戦、大人たちの取り組みが地域で高く評価された。その後の実施形態は今回とほぼ同様であるが、実施規模は、回を重ねるごとにより広がりのあるものとなった。第一は、取り組みの主体は、小松川、平井両青少年育成地区委員会を中心とした実行委員会に、そして学校ぐるみの参加や江戸川区教育委員会の後援、エフエム江戸川ラジオの夜通し中継等。第二は、参加者数は、平成6年春の第1回は、6年生は当地区7校の在校六年生の30パーセント弱の126名、保護者39名、実行委員46名、総数221名から、平成16年春の第11回では、前述のとおり総数565名となっている。


実施の効果と将来展望
 子どもたちの感想は、ナイトウォークで頑張った歩みを通して、初めて見た深夜の都会の様子、達成できた感激、友だち同士の励まし合い、あきらめずに頑張り通せた自信、そして多数の大人たちが安全確保に奔走する姿等、いつまでも心に残る多くのものを掴みとってくれたとの内容が語られた。
 子どもたちは未知の力を有している。人が生きていくために必要な心得を体験を通して引き出す、街の自信養成イベントを通して、力強くただしい自信に満ちた子どもたちを、引き続き育んでいきたい。