「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

ロマンと冒険の森づくり
新潟県長岡市  赤城コマランド

◆現代杜会の窮屈な子どもたちに、危ないことや秘密のこと、ちょっぴり悪いことも体験させて自然の中でのびのび育てようと、冒険遊び場を作っています。でも、借りた里山はひどく荒れていて、森の再生も同時に進めています。楽しく遊んでいたら、いつの間にか人も森も豊かに育っていたという、肩のこらない活動を展開中です。


10ヘクタールの里山を遊び場に

 農家の駒村さんから土地を借りたのでコマランド、赤城は近くの神社の名前です。ネーミングの通り、どこにでもある市民サークルです。“行政とは仲良くしますが頼りません”をモットーに、清貧で、開かれた運動を目指しています。最初3000坪からスタートしましたが次第に周囲の共感をいただいて、活動エリアは3万坪に広がりました。

 この森には指示も義務も禁止もありません。ロマンと冒険の森づくりのテーマに沿う限り、誰が何をやっても自由です。自分で考え、決め、責任をもって行動するのが、ここのやり方です。管理主義や過干渉から子どもも大人も解き放たれて、大自然の中で自由と責任の両立を目指します。

◆毎年春と秋に植樹会を催し、すでに延べ2473名の方が4800本あまりの苗木を植えています。会場では“楽しく遊べ”をモットーに多彩なイベントを行い、マタギ鍋やバウムクーヘン、くんせい、ピザパイなども作ります。たくさんの人々を楽しく森にいざなうために、植樹会の企画には工夫をこらします。

 私たちは、公園のようにこの森にお金をかけられません。ブランコもトランポリンも秘密基地も、みんな子どもたちの手作りです。高さ8メートルのツリーハウスは大人も手伝って半年がかりでこしらえました。コマランドは公園と違って、やろうと思えば何でもできます。子どもたちが作ると、自然にとけこむように佇むから不思議です。

 大人たちも灌漑池を掘ったり、不法投棄物を回収したり、車椅子用の道やトイレを作ったりと負けてはいませんが、そのうち子どもたちが混ざってきて邪魔してしまいます。大人にとっての面白い仕事は、子どもにとってもひどく魅力的な遊びなのでしょう。今年は地区の小学校の総合学習支援や、ログハウスの建設に挑みます。

◆かつて人は、生きる糧を求めて森に入りました。私たちは今、心の糧を求めてこの森に入ろうとしています。ここで遊びを知らない子どもたちと、少し遊び足りなかった大人たちが、等身大で本物の“コマランドワールド”を創り出そうとしています。その夢を実現するために、現代文明に見捨てられたこの森を救いたいのです。

 行動には動機が不可欠です。私たちはこの森が必要だから、間伐や下草刈りや植林をしています。かつて生活の糧であった森がそれゆえに良い状態を維持できたように、たくさんの心ある人々が森に入ってゆくことで里山は甦ります。人と森との接点に、植物も昆虫も動物たちも多様な生態系をくり広げるはずです。

 緑に包まれて安らぐのは、ヒトがむかしサルだったからでしょうか。秒刻みに情報の飛び交う現代社会の中で久しく忘れていた思いを、この森は私たちの五感を通して呼び覚ましてくれます。子どもたちは森の中を自由自在に駆けまわって、まるで進化の過程をたどるように、感性や創造性や社会性を身に付けてゆきます。

◆最初この活動は地区だけのものでした。でも大自然と対峙してその惨状を知るにつけ、これはもっと大勢の人が集まって、大きなうねりとなって取り組むべき事業だと気付きました。私たちはこの森をあらゆる人々に開放しています。そして未来のために、みんなで歩んでゆきたいと思っています。

 自然保護だけに囚われても、遊びばかりに偏っても、この運動はうまくゆきません。あくまで「遊ぶために、森を育てる」という必然性に沿った活動がポイントです。それを、なるたけ多くの人々にアピールして共感の輪を広げてゆきたいと考えています。運動の裾野が広がってゆけば、世の中もちょっぴり変わるかもしれません。

 お金のかかることはできませんが、パンフレットだけは発行しています。子どもたちの現状と、里山の惨状と、私たちの思いと、未来へのビジョンを、世に問い続けたいのです。知らなければ何事も始まりません。パンフはコストダウンのために小学校や公民館の機材と人を総動員して、工程の全てを手作りで頑張っています。


里山の再生と冒険遊び場づくり

◆私たちは、ひと握りの子どもを専門家やリーダーに養成する気はありません。手を挙げて来る子にだけ英才教育を施しても世の中は変わりません。大多数の来ない子をどうするかが重要な問題です。虫が嫌いな子や、汚れるのがイヤな子、他人と付き合えない子。迷える現代社会の子羊たちを、この森に誘いこむ方法に知恵を絞ります。

 諺の英国人のように、歩きながら考えたいと思っています。能書きや思い付きや虚飾を避けて、行動と検証を繰り返しながら、現実的に実効のあがる活動を心掛けています。よその知識や学問や理念をそのまま移入するのではなく、赤城コマランドの精神風土に最も適したやり方を、自らの手で模索しています。

 論評や批判はしません。誰もが一番良いと思うことをやっているのですから独善的な押しつけはご法度です。それよりも、生まれてから死ぬまでの間に何を為すべきかといった、自分自身の命題を追及しています。悠久の生命が宿る森の中で、ほんの瞬くほどの人間の一生の、そこに課せられた役割を常に考えています。

◆とは言っても、楽しみながらちょっぴり世間のお役に立つ達成感で、みんなやる気充分です。子どもたちも似たような感覚を抱くみたいです。ここで遊んだり働いたりする誰もが、とても満足そうな顔をしています。単に求めるだけではなく、与えることのできる素晴らしさをこの森は教えてくれます。

 常連のマタギ衆が約70名、ここで遊ぶコマランダーが約1500名。みんな赤城コマランドの心ある仲間です。組織は極めてシンプルで、会費はもらいません。とにかく来てくれれば感謝、来なくても誰も文句は言いません。出来る範囲での最大級の協力という、気軽な連帯感で楽しく友だちの輪を広げています。

 私たちの活動は、子どもたちと地球の未来に直結していると考えています。時には苦労もあるけれど、その先には誰も到達したことのない愉しみが待っていると確信しています。『里山を再生しながら冒険遊び場を創る』というイタズラ小僧どもの悪企みに、あなたも1枚かんでみませんか。心から歓迎いたします。