「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

「心に残るふるさとづくり」への挑戦
富山県砺波市  林公民館ふるさと部会
子どもたちに心に残る思い出づくりを

 社会的、経済的にも少しは責任が軽減し、孫たちとのテレビチャンネル争いに一喜一憂の日々でほっと一息をつく今日のこの頃です。
 夕日を背に赤とんぼを追っかけ、うちわと虫かご持って蛍狩り、暮らしの大切な必需品だったソウケ(竹で編んだザル)をそっと持ち出しドジョウやフナ・シジミ・ババ貝を採り、白つめ草やレンゲ草の花で首飾り、オオバコの穂相撲、豆の葉のパッカン、いろいろな草笛、笹舟、幸せ願って四葉探し、竹を使っての遊び道具、竹とんぼ、竹馬、弓矢、水鉄砲、などなど数え切れないほどの自然を材料に工夫して遊んだことが懐かしく思い出されます。
 一方その傍ら、スポーツ少年団や習い事、テレビ、ゲームにと多忙な孫たちの姿があります。孫たちを通して感じることですが、めまぐるしく変わる情報社会に生きる今の子どもたちは、頭でっかちで一見知識人らしく見えます。お金さえ出せばなんでも手に入り、流行の玩具やゲームを次から次、使いこなす間もなく新しいものが出てくる。自分で工夫して作り上げたり、出来上がりのモノをより楽しく、より高度に遊べるように考えて、ワクワク、ドキドキ体験を味わうことがありません。また、全て使い捨ての現代では、モノの大切さ、愛着心も希薄、大人たちの考え方や価値観の多様化にとまどい、子どもらしさが失われているように思えます。
 この子たちが、大人になり……今の私のように、ほっと一息ついた時に、子どもの頃の思い出として、何を残すのでしょうか?
 子どもたちには、心に残る思い出づくりの機会をできるだけ多く作ってあげたい。そのような場こそ子どもたちにとっての心のふるさとになると考えます。
 そこで、『子どもは子どもらしく』の気持ちを同じくする、林公民館のスタッフおじさんたち(40歳半ばから50歳前半)の『心に残るふるさとづくり』への挑戦が始まります。


まず自分たちのふるさとを知る活動

 『心に残るふるさとづくり』とはまず、今住んでいる地区を愛することが大切。平成6年度、私ども公民館では、「地域の子は地域で育む」を基本にして、子どもたちを中に巻き込み、ともに活動することにしました。まず、自分たちのふるさとを知る活動として、歴史を訪ねて各地区を歩く会や、昔話を絵本にしたり、敬老会や公民館まつりに昔を再現した寸劇を演じたりして子どもたちに伝えるようにしました。また、昔の農業をお年寄りにお聞きし、平成10年度には、ふれあい農場を開き、お年寄りに習って、昔の農法で田や畑作りにも挑戦しました。農業は自然(天候)との戦いが不可避、苦楽をともに味わいながら、子どもたちには、特に楽しいことを中心に今も続けています。例えば、収穫物の食体験イベント、代掻きには、どろんこ運動会、農場の水路にめだかやふなを放してその2世、3世の誕生など、子どもたちの心を弾ませていると思っています。


夏休みに「わんぱく村」を開設

 平成13年7月、もっと『子どもは子どもらしく』のおじさんたちの挑戦は続きます。今できること、自分たちのわんぱく少年時代にタイムスリップし、子どもたちと共有の自然の中で、ワクワク、ドキドキしながら、ともに知恵を出し合い、思いっきり遊ぶことこそ今の子どもたちに必要で、それを自然体で伝えたいと考え『わんぱく村』を開設することになったのです。運良く、当村小島地区内に自治会管理の大きな屋敷跡小林広場を借りることができました。小林広場は周りが多種類の竹薮で覆われ、大きな杉の木があり、それらに絡みつく葛、トンビ、カラス、フクロウの巣、イタチ、蛇など薄気味悪く1人ではなかなか近寄れない小ジャングルのような空き地で、わんぱく村には格好の場所なのです。
 参加募集はチラシをつくり北部子ども園、北部小学校を通じ配布しました。果たしてどれだけの子どもたちが集まってくるのか…。数日前からおじさんたちが勤めを終え、小林広場に集合。草刈り、防除、わんぱく基地の構想を練ったり、準備に余念がありません。わんぱく村の掟が作られ、村長さんは公民館長さんになってもらいました。
 いよいよ当日、20日(海の日)おじさんたちは早朝5時30分に集合。子どもたちを迎える準備をしている様子は、ワクワク、ドキドキ、まるでわんぱく少年そのものです。雨天の場合は次の休日にと計画していましたが、幸い快晴に恵まれ、順調に進めることができました。
 8時30分、徒歩や自転車で子どもたちが集まってきました。掟に従い、ゲームボーイなどは村の中へ持ち込むことは禁止です。ちょっと不服そうな子どもたちも、すぐにおじさんたちのリードに従いました。幼児、児童、大人総勢150人、それぞれができることをし、竹薮の竹を使って、遊び道具や食器、箸などを作ります。まず、竹選びから、竹切り、竹割り、竹磨き、のこぎり、のみ、なた、小刀などの道具を使っていろいろなことに挑戦です。わんぱく基地、ぶらんこ、竹のしなりを利用したぶらさがりぶらんこ、竹渡り、弓矢、竹馬、竹とんぼ、水・空気てっぽう、流しそうめんのセットもみんなで作りました。わんぱく基地からのワイヤーリフトには、子どもたちの歓声がしきりです。お昼は、みんなで作ったカレーライスと流しそうめんです。自分で作った箸、器での食事はまた格別の味です。
 幼児たちは蟻の巣を見つけ大喜び。オオバコの穂で相撲をしておおはしゃぎの母と子。四葉を見つけ幸せそうな女の子。小刀で手を切り血がにじんでいても平気な男の子。「来年もあるよね。」と遊び足りなそうな子どもたち。子どもたちには、初めての体験も多かったはずです。
 おじさんたちの久しぶりのわんぱく少年ぶりは、子どもたちとの距離をなくし、子どもたちとの信頼をとても深めたようです。
 平成14年度は、7月27日(土)に実施しました。わんぱく基地をさらに充実、野外パン(ジャングルパン)作りも人気です。児童クラブの行事と重なり参加者が少ないのではと心配しましたが、人が人を呼び新たな参加者も見られ、160人ほど集まり楽しいわんぱく村を作り上げました。特に、嬉しかったことは、6年生の子が幼児や1年生の小さい子どもたちの箸や器を作ってやっていたことです。
 そして、わんぱく村が終わっても、危険な遊具を除いて、夏休み中はいつでも遊べるようにしました。おじさんたちは、時々様子を見に来ては、遊具の点検をして下さいました。
 平成15年度は、7月26日(土)に実施しました。参加者は180人。新たな遊具作りは、6月の〈新緑を歩こう会〉で子どもたちが楽しく遊んでいた遊具を参考に、おじさんたちが知恵を出し合いました。ちょっと危険そうな遊具が大人気でした。また、ワイヤーも2本張って、1本はいつものタイヤリフトに1本はタイヤぶらんことして大活躍。竹筒のシャボン玉にも歓声。ほほえましい2人ぶらんこに、おじさんたちの笑顔もひときわ目立ちました。今年も危険な遊具を除き、子どもたちの夏休みの楽しみを残しました。子どもたちとは、もちろん来年のわんぱく村を約束しました。


終わりに

 40〜50歳代前半のおじさんたち、地域、家庭、仕事全般に重責を負う年代。多忙な時間をさいて、子どもたちの思い出づくりに一躍、自らも楽しんでしまうおじさんたちには本当に脱帽です。
 このことは、参加した子どもたちには、自然の大きさを知り、遊びの中から自然体で感性を磨き、豊かな創造性を育むことと思います。そして、自然遊びの中で体感したことは一人ひとりの心のふるさととして脳裏に刻まれることでしょう。これからも、わんぱく村のみならず、子どもたちと共有の自然と関わり、自然に遊び、自然から学び、健全に心身を育み、偉大な自然を大切に思う心を育てていきたいと考えています。