「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

薪能の上演を中心に和歌の浦のふるさとづくりと能狂言文化の振興
和歌山県和歌山市  特定非営利活動法人和歌の浦万葉薪能の会
 「ふるさと 和歌の浦」は、山部赤人の時代から景色の美しさを讃えられ、その後は京都の公家たちが、玉津島神社の祭神である衣通姫を和歌の神様としてこぞって拝した。江戸時代には、東照宮に徳川家康が祀られ、その霊を慰めるための「和歌祭り」が発祥する。紀ノ川が和歌川に流れ込んでいた頃は、軍事的にも重要な地であったという和歌の浦。1952年には「観光百選海岸美日本一」となった。この他にも様々な歴史や文化をいたるところに宿している和歌の浦。和歌の浦は和歌山人が大いに誇れる「わがふるさと」ではないだろうか。


秋の風物詩「万葉薪能」

 NPO法人「和歌の浦万葉薪能の会」は、そんな和歌の浦にふさわしい文化の創造をめざして活動し、新しいふるさとづくりに取り組んでいる。多くの市民や地域住民、諸団体、地元能楽師の支援や協力のもとに「万葉薪能」を毎年開催し、能・狂言を上演してきた。過去5年間、片男波公園野外ステージに毎年毎年、千数百人もの入場者を迎えた。和歌山県内のみならず他府県の方々の参加者も年ごとに増加している。「万葉薪能」は和歌浦の秋の風物詩として定着してきたと思われる。その間「万葉薪能セミナー」や「ウエルカム笑空間」「百面の改修事業」等の様々な事集に取り組み、文化による和歌山のまちづくり、ふるさとづくりに取り組んで活動を続けている。
 神亀元年(724年)聖武天皇が訪れたことが契機となり、若の浦が日本の歴史に刻まれ、全国的に名が知られるようになる。随行した宮廷歌人山部赤人は、10月の晴れわたった海辺の珠玉の風景を目前にして、歌を朗詠した。その反歌『若の浦に潮みち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る』をモチーフにした新作能「鶴」(喜多流)が1996年に日前宮薪能で上演される。市民の中から、歌に詠まれたご当地―和歌浦片男波での喜多流能「鶴」の上演計画が生じた。
 1999年2月に「万葉薪能」実行委員会を結成。芸術文化による地域おこしと能・狂言文化の振興をめざした。第1回万葉薪能は、10月10日。火入れ式で篝火が焚かれ、舞台がはじまる。演目は薩摩琵琶「夕波」と喜多流能「鶴」で約1000名が鑑賞。幽玄の趣は好評を博し、毎年の開催を強く要望される。また、同時に同年「文化のまちづくりセミナー」を3回実施。文化やまちづくりについて学習を深め延べ100名が参加。
 翌2000年2月。「和歌の浦万葉薪能の会」を立ち上げ、地元和歌浦や片男波の住民も参加し、引き続き和歌浦で「万葉薪能」を開催することを決める。事務局は木村屋の協力を得た。2月に「阿漕が浦」(津市)、3月に「須磨」(神戸市)の薪能実行委員会と交流する。また、会の「趣意と活動」を決めて市民がボランティア活動で運営することを再確認した。「和歌の浦」「万葉」「能・狂言」をキーワードに「万葉薪能セミナー」を開催した。5月には、片男波地区自治会と協力して環境保全の活動をする。9月には「万葉の故地ウォーク」を行う。10月第2回「万葉薪能」を開催し、大蔵流狂言「太刀奪い」、喜多流能「鶴」を上演した。参加者による「万葉薪能俳句コンテスト」も実施。
 第3回は2001年10月。前座に「早月小学校々生による狂言」と「ようすい保育所の太鼓」を迎えた。能の演目は大蔵流狂言「太刀奪い」と観世流能「船弁慶」で1000名以上が充実した舞台を楽しんだ。「万葉薪能セミナー」は6回の開催で延べ300名が参加。新たな動きとして、「和歌の浦万葉薪能の会友の会」の会員を募集したところ多致の賛同を得た。スポンサー(協賛者)も募り、徐々に成果が表れている。「万葉薪能俳句・短歌コンテスト」を実施して100名からの応募があった。
 第4回の2002年は大蔵流狂言「蝸牛」と観世流能「葵上」を上演。1300余名の参加者で大入り満席。「万葉薪能セミナー」は7回実施して延べ400名が参加した。9月には「万葉薪能展」を開催し、能面と能の写真を展示した。多くの市民が「和歌の浦万葉薪能の会友の会員」及び「スポンサー」として協賛してくださった。5月には、活動全般を将来に向かって、より広範な協力を得て持続的・継続的に発展させ、新しい地域文化として定着を図るため、「和歌の浦万葉薪能の会」は「特定非営利活動法人」の設立を行なった。趣旨は、
@「薪能」を地域の人々とともに和歌浦の地で上演し、多くの市民が鑑賞することで、万葉の故地・和歌浦の歴史的景観を再確認し、和歌浦の活性化に寄与し、まちづくりや地域おこしに取り組む。
A多くの人々が和歌浦に関心を持ち、毎年和歌浦に集まることによって、すばらしい景観を満喫し、和歌浦の景観の向上にも努める。
B「薪能」の上演によって、世界文化遺産の「能・狂言」を、多くの市民が身近に毎年体験し、日本古来の古典芸能に理解と親しみを持ち、古典芸能振興をはかる。さらに伝統文化を次の世代に継承したい。さらに和歌山の新たな文化として普及・定着を図る。
C「和歌の浦」「万葉」「能・狂言」をキーワードに、セミナーや「俳句・短歌コンクール」などを催して歴史・文化の向上を図る。
 2003年度は5周年という記念すべき年を迎えた。記念事業として「狂言教室」―ウエルカム笑空間―を開催。次代を担う子どもたちにも伝統芸能に触れる場を提供し、そのすばらしさを感じ取ってほしいと願った。今年度は引き続き7月に狂言ワークショップ、翌2月に狂言教室を計画している。第5回「万葉薪能」は、大蔵流狂言「附子」と喜多流能「小鍛冶」で、1000名以上の市民が、万葉薪能は時々の降雨にもかかわらず、最後まで鑑賞し感銘を与えた。「万葉薪能セミナー」にも多くの市民が参加し、本活動の重要な推進力のひとつになっている。多彩な講師によって和歌浦の歴史や、能に関する話、万葉の故地やウォーク等々興味深いもので、参加者は増える一方で和歌山市民に定着し、期待されている。
 2004年度は第6回「万葉薪能」を10月10日大蔵流狂言「濯ぎ川」、観世流能「半蔀」を上演する。能・狂言能ともにワークショップを実施し、日本の伝統文化を体験する「万葉薪能セミナー」を開催する。
 昨年度、和歌浦の文化の掘り起こしの一環として、東照宮にある和歌祭りの代表的演目の百面(面被り)の改修事業に取り組んだ。市民から協賛金を集めて、能面文化協会の協力のもと19面を改修し、この3月に奉納した。和歌祭り保存会の皆様方の力によって面に命が吹き込まれる。今後この事業は、多くの市民の賛同を得て、毎年継続して取り組むこととなった。


今後の抱負

 また、今年度から和歌浦の自然を、豊かなものへ変身させる知恵を出し合い『高津子山を桜の山に』の活動を始めた。高津子山の清掃、整備、桜の植樹に取り組む予定である。行政や企業、自治会等地域住民の協力なしには進められない事業であり、関係諸団体と協働して推進したいと考えている。春を告げる山桜花に覆われた美しい高津子山を、夢見て今後息長く続ける覚悟である。
 本会は、日本の伝統文化である「能・狂言」を多くの人が身近に接し、そのすばらしさを感じとっていただけたらと願って毎年毎年活動してきが、こういった積み重ねが能や狂言文化の啓発・振興にもつながっていくものと確信する。「片男波公園」は海に囲まれ、松林を背景に「能」を舞うことができる日本でも有数の演能地である。10月初旬は和歌浦湾の海原に夕陽が沈み、片男波海岸の一番美しい刻を来場者は楽しむことができる。日頃の喧噪の世界から「静」の世界へといざなわれる。
 このようにNPO法人「和歌の浦万葉薪能の会」活動が地域に密着し、新たな事業を展開し、活動の輪を広げることによって、「薪能」というひとつの雫からはじまった和歌の浦の文化、歴史の再生への動きは、ふるさとづくりへの着実な流れを創り出し、活動が市民の中に定着していると実感する。今後、10周年を目標にして、世界遺産である「能・狂言」を和歌山の地により深く根付かせていくとともに、多くの市民にふるさと和歌浦のすばらしさを知ってもらえるように活動の輸を拡げていきたい。また、和歌浦の景観や歴史を生かしたふるさとづくりにより一層努めたいと決意を新たにしている。