「ふるさとづくり2004」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

日置コムケアの里づくり
山口県山口市  特定非営利活動法人まちのよそおいネットワーク
はじめに

 景観を通じて自分たちの生活するまちをながめてみようと、1992年3月任意団体として発足した私たちは、景観をキーワードとするまちづくりから様々な分野の市民主体の住まい・まちづくりへと活動を拡大させた組織へと発展させるため、2000年3月、NPO法人として再出発しました。様々な団体をつなぐ仲介役としての活動を展開することにより、持続可能な地域づくりを目指しています。
 その活動の一環として、山口県の北西部に位置する日置町においてコムケアの里づくりに取り組んでいます。「コムケア」とは、「コミュニティケア」を略した言葉です。「日置コムケアの里づくり」とは、日置町におけるだれもが気持ちよく生活できる循環型の地域づくりのことです。まだまだ具体化には至っていませんが、昨年の8月から取り組んできた活動についてご報告させていただきます。
 この取り組みの最大の特徴は、私どもが仲介役となって、地元の「日置町手をつなぐ育成会」「日置町商工会青年部」「日置町社会福祉協議会」と県内で循環型の暮らしを目指して活動している「NPO法人やまぐち里山人ネットワーク」「すろーふーどらいふ山口ネット和(のどか)」「山口県環境保全型農業推進研究会」との連携を図りながら進めていることです。さらに、全国ベースで活動している「コミュニティケア活動支援センター」「ローカルジャンクション21」とも情報交換しながら取り組んでいます。


その経緯は

 まず、経緯からお話させていただきます。
 昔の農村風景が現在に残る日置町が、循環型地域づくりを実現させる地域として最もふさわしいのではないかと考えていました。一方、地元では、障害者の働く場、また赤ちゃんから高齢者まで気軽に憩える所(いわゆる富山型民間デイサービス施設のようなもの。ここでは最近よく使われている「福祉コンビニ」と言います。)、さらにはボランティアが集える場を造ろうと、検討されていました。この両者が、コミュニティケア活動支援センターが行なう「コミュニティケア活動資金助成プログラム」によりジョイントし、「福祉・農業・食・環境の融合したコムケアの里づくり」ということになりました。


日置地域づくり検討会

 この日置コムケアの里づくりを検討するために、地元の関係者と循環型の暮らしを目指して活動している。山口県内の団体の有志からなる「日置地域づくり検討会」を設置しました。3回の検討状況を報告します。
 10月13日、第1回を開催しました。自己紹介の後、コミュニティケア活動資金助成プログラムでの公開最終選考会の結果について報告しました。現地調査の実施や地元の方々との交流会の開催について、NPO法人まちよそから提案させていただきました。その後、地元ではすでに3回打ち合わせを行ない、町にも相談しており、町から日置町の特別養護老人ホームや交流センターのある隣接の町有地はどうかといった提案があった旨、報告がありました。出席者の皆さんから様々な意見が出され、“コムケアの里”の大まかな方向が出されました。
 12月14日、2回目の検討会を開催しました。エコハウスやエゴマの取り組みを行なっている広島県福富町への先進地調査の提案をさせていただきました。次に、地元から、今までの動きがトーンダウンしてきたといった報告がありました。当面は交流センターの厨房などの改修により、仕出し・食事処として出発し、順次、町有地をお借りして、日置ダッシュ村(日置コムケアの里の愛称)を整備していこうということにしました。
 2月22日、3回目の検討会を開催しました。「元気な里づくりワークショップ」を開催するに当たっての最終調整のための検討会です。「日置コムケアの里づくり構想(第1次原案)」について再検討しました。その結果、「エゴマネー」の考え方に若干問題があり、今回の案からは削除しようということになりました。また、宮崎県都城市への第二弾の先進地調査について、精神障害者を雇用しているオーガニックレストラン「ティア風と虹の店」の調査を追加することにしました。


現地調査の実施

 11月23日、24日の両日、小春日和の中、馬蹄形の棚田越しの眺望を堪能しながら、水のゆくえの調査や地域資源の発掘に汗をながしました。今回の現地調査で次のようなことが分かりました。日置町や油谷町(西隣の町)になぜ溜め池が多いのか、なぜ棚田が馬蹄形の形をしているのか、神社の狛犬はどちらが雄かといったことです。天候に恵まれたため、ことのほか、棚田、海の眺めは絶景でした。無(減)農薬の野菜づくりを進められている「こだわり部会」の方へのヒアリングもできました。また、水を求める暮らしの一端に触れることも、地元の食材で活用すべきものを確認することもできました。いろんなことを発見することができた2日間でした。


先進地調査の実施

 先進地事例の調査を2回行ないました。その概要を報告します。
 第1回は、2004年2月1日の広島県福富町への調査です。社会福祉協議会が環境の問題にも積極的に取り組んでおられ、エゴマ栽培をはじめ健康を目指した農業に町全体で取り組んでおられます。福富町には、水質の良さ、水量の多さという「水」と自然と人間が程良く調和している「景観の良さ」といった、これからの時代にマッチした地域資源がありました。また、自分たちのやっていることをきちんと子どもたちへ伝える努力もなされていました。
 先進地調査の第二弾は、「共働農場“なのはな村”」(宮崎県都城市)とオーガニックレストラン「ティア風と虹の店」(福岡県広川町)の2か所での調査です。“はのはな村”は、少人数の家庭的な雰囲気で地域に溶け込み、支え合って暮らそうといった信念のもと、知的障害のある人たちと共同で、無農薬野菜の栽培とニワトリの平飼いなどを行なっていました。「ティア風と虹の店」は、精神障害者通所授産施設で、自然な雰囲気の立木の間に建つ瀟洒なレストランです。この施設は、目を疑うほど洗練されたセンスで構成されていました。


日置コムケアの里づくり構想とは

 「日置コムケアの里づくり構想(第1次案)」の概要について、ご説明しましょう。基本的な考え方は次の4点です。
◇ものごとを循環的な視点で考える。
◇福祉、農業、食、環境を一緒に考える。
◇食の安全・安心と健康志向を目指す
◇できる限り地元主義で考える
 日置の特性として、次の4点をあげています。
◇朝鮮半島に近い
◇地滑り地帯である
◇昔からの農村地域が残っている
◇景観のすばらしさ
 以上の点を踏まえて、計画案としては、拠点施設整備を中心に、次の10の提案をしています。
@仕出し・食事処の建設・運営
A無農薬による野菜の栽培
Bエゴマの栽培と活用
Cニワトリの平飼い
Dボランティアセンター・福祉コンビニの開設・運営
E特産品販売所の設置・運営
Fエコハウスの建設・運営
G体験学習・グリーンツーリズムの実施
H自然エネルギーの活用
I「日置コムケアファンド(仮称)」の募集
 上記の提案をつなげる仕組みとして、地域通貨“エゴマネー”(エコマネーとエゴマを掛けた造語です)を活用することも考えてみました。


元気な里づくりワークショップの開催

 昨年10月より検討してきた「コムケアの里づくり構想(第1次案)」を公表し、多くの賛同者や協力者を確保するために、2004年3月20日、日置農村環境改善センターにおいて「元気な里づくりワークショップ」を開催しました。果たしてどのくらいの方が参加してくださるのか大変不安でした。最初に来られたのはボランティア活動に参加されているお二人でした。後から分かったのですが、そのお一人が最年長の79歳の方でした。同じ町内にある県立日置農業高校の先生2人と生徒4人も参加され、開始時刻の午後1時には、30人以上となり、まずますの参加者数となりました。第1次案の説明の後、醇建築まちづくり研究所の牧所長によるワークショップとなりました。参加された方のほとんどが初めてのワークショップだったのですが、牧さんの巧妙な話術と周到な準備により、スムーズなワークショップとなりました。今回の最大の成果は、内容の検討はさることながら、地元のパワーの存在を確認できたことと地元日置農高との連携を進めることの可能性ができたことです。


日置地域づくり拡大検討会の開催

 「元気な里づくりワークショップ」で大まかな方向が見えてきましたので、実現化に向けた取り組みを模索するために、賛同者・協力者を加えた拡大検討会を5月8日開催しました。新たな視点の方にも参加いただき、具体化に向けた取り組みを進めていくことになりました。


現在までの成果は

 今までの取り組みの成果としては、次の三つがあげられます。
 第一の成果としては、日置地域づくり検討会での検討結果を「日置コムケアの里づくり構想(第1次案)」としてまとめたことです。日置コムケアの里づくりの方向をイメージしてもらうことができました。
 第二は、「元気な里づくりワークショップ」を通じて、地域の中に賛同者・協力者を確保することができ、懸案であった地元山口県立日置農業高校との連携を図ることの可能性ができたことです。拡大検討会には、日置農高の校長先生にも参加していただけました。
 第三は、2回の先進地調査で、具体的な事例を目にすることにより、地元の方々のやる気が一層強くなったことです。
 今後は、もっとも具体化しやすい交流センターの改修で実現可能な「仕出し・食事処」の設置をまず実現させ、町中心部の空き民家の改修による「ボランティアセンター・福祉コンビニ」の開設、さらに体験学習・グリーンツーリズムの実現に向けた取り組みを、いろんな団体と連携しながら進めていきたいと考えています。