「ふるさとづくり2004」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 内閣総理大臣賞

河川軸連携による県境を越えた地域づくり
岩手県・宮城県 北上川流域市町村連携協議会
はじめに

 岩手・宮城県にまたがり流れる北上川は、東北一の幹線流路249キロで、全国でも信濃川、利根川、石狩川、天塩川についで5番目となっています。流域面積は、1万150平方キロメートルで、利根川、石狩川、信濃川についで4番目の大河です。
 悠久の大河北上川は、昔から「母なる川」と人々から慕われ、人や産物を運ぶ舟運の経路として、稲作等の地域に根ざした産業の資源として、水辺に親しむコミュニティの場として流域の風土や文化を育ててきました。
 時を経た今、新しい地域づくりに向けて、豊かさ優しさに満ちた北上川を核として、交流・連携をしているのが北上川流域市町村連携協議会です。
 協議会は、北上川に接する岩手・宮城県の全市町村とダム湖等水面活動をしている市町村の36自治体が、共通の北上川をステージとして地域の活性化を図りながら新たな文化を創造し、より豊かで快適な地域をつくるため、平成9年4月に発足しました。


北上川の健康改善推進事業

 協議会の主な活動に環境問題への取り組みがあります。北上川流水域や河口域で顕在する水問題はその地の問題として捉えられがちでありますが、本事業は分水嶺から海に至るまでのテーマとして提起し、広大な流域全ての人々が一体で水環境改善活動を促進しながら市町村境及び県境を越え、官・民連携で事業を行なっています。
 「北上川の健康改善推進事業」は、川環境の健全化へのプロセスを人の身体に見立てて健康状態とし、手法として診断、治療、回復を体系的に行ない、環境意識への目覚めと流域交流を推し進めながら100年の長い時間の中で水循環と緑の復活をなし、川の健康体を回復しようとする事業です。
 そのなかの個別5事業を称し、「水環境5大事業」と位置付け、環境調査、環境研究、流域清掃、河口域清掃及び水源地の植林と水環境の健全化事業を組み立て、水源地から河口域までの交流・連携活動の中で活動しています。
・水環境5大事業
@「北上川の健康診断」(全流域:平成10年〜、6月〜11月)
 北上川の健康診断士(会員市町村の小中学生)が、年2回の定点観測による水質及び水生生物等(水質、水生生物、鳥類、昆虫類、ゴミ)の調査を実施し、調査ごとのデータ比較と原因調査及び改善の検討を行なっています。(15年度は、604名)
A「北上川の健康診断研究発表会」(岩手県水沢市:平成10年〜、1月下旬)
 北上川の健康診断結果を、上・中・下の3流域から健康診断士6グループが代表して発表し、流域により異なる状態などを学んでいます。(15年度は210名参加)
B「北上川一斉クリーン作戦」(全流域:平成9年〜、通年)
 北上川及び流入支川周辺の全住民を対象にした清掃活動です。環境の汚れとなる物の排除と景観の改善及び目に見える活動による意識啓発を行なうこととし、高水敷あるいは河川樹林に散在する生活ゴミ等を清掃しています。(15年度は8120名参加)
C「海岸清援隊」(宮城県北上町:平成12年〜、7月第2土曜日)
 河口域の海岸に打ち寄せられる川からのゴミを実見し、源流からつながる流れがもたらす問題を考える機会とし、全流域住民が協働で清掃活動と流域交流を行なっています。また、清掃後、健康診断士による地引網体験もあります。(15年度は600名参加)
D「22世紀ブナの森づくり」(岩手県胆沢町:平成13年度〜、10月上旬)
 源流森林の形成と流水量の安定供給、水質の健全化及び流域上・下流交流。胆沢ダム建設による採石跡に森を復活させるベく最終目標25ヘクタール、2万5000本のブナの幼木を植樹します。(15年度は500名参加)
 水環境5大事業以外の活動としては、15年度から「有用微生物(EM菌)による水質浄化実験」を行い、6市町村をモデルとしてEM菌を川へ投入し、悪臭やヘドロの減少の促進を行なっているほか「有用微生物(EM菌)を活用した生ゴミの肥料化実験」では、北上川の健康診断士を対象に、給食の生ゴミをEM菌を利用し堆肥化させ、さらにその肥料を使い野菜・花等の有機栽培を行ない、循環型の環境学習もしています。


環境活動以外の連携活動

 会員市町村の首長の施策交流・研修等を行なうため「市町村長会議・研修会」を開催しているほか、川の水質汚染は、流入支川によることが大きいことから、「北上川全流域市町村(会員外)ヘの環境事業への参加呼びかけ」、個別に開催をしていた「北上川ゴムボート川下大会(盛岡市)」、「アテルイ北上川自然発見カヌー・ゴムボート大会(水沢市)」、「みやぎ北上連邦北上川川下り大会(中田町)」を連携し、北上川固有の資源と魅力を活かしスケールメリットの大きい「北上川三大川下り大会」とし「河川行事連携化支援」などをしています。
 また、会員市町村の特産品を集めた「連携物産展」も開催し、河口の宮城県北上町では、北上川のヨシから和紙を作っており、その紙を北上川流域の学校の卒業証書に利用できないかとか、岩手県水沢市の南部鉄器は、街灯・レリーフ等温かみのあるまちづくりの資材として活用できるのではと提案もしています。
 昨年は北上川のテレビ中継にあわせ、流域の特色のある食を集め流域住民に提供した「北上川流域食フェスタ」を開催し北上川の食文化の全国発信も行ないました。


事業効果

 「北上川の健康診断」及び「研究発表会」は、学校の正規授業に組み込まれ授業の一環となり、児童は任意の参加と違って授業としての重要さを認識し、取り組みの姿勢が良くなりました。また、「海岸清援隊」及び「22世紀ブナの森づくり」は、学校週5日制に対応した総合学習の一つとして参加されるようになりました。
 当初は「海岸清援隊」及び「22世紀ブナの森づくり」は、健康診断士が中心でしたが次第に中高生、茶髪の若者や高齢者等の一般住民が参加するようになり、開催地の地元の人たちは毎年ワカメ汁やキノコ汁を作って待っていてくれる恒例の上下流域交流のイベントに成長しました。
 さらに事業を通じ会員市町村同士の繋がりも強くなり、源泉の岩手町の小学校と河口の北上町の小学校、水沢市の小学校と登米町の小学校等の交流活動にも波及しているほか、岩手町は源泉の地に、交流と連携のシンボルとなるよう流域36市町村の苗木を植樹し、川の駅を整備しました。
 当協議会の活動は、子どもと一般住民が混在しての事業が多く、世代交流等の機会となり年代を超えた活動の深みが感じられるとともに、子どもの活動は大人の環境への意識も、変えてきており、流域で大きな活動の広がりとなっています。平成15年度は、当協議会の活動も周知されてきており、「水環境フェア2003in宮崎」及び「第4回川での福祉と教育の全国本荘大会」での話題提供をはじめ、宮崎県議会総務企画常任委員会等の視察も相次いでおり、2県の県境を越えた市町村連携は全国的にも珍しく、連携により実施をしている「北上川の健康改善推進事業」等は、北上川の上下流問題を流域住民が同じ目線で考え行動することができる先進的な事業であり、広域的な官民協調事業の地域づくりでもあります。


北上川流域ブランド化の事業推進

 これまでの環境事業等で培われた連携の中で、16年度本格的な経済活動事業「まちの駅」にも取り組み、北上川流域市町村の情報発信・共有を行ない、市町村の特産品・食等の販売の拡大と北上川流域ブランド化を目指し、地域の活性化を図りたいと考えています。
 現在考えているまちの駅連携内容は、@他駅の特産(物)の購入支援、A他駅のイベント周知・参加、B共通の食の開発・販売、C他駅(市町村)情報発信、Dグリーンツーリズム等の宿泊の斡旋、E共通イベントの開催等ですが、まちの駅同士の連携を促進し、より良いアイデアで地域づくりを行なっていきます。