「ふるさとづくり2004」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

響け和太鼓サウンド 創ろう文化のまち
滋賀県 甲賀市(旧甲賀町)

 “くすりと忍者の町”甲賀町の夏の終わりの風物詩「和太鼓サウンド夢の森」は1998年に始まった和太鼓の野外コンサートで、6回目の昨年は来場者2000人を超えるイベントとなった。運営は和太鼓サウンド夢の森実行委員会という形で、地元和太鼓グループ「小佐治すいりょう太鼓」のメンバーが出演とともに裏方を支えている。また、一昨年に発足した地元の子どもたちによる和太鼓グループ「甲賀忍玉太鼓団」も出演し華を添えている。今までの大人のアマチュアグループとプロの和太鼓集団の演奏に加えて、昨年からは1部に子どもの部を設けて子どもたちに体験の場を設けるとともに、参加した子どもたちは前日から、大人はコンサート当日宿泊し和太鼓を通じた交流につながっている。
 会場となる「鹿深夢の森」は町が整備した文化・行政ゾーンで、保健センター機能を有する甲賀創健館に加え平成13年3月には図書館情報、そして今年5月にはかふか生涯学習館が整備されるなど、より充実したスペースとなっている。その中心にあるのが「文化創造のステージ」で、和太鼓サウンド夢の森はその野外ステージで行なわれている。


「すいりょう節」を太鼓で伝承

 滋賀県甲賀町は滋賀県の東南部、甲賀郡の南部に位置し、町の東北部から南部にかけ標高800メートル前後の鈴鹿山脈が連なり、それを境に三重県と接している。全国的には忍者で有名であるとともに古くから薬業が盛んで家庭向けの配置売薬が大きな産業の一つとなっている。また、数億年前は琵琶湖の底であったことから土壌は全国でもまれに見る重粘土質で餅米などが美味しい反面、米作りに大変な労力を要した地域でもある。現在でも伝わる盆踊りで町指定無形民俗文化財の「すいりょう節」の一節にもその苦労が唄われている。
 大人の和太鼓グループ「小佐治すいりょう太鼓」は甲賀町小佐治区に400年前から伝わると言われる「すいりょう節」を伝承していこうと和太鼓に創作、7年前に発足した。当初は小佐治区のメンバーを中心に活動を行なっていたが、現在はメンバーも町内全般にわたり、年間約30回の演奏活動を行なっている。2000年8月にはアメリカ・ミシガン公演を行なうなど発足当初から活発に活動を展開、和太鼓サウンド夢の森の原動力になるなど地域の元気な和太鼓グループとして広く知られている。
 しかしながらグループには満足な練習場所がなくとりあえず町の施設などで練習していたが、この夏には地元に農協の空き倉庫を利用した和太鼓の練習場「響きの館」が完成予定で、念願の防音の練習場で練習ができるようになる予定でもある。このように小佐治すいりょう太鼓の活動は地域においても理解され、町や自治会などの支援を受けている。


学校週5日制の受け皿にも

 一方、子どもたちによる「甲賀忍玉太鼓団」は完全学校週5日制が実施された平成14年度に小佐治すいりょう太鼓のメンバーの指導により発足、現在は小学生から高校生まで30名を超す子どもたちが活動を行なっている。当初は学校が休みとなった土曜日を中心に活動を行なっていたが、最近では土曜日の他に水曜日と金曜日にも練習を行ない、地域における子どもたちの文化活動の場であるとともに、異年齢の交流や青少年の健全育成にもつながっている。
 2年目の昨年は伝統文化の伝承を目的に「和太鼓・郷土芸能子ども教室」を開催し「すいりょう節」にも取り組み、子どもたちがすいりょう節の囃子を練習、郷土芸能の後継者づくりにも取り組んだ。今年は津軽三味線や篠笛などの和楽器にも取り組む予定で、和太鼓の演奏をはじめ幅広い活動を行なっている。
 また、町内の中学校では平成14年度から和太鼓を取り入れて授業を行なっているとともに、昨年からは小学校でも和太鼓を使った和のリズムの授業を行なうなど学校教育において和太鼓を通じて子どもたちが日本の伝統文化に触れている。その他にも最近では忍玉太鼓団の親たちが子どもたちの送迎の合間を利用して和太鼓の練習を始めるなど、和太鼓の輪はますます広がりつつある。


年々観客も増える和太鼓サウンド

 和太鼓サウンドは平成10年に鹿深夢の森を活用しながら町の文化を発信しようと町や関係者が実行委員会を結成し始まった。大きな会場で観客が集まるだろうかという不安の中、発足したばかりの小佐治すいりょう太鼓のネットワークを生かしながら、郡内の和太鼓グループや県外の和太鼓グループの参加により有料の和太鼓の野外コンサートとして行なった。結果は1000人を超す観客を迎え、初回としては大成功のイベントとなった。それから回を重ねるごとに観客も増え5周年の平成14年には1500人、そして昨年の第6回には一挙に2000人を超えるというイベントにまでなってきた。
 地元チームの他は毎回出演チームとゲストは入れ替わり、プロとアマチュアの競演のステージが町内外から多くの来場者を集めているとともに、恒例となったフィナーレの出演者総出演による「100人太鼓」が呼び物となっている。
 前回からは地元に子どもの和太鼓グループができたことから1部を子どもの部、2部を大人の部、3部をゲストという3部制にし今までと違った形のステージを披露した。そして1部の最後には今まで大人が行っていた100人太鼓を子どもたちだけで「子ども100人太鼓」として初めて行なった。
 子ども100人太鼓は子どもの部に出演した子どもたち全員で行なったが、事前から月1回、全部で5回の合同練習を行ない本番に望んだ。また、コンサート前日には最後の合同練習も兼ねて宿泊、交流を深めた。この子どもたちの事前からの取り組みは子どもたちの体験・交流活動、地域教育という意味からも大きく注目を集め、テレビや新聞など地元のマスコミなどでも大きく取り上げられた。
 今年も8月28日(土)の開催に向けて昨年12月から準備を進められているが、今回は合併前の町最後のイベントとなることから毎年7月に行なわれる地元の大鳥神社の伝統行事である「大原祇園」(県指定民俗文化財)の出演を予定している。以前にも油日神社の太鼓踊りをステージで披露したこともあり、和太鼓のコンサートではあるが地元の伝統文化と融合を図りながら地域の特色あるイベントを目指して企画している。
 また、毎年びわ湖まつりのフィナーレとして開催されている「びわ湖ヨシたいまつまつり」を今年は琵琶湖と離れた和太鼓サウンド夢の森会場で同時開催しコンサートを盛り上げながら琵琶湖の環境保全を訴える予定もしている。年を重ねるごとに和太鼓サウンド夢の森は規模が大きくなるとともに、内容もより充実したものとなってきている。


合併しても変わらず文化のまちづくりを

 このように甲賀町では「和太鼓サウンド夢の森」が行なわれている「文化創造のステージ」という名前のとおり伝統文化からまた新しい文化が生まれ和太鼓サウンドが町内に響きわたるとともに、和太鼓を通じた文化のまちづくりにつながっている。そして地域に伝わる郷土芸能から大人の和太鼓グループが、またそのメンバーの指導により子どものグループが誕生し、子どもから大人までが和太鼓を通じ日本の伝統文化や地域の文化に触れていることは大変意義のあることである。前述にもあるように子どもたちの親たちが和太鼓を始めたり、学校の音楽の事業などで和太鼓を取り入れるなどますます和太鼓の和は広がりつつある。
 甲賀町は今年10月に近隣の5町で合併し甲賀市となるが、地域に伝わる伝統文化と和太鼓を通じた文化のまちづくりは「和太鼓サウンド夢の森」とともにいつまでも引き継がれていくに違いない。響け和太鼓サウンド、めざせ文化のまち「甲賀町」。