「ふるさとづくり2004」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

「子育て」支援や青少年の健全育成
熊本県 水俣市
地域の概要と青少年育成組織発足の背景

 水俣市は熊本県の最南端に位置し、面積は163平方キロメートル、世帯数1万2447、人口3万313人、高齢化率27・9%(2004年4月)の過疎高齢化の進んだ都市である。
 この地では1956年に「水俣病」が公式発見されて以来、長い間水俣病問題と対峙してきたが、90年代に入ってようやく、市民と行政が協働で、環境と共生する社会や暮らしの構築に取り組むなど本来のまちづくりが始まった。
 一例をあげると、93年から実施されている、地域住民が自らの手を汚して行なう「家庭ごみの高度分別」がある。50〜100世帯に1か所ずつ、市内300か所に資源ごみステーションを設け、家庭から排出されるごみを一定のルールに従い20数種に分別する。全ての作業及びステーションの管理は地域住民に委ねられており、月1回行なわれる分別は、地域のコミュニティを復活させ、市内いたるところで「井戸端会議」ならぬ「ごみ端会議」が盛んである。まさに「地域ゴミニティ」の誕生である。
 こうした中、水俣病問題の解決と地域再生の過程で構築されたこの「地域コミュニティ」の力を最大限に活用して、地域全体で次代を担う子どもを育むことを目的に、全市的な青少年育成組織をつくろうという気運が高まっていった。


水俣市青少年育成市民会議の発足

 激しく変動する社会環境の青少年に及ぼす多大な影響、子どもを巻き込んだ凶悪犯罪の多発、家庭や地域社会の教育力の低下、いじめや不登校といった様々な課題に早急に対処することが必要になった。一方で、02年度から導入の完全学校週5日制への対応、新しい学習指導要領の実施に伴う「生きる力」の育成等、新しいテーマも発生した。これらに対して、学校はもちろんのこと、家庭及び地域社会にも、その受け皿としての機能が要求されるようになり、家庭・地域社会・学校が有するそれぞれの教育力の強化と充実を図るとともに、有機的な連携を促進することが急務となっていた。
 こうした状況を踏まえ、01年7月7日、地域ぐるみ、あるいは市民が一丸となっての青少年育成、ひいては「水俣の人づくり」を図るために、市長を会長とする水俣市青少年育成市民会議が発足した。折しも、設立総会当日は七夕の日。学校関係者、子ども会・行政区長会・婦人会・老人会・民生委員・まちづくり団体・体育協会等の代表、関係行政機関の職員32人が顔をそろえた設立総会では、全ての参加者が青少年の健全育成を誓い、天に願うこととなった。


活動の実際@―継続的活動
(1)「いい朝いいあいさつの日」
 組織発足後、最初に取り組んだのが全市的なあいさつ運動の展開であった。毎日の生活の中で、あいさつは、互いを認め、大切にする姿勢を示すことであり、家庭・地域・学校を結ぶ基礎になるものであると考えた。設立総会から4日後の01年7月11日に、「あいさつから始める人づくり」をスローガンとして、午前7時40分から1時間、市内15か所で真新しいのぼりと横断幕を掲げ、約500人が参加してあいさつ運動を実施した。これ以降、毎月11日の朝を「いい朝いいあいさつの日」と定め、市全域で元気な声が響き渡るようになり、あいさつによって人の心をつなぎ、明るい町と人づくりを促進している。
(2)「学校いつでも参観」
 子どもの育成に地域が関わるには、地域と学校の相互理解が必要である。そこで、地域の人々に学校に来てもらい、子どもの生の姿や学校の取り組みを目にしてもらう機会を創出することとした。「いつでも、どこでも、だれでも」を合言葉に、学校の授業や行事を一般住民にも開放し、学校に情報交換の場としての機能を持たせ、学社連携と融合を目指した。年度始めに、各学校に対して、保護者以外にも公開できる授業参観日、誰もが参加できる運動会や文化祭等の企画や情報公開を依頼し、事務局で集約・整理した後、「学校いつでも参観」というタイトルで、市の広報やインターネットを用いて周知している。
 ところで、この事業の実施について検討している最中(01年6月)、大阪府で小学校に侵入した不審者によって、23人が殺傷されるという残虐な事件が発生し、学校開放については賛否両論が出された。しかしながら、昨今の子どもの安全管理については、もはや学校だけではどうすることもできず、保護者や、地域の理解と協力が必要不可欠であるという結論に達し、地域と学校を結ぶ有効な手段として、「学校いつでも参観」に踏み切ることとなった。
(3)校区育成会での活動
 全市的な活動と並行して、7地区に分かれた各中学校区を基礎単位とする「校区育成会」を整備し、地域住民が主体的に青少年育成に関わる仕組みをつくった。水俣市は小さな都市ではあるが、その中に町部・山間部・中間的なエリアがあり、それぞれに異なった人口構成・自然環境・住民の気質・地域資源・地域と学校との関わり方等が存在する。そこで、これらの特性を存分に反映するとともに、「地域のおじさん・おばさん」が積極的に自分の生活する足元の「人づくり」に、参加する機会を創出することとしたのである。1校区につき水俣市青少年育成市民会議から3万円が補助されるが、これに各校区育成会の持ち出し分を加え、ナイトハイク・どんどや・世代間交流グランドゴルフ・夜間パトロール等、地域の実情にマッチした、きめ細やかな青少年育成が行なわれている。


活動の実際A―新たな展開

(1)「子どもの週末体験活動」の支援
 02年4月から完全学校週5日制が開始され、子どもが週末地域に戻ってきた。
 まさに、地域で子どもを育てる、子どもと地域住民が触れ合う、子どもに地域のことを教え、郷土愛を刷り込む絶好の機会が到来したのである。熊本県の委託事業を活用し、子どもの身近に存在する、地域のこと・昔のこと・遊び・食に詳しい人たちを発掘し「先生」としてデビューしてもらい、数多くの体験型プログラムを構築し、地域における「週末学校」を開校した。地域の有する資源を子どもの週末活動(一部は放課後活動)支援にどんどん活用していった。手作りプレイパークの整備、いかだ乗り、昔遊び、高校生が小学生に教えるソーラーボートづくりなど02年度に実施したプログラムは110、参加した子どもは約2550人、指導者としての参加は約300人、その他保護者・学校関係者・地域住民等の参加が約1280人で、トータルで4130人の水俣の人が本事業に携わった。これらに関する情報はホームページで閲覧できるようにし、実施後もその内容や参加者の意見等を分析しながら、さらに効果的な事業の展開を目指しているところである。
(2)「まちづくり子ども議会」
 子どもに市政や身近な問題点に対する関心を抱かせ、まちづくりに主体的な関わりを持たせるとともに、自らの考えを的確に話す能力を身につけさせることを目的として、03年9月9日に市議会の本会議場を舞台に「まちづくり子ども議会」を開催。市内全小学校の6年生23人が子ども議員として、市長を始めとする市執行部に堂々と質問や提案をした。議会に先立ち、宿拍研修1回を含む計4回の事前研修をワークショップ形式で行ない、従来の学校という枠を越え、自主的な学校運営、郷土水俣に対する問題意識を高めるとともに、民主主義の根幹をなす議会制度について学ばせた。なお、この「まちづくり子ども議会」は当初7月に開催を予定していたが、この時期水俣市は未曾有の集中豪雨による土砂流災害に見舞われ19人の犠牲者が出たため、9月に延期しての開催となった。子ども議員の積極的な姿が、災害に打ちひしがれた市民に大きな勇気を与えてくれた。


今後の展望と課題

 未来に向けてもう一度足元を見直し、地域社会の有する教育力を青少年育成に生かす、という基本的なスタンスは、今後も保っていかなければならない。
 また、「子どもの安全・安心な居場所」ということがよくいわれるが、高齢化率約28%の水俣市において、地域が青少年育成に関わっていくことは、一方で「大人の居場所」づくりを進めることにもなり、まちづくり・生涯学習の推進も同時に達成できると考える。