「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

愛して止まない田代島の振興
宮城県石巻市 特定非営利活動法人ひょっこりひょうたん田代島
田代島

 田代島は、石巻港の南東約17キロにある面積3・14平方キロメートルの島。人口はピーク時の1960年代に約1000人あったといいますが、今では、わずか100人余り。高齢化率は、実に8割を超え、平均年齢も70歳後半ととても高い。
 小・中学校は平成元年に閉校し、働き場所もほとんどないため、若い世代は島を離れてしまっています。本当に高齢者ばかりの島です。


NPO法人ひょっこりひょうたん田代島の誕生

 暗く沈みがちになりそうな島ですが、今、とても活発にふるさとづくりが行なわれています。
 そのきっかを作ったのが、島の周辺をフィールドにするヨット仲間が、中心となって、平成14年8月に設立したNPO法人ひょっこりひょうたん田代島です。ヨット仲間たちは、田代島を水や食糧の補給基地として利用しており、前々から田代島の悲しい現実を知っていました。無人島になってしまうかもしれない自分たちの愛する田代島を何とかしようと立ち上がったのです。
 しかしながら、島の人にとっては、よそ者としか見てもらえず、初年度は、島の人と一緒にみんなで島おこしをしたかったのですが、何もできずに終わってしまいました。
 その後は、まずは行動し、実際の活動を通して、理解を得ていかなければと思ってやってきました。
 田代島を紹介するマップを作り、インターネットのホームページも立ち上げました。県等と一緒に進めた事業では、刺し網やカゴ漁などの漁業体験の受け入れ窓口も担当しました。
 なお、NPO法人の名前の「ひょっこりひょうたん」は、NHKで放映され、人気を博した「ひょっこりひょうたん島」からいただきました。田代島が、「ひょっこりひょうたん島」の形にとても似ていたのと親しみやすい名前を付けたいという思いからです。もちろん、名前を付ける際には、原作者の井上ひさしさんから、ご了解を得ています。
 海を漂うひょうたん島は、ドン・ガバチョ大統領、海賊トラヒゲ、サンデー先生、博士などユニークな登場人物をのせて、ライオン王国、犬の国ブルドキア、魔女の島などにつぎつぎにぶつかりますが、そのつど皆で力を合わせてピンチを乗り越えては、また漂流を続けてゆきます…。ひょうたん島の波乱万丈の冒険は日本中の子どもたちをテレビの前に釘づけにしたばかりでなく、大人からも圧倒的な支持を得ました。
 このNPO法人も、そうなってほしいと考えています。


島のユニークなマラソン大会

 何と言っても、NPO法人ひょっこりひょうたん田代島が行なう一番大きい事業は、信号機が一つもない島で行なわれるマラソン大会です。
(キャッチフレーズ)
 信号機のない島で走ってみませんか?
 あるのは豊かな海の恵みと素朴な人情です。
 太平洋の展望と離島の景観を眺めながら
 日本一制限時間の長いマラソン大会を楽しんで下さい

 安全重視には、万全の構えで望んでいます。それは、自動車の規制です。島にある15台の自動車の所有者全員から、大会中は自動車を動かさないという誓約書を書いてもらっています。
 平成15年に開催された第1回ひょっこりひょうたん田代島マラソン大会には、わずか100人しかいない島に、県内外から5歳から81歳までの332人の方々が参加してくれ、田代島の豊かな自然と美しい海を満喫しました。
 初めは、冷ややかだった島の人たちも、この大きなイベントに驚き、取れたてのシャコを使った「海鮮汁」等を参加者に振る舞うようになっていました。島の高齢者とNPO法人ひょっこりひょうたん田代島の絆ができた瞬間でした。
 平成16年に開催された第2回マラソン大会には、207人の参加がありました。島の高齢者も、より協力的になり、シャコ汁の提供や島に伝わる太鼓も披露してくれ、参加者ももてなしてくれました。
 平成17年に開催された第3回マラソン大会には、約300人の参加がありました。参加者は、県内はもちろんのこと、東北各県、遠くは静岡県浜松市から老若男女が参加しました。
 田代島開発総合センター前を発着点に6キロと10キロの周回コースで実施。自然散策と健康維持などを目的にしたウォーキング(歩け歩けコース)を最初に、6キロ種目、10キロ種目の順に相次いで走り始めました。
 起伏が激しい難コースですが、海のそばを走ったり、自生し満開になったニッコウキスゲの花を見たりしながら力走。沿道では地元のお年寄りらが声援を送りました。信号が一つもない島のコースを参加者は気持ち良さそうに走っていました。
 ウォーキングコースの休憩所になっている三石観音前では、島の語り部・遠藤啓子さんが民話「海から上がった観音様」を紹介。参加者をもてなしました。
 走り終えた後は、島民有志から島特製の海鮮汁が提供され、疲れ切った体に栄養分を補給。昼食のおつゆとしても重宝がられました。小川勉理事長は「好天となり良かった。自然や人々の温かい気持ちなど島の魅力が参加者に伝わったのではないか」と話していました。


活発でユニークな島おこし

 毎年夏には、子どもたちを募集して、田代島マリンスポーツキャンプを開催しています。セーリングカヌー、ダイビング、浜辺でのキャンプ、体験漁業、ロープワーク等の海の体験が満載でした。子どもたちは新たな体験に目を輝かせていました。
 また、平成16年3月13〜14日には、島外の方を募集して、網地島の方々とともに、「田代島・網地島体験ツアー」を開催し、両島の魅力をたっぷりと伝えることができました。
 さらに、平成16年9月27日には、「元気イキイキ田代島事業」を石巻市と協働で行ないました。高齢化と人口の減少が進む同島の活性化を図る目的で開催されたものです。
 日帰りツアーで、市内の小学生親子などを対象に広く参加求めた結果、定員の2倍以上が応募したため、抽選が行なわれ、やむを得ず、10組23人を選び出しました。参加した方々は、豊かな島の自然に抱かれながら、定置網漁やヨットクルーズなどを体験しました。
 昼食は、取れたての新鮮な魚介類、島に自生しているアケビやイチジクをほおばりながら、島で暮らす高齢者との交流を存分に楽しみました。
 また、島の昔話の語り部のお年寄りが来てくれ、楽しい話や怖い話を聞かせてくれました。みんなが田代島に興味を持ってくれました。
 このように、NPO法人ひょっこりひょうたん田代島は、島の豊かな自然を活かしながら、ユニークな活動を継続して行なっています。


田代島の猫はちょっと有名

 田代島には、たくさんの変わった猫がいます。動物写真家の岩合光昭さんの写真集でも紹介されています。「猫は福を招く、大漁を招く」ということで猫をネコ可愛がりしましょう(とは、言ってないと思いますが)と、島の方々は、猫を大切にしようと猫神様をまつっています。


田代島の将来

 現在の人口は約100人で、高齢者だけが住んでいる小さな島です。数年後には無人島になっているかもしれません。しかしながら、NPO法人ひょっこりひょうたん田代島が蒔いた種が、島外の方の心に響き、新たな花を咲かせることができるように、一生懸命に頑張っていきます。
 田代島のファンも、様々な事業を通じて、増えてきており、手応えを感じております。
 何もない島ですが、ぜひ、田代島へおいでください。