「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

心のふれあうふるさとづくり―誰にも住みよい街に―
埼玉県東松山市 東松山女性のネットワーク
東松山女性のネットワークの誕生

 東松山女性のネットワークは、平成8年7月7目に発会式を行ない、地元東松山市を誰にも住みよい街にしようと活動を始めました。本会を立ち上げることができたのは、市民活動にとって時期的にまことにタイムリーだったからということができます。
 ひとつは、20年余の長きにわたって市政を担った市長が退陣して、平成7年に新しい市長が誕生し、新しい風が吹き始めたことです。新市長の公約に「女性施策の充実」がありました。従来この地域には、まだまだ男尊女卑の気風が残り、女性の声はなかなか政治にも地域活動にも反映されませんでした。同じように、意思が反映されない人々の声に耳を傾け、それをまちづくりに生かしたい、市長公約の実現には市民が市政に関心をもち、一緒に行動することが大切だと考えた女性たちがこのネットワークづくりの中心になりました。
 もうひとつは、東松山市には様々な市民グループがあって、それぞれ活動を行なっていましたが、他グループの活動は見えない、分からないというのが実態で、活動自体も人のつながりもバラバラだったのです。それでは力にならない、何とか市民グループのネットワークがつくれないかという気運が芽生えてきていたちょうどその時期、平成8年7月に「国際家政学会プレコングレス」が隣町の国立婦人教育会館で開催されるという話が舞い込んできました。そこで、多くのグループが実行委員会をつくって支援・協力することになり、女性が力をつけるためのグループとして「女性」を名称に盛り込んだネットワークが誕生しました。こうした国際会議に市民グループがかかわることはきわめてまれで、外国人研究者や日本人出席者から東松山市は素晴らしいと大変喜ばれました。ネットワーク側でも、女性学を専門とする参加者を招いて市民向けの講演会を開催したり、市と交渉してバスによる近隣の観光と市民との交流を実施したり、手づくりのオープニングセレモニーや交流・親睦のパーティを開いたり、それぞれの得意分野を生かしたボランティアを行なって、まさにギブアンドテイクだったと思います。東松山女性のネットワークは女性を全面に出してはいますが、男性たちも仲間に入り、まさに男女共同参画を目指したネットワークとなったのです。


本会の活動

 東松山市では市長の公約を実現すべく、女性施策の一環として「女性プラン」策定に向けて動き出し、市民委員を公募しました。本会でも男女会員を複数、委員とし、会での議論を反映させた形で市の「ひがしまつやま共生プラン」を策定し、それが最初の成果となりました。
 その他の具体的な活動としては、以下に述べるようなものを生み育て、定着させています。
@月1回の情報紙「耳をすまして」の発行と月1回の定例会開催
 最初に本会の活動として確認したのはいろいろな人の声を聞くことでした。逆に言えばそれぞれが自分の声を発する場を確保するということです。月1回の定例会と情報紙「耳をすまして」は、その役目を果たす場として位置づけられました。「耳をすまして」の命名者は若い男性でしたが、誰でも自由に投稿することができるようにし、毎月欠かさず発行して、平成16年12月には100号を数えるまでになりました。文章を書くのは苦手という人もいましたが、考えを綴ることで日頃の思いが整理され、自信がつきます。また、対立する意見を述べあって紙上討論のような展開になることもありました。市議会議員に原稿を寄せていただき、市民に議員のひととなりを伝える役目を果たしたりもしました。
 定例会では様々な情報交換が行なわれ、さらに相互支援と学習会等を通して、男と女、市民と行政、ハンディキャップのありなしなどを超えて、パートナーシップが広がり、深まりつつあります。こうした経験から活動の記録はきちんと残すべきだとして、毎年3月には「活動報告書」を作成し、1年の成果をまとめて、関係者に配布しております。
A「ゆっくりウォーク」の誕生と発展
 東松山市では毎年11月の3日間、比企丘陵を歩く「スリーディマーチ」という一大イベントが開催されます。本会でも「誰にも住みよい街づくり」を目指す中で、車いすやベビーカーで参加したい方たち、様々なハンディキャップをもつ方たちにその機会を提供すべきだと考えるようになりました。ノーマライゼーションの視点でまちを歩いてみると、道路も公園も役所も商店も障害者に決して優しいとはいえません。そこから、バリアフリーの街づくり運動が始まりました。まず、スリーディマーチに車いすで歩けるコースを設定し、ゆっくり歩こうねという意味で、「ゆっくりウォーク」と名づけました。はじめはネットワークの孤軍奮闘でしたが、現在では他グループや行政と一緒に実施するまでになっています。この活動を契機に、車いすトイレマップの作成、年間を通しての「ミニゆっくりウォーク」開催、小中学校での車いす体験ボランティア講座への協力等へと発展し、ハンディキャップをもつ方々とのパートナーシップの構築、ボランティアに対する子どもたちへの啓発活動へつながってきています。本会の会員にも経験の蓄積を買われて講師に依頼される人が出てきました。
B本会所属グループおよび個人への支援活動
 本会には現在18のグループおよび個人が所属しており、ゆるやかなネットワークをむすんで「できる人が、できるときに、できることを」する、というコンセプトで活動しています。
 また、グループおよび個人が「誰にも住みよい街づくり」のためにイベント等を実施する際にはできるだけ相互支援を行なうことにしています。たとえば、環境保護運動を行なっているグループの事業にも時間のある人は手伝いに行きます。また、地域を舞台にした児童小説の啓発活動やアニメ化された映画の上映会にはネットワーク全体で取り組みました。平成17年5月22日に行なったアニメ「雲の学校」の全国初上映には3600人の市民が集まり盛会でしたが、本会のメンバーも中心的役割を果たしました。これらはすべて、地域おこしの一環であり、「誰にも住みよい街づくり」活動だと考えているからです。また、車いす友の会の旅行やスポーツ大会への支援、市行事への参加、協力なども行なっています。


現在までの成果

(1)様々な相手とパートナーシップを構築できたこと
 本会と本会に所属する各グループおよび個人、本会に所属する各グループおよび個人同士、本会と他団体、本会と行政など、様々な相手と活動をともにする中で、理解を深め、パートナーシップを構築することができたと思います。このことは、相手の活動を支援すると同時に、自分たちの活動の幅を広げる、内容を深める、参加者を増やすことにつながり、個々にあるいは本会全体として、多くの成果を生み出したと考えております。
(2)東松山市をフィールドとして、地域に根ざした活動が広がったこと
 本会が目指す「誰にも住みよい街づくり」の街は東松山市であり、市民の一人として、会員一人ひとりが地域の問題を解決すべく、課題の掘り起こし、その方策を模索してきました。女性や障害者の声を地域や行政に反映させたこと、新しい様々な事業を展開して地域を元気にさせる役割も果たしたこと、調査結果をもとに車いすトイレの改善や新設を実現できたこと、「子どもと歩こう」活動や地域の小中学校でのボランティア活動等を通して、子育て・教育支援の輪を広げたこと等も成果のひとつと考えております。
(3)市政に対して様々な提言を行ない、少しずつではあっても市政に反映させたこと
 場外舟券売場誘致に関しては反対の意見書を提出し進出をくい止めることができたことやそのほか様々な提言を行なったり、各種審議会等の委員となって積極的な発言をしたり、行政の理解を得る努力をしたりして、本会の目的や事業を市政に反映できたと思っております。
(4)男女それぞれが能力や持ち味を生かした活動を行ない、力をつけられたこと
 活動を続ける中で、新しい企画を生み出す能力、確実に実行する方法、人間関係の広がりを本会としても会員個人としても手に入れることができました。とくに女性が力をつけ、大きなイベントを確実に成功させましたし、日々の生活でも「誰にも住みよい街づくり」を実践するようになりました。さらに市政や地域の風通しをよくしたことがこの10年の活動の成果ではなかったかと考えています。