「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

知的障害児でも参加できる『運動が苦手な子の教室』の開催
千葉県柏市 特定非営利活動法人スマイルクラブ

 当法人は2001年に設立された、運動を通して社会に貢献することを目的とした団体です。主な活動内容としては、『運動が苦手な子の教室』『健康体操教室』『スポーツ教室』『幼児体操教室』などがあり、参加者は450名ほどであります。今回、ふるさとづくり賞に応募するにあたり、とくに『運動が苦手な子の教室』について報告させていただきたいと思います。


運動が苦手な子の教室とは

 はじめに、具体的にどのような活動を行なっているのかをご説明します。教室は週に1回50分の指導を行ないます。参加する子どもは知的障害を持つ子どもをはじめ、その兄弟や障害がなくても運動が苦手な子も参加しています。一つの教室で5名から15名ほどの子どもが集まります。指導者は、元体育教師や体育の免許を持っている人、フィットネスクラブで指導経験のある人など、運動に関する専門家が中心となって教室の進行をします。そのほかにも運動の専門家ではないが、近所に住む主婦の方や、大学生などが指導のサポートを行ない、一つの教室で3名から4名のスタッフが協力しながら運営しております。指導内容は学校体育に準じる形で、マット、跳び箱、鉄棒といった器械体操やなわとびなどを中心に行なっています。そのほかにもサッカーやドッジボール、風船バレー、バスケット、バドミントンなどスポーツゲームも行なっています。同じ種目を1か月から2か月間継続して行ないます。教室の最初と最後は必ず全員でそろってあいさつをするようにしていますが、教室中は各自のペースに合わせて進められます。メインの指導者の指示に従って運動を行なう子もいれば、サポートのスタッフが個別に指導する子もいます。運動が苦手な子でもそれぞれのレベルに合わせた課題を達成することで、運動の楽しさに触れ、運動を好きになってもらおうということを考えて、教室を運営しております。そのため、どんな些紬なことでも、子どもができたときは必ずほめるようにしています。
 現在では柏市をはじめ、松戸市、取手市、水戸市、船橋市でも教室を開催しています。9か所、17教室に155名の参加者が集まっています。指導を担うスタッフも約50名となっています。


活動を始めたきっかけ

 運動が苦手な子の教室が始まったのは、法人化する3年前の1998年からでした。現在当法人の理事長である大浜あつ子が、知的障害を持った子どもの母親から、運動を指導してもらえないかという依頼を受けたのがきっかけでした。大浜は元々中学校の体育教師でありましたが、結婚・出産のため、退職しました。その後、養護学校や盲学校などで非常勤講師を務めたり、幼稚園の体育指導を行なったりしておりました。その経験を活かし、同じような経歴を持つ女性と2人で知的障害を持った子どもも参加できる運動教室を始めました。「知的障害児のための」運動教室にしなかったのは、自分たちは障害の専門家ではなく、あくまで体育の専門家であるという認識と、障害のあるなしに関わらず様々な特徴を持った子が一緒に集まれる場をつくりたいという気持ちからでありました。知的障害児を対象とした運動教室は、地域にそのような活動があまりなかったこともあり、口コミで広がり、開催場所も増えました。指導にあたるスタッフも、2人だけでは手が足りないことや、いつまでも2人だけでやっていては、自分たちが指導できなくなったときに活動が終わってしまうという意識から、積極的に指導者を集めました。大学生のボランティアサークルに声をかけたり、知り合いに紹介してもらったりして、少しずつスタッフも増えていきました。規模が大きくなり始め、この活動を責任を持って継続していきたいという気持ちから2001年にNPO法人格を取得しました。その後、取り組みが読売新聞に連載で掲載されて、参加者やスタッフがさらに集まるなどして、現在のような形に至っています。


教室を通した子どもの変化

 教室を通した子どもたちの変化としては次の三つがあげられます。一つ目は運動面での変化。二つ目は行動面での変化。三つ目が心理面での変化です。
 運動面での変化は、なわとびが跳べなかった子が跳べるようになったり、逆上がりができなかった子ができるようになったりといったことです。はたから聞いていたら、なんでもないようなことが、この教室で一緒に運動をし、指導をしていると今までずっとできなかったということがわかっている分、本人の喜びも大きく、また、指導者の喜びも大きいのです。子どもはできなかったことができるようになり、指導者にもほめられると、自信を持ちます。教室での態度も、今まで端のほうで目立たないようにやっていたのが、どんどん指導者の視界に入ってこようとするようになります。
 行動面での変化は、簡単に言えば、社会性が出てくるようになります。自閉症の子どもなどはとくに、自分なりの世界や感じ方を持っていて、毎回同じような安定した環境では落ち着きますが、不安定で、変化の多い環境では落ち着かないという場合が多いのです。ですので、集団という他人との関わりがあり、変化の多い状況ではなかなか落ち着かない場合が多く、1人で勝手にどこかに行ってしまうということもあります。そのような状態から、少しずつ集団の中にいることのできる時間が増え、指導者との関わりが取れるようになってきます。
 心理面での変化が大きいのはとくに障害を持っていない子どもです。はじめは、障害のある子を奇妙なものを見る目つきで見、「あっちに行けよ」なんて言っていた子が、順番を譲ってあげられるようになったり、スタートラインを自らほかの子どもより後ろにしたりするようになり、負けても「負けちゃった」と笑顔で言えるようになりました。


教室を通したスタッフの変化

 スタッフは毎回教室終了後に子どもの様子や指導の内容などについてミーティングを行ないます。そこでは自分が指導しているときは見えていなかった点がいくつも発見されます。1人1人の子どもについて今後スタッフとしてどのような方針で指導していくのかについて共通理解が図られます。このような取り組みを通して、はじめはサポートのみだった人が成長し、メインの指導をするようになってきています。また、はじめは知的障害者を見たこともなかったような人が、教室を通して関わりを持ち、障害に対する理解を深めるようになります。


まとめ

 運動が苦手な子の教室は誰でも気軽に参加できる身近な教室を開催することに成功しています。今まで、知的障害児を対象にした運動教室はありましたが、それは障害児の親が行なっているものであったり、個人的に行なっているものであったりしたためなかなか活動が広がることがありませんでした。スマイルクラブでは、活動を親や関係者だけで行なうのではなく、地域に住む人などを巻き込みながら活動が広がっています。これからはこのような形での活動が広がっていくのではないでしょうか?