「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

「地域株」発行で自立する、学校がコアのふるさとづくり
東京都足立区 通園・通学路花むすびネットワーク 東京都足立区
はじめに

 花とありがとうで人と人をむすび…。「花むすび」の活動も5年目に入りました。これまでの活動財源は95%を公的助成金に依存してきましたが、今年度の公的助成金は60%、来年度は10%以下になります。地域づくり活動はややもすると「助成金の切れ目が活動の切れ目」になりがちですが、私たちは、活動を継続するために「花むすび基金」を設立しました。近日に、ユニークな「地域株」を発行して、自立財政の確立を図るとともに、今までにない地域づくり参加のシステムを開発します。


活動の出発点

 平成13年度、足立区立第十一中学校の「開かれた学校づくり協議会」は、「花むすび」「音楽のまちづくり」「遊び」「寺小屋」「職業体験」の五つの行動プロジェクトを立ち上げました。「学校づくり」「子ども育て」「地域づくり」は一体のものと考えて、教師も生徒も親も地域も「みんなが得手とするところで、とにかく行動しよう、汗をかこう」という取り組みです。これらすべてのプロジェクトの先頭に立って行動する学校長の心意気に感じて、地域協力者もどんどん集まってきました。
 花づくりの好きな人たちは、「学校と通学路が花に満ちたふるさとの記憶を子どもたちに贈りたい」との情熱をもって、「花むすび」を始めました。


「花むすび」と名づけた由来

 「花と人との関係は、やがて人と人との関係に転化する」。これは、全国花いっぱい運動入賞者の的を射た言葉です。道ばたで「花」を植えていると見知らぬ人からもよく声をかけられて、次に出会ったときに「こんにちは」のあいさつをするようになります。「花」が人と人との縁をとりもちます。「花」は、人間共通の崇高な価値「美」を介して、人の心を癒し、人と人をむすび、絶妙なメッセージを送り届けます。人生の大切な局面には必ずと言ってよいほどに「花」があります。これらの「花の効用」を日常にもっと活用して、まちを楽しくするとともに、子どもたちを温かく見守る人々の「ネットワーク」をつくろう。こんな思いから「花むすび」と名づけました。


活動の構成員

 代表者・理事会・事務局の17名、各花壇の管理者40名、ありがとう委員会21名が核になって活動しています。PTAと地域協力者で構成され、現在では、足立十一中と近隣の3小学校(五反野小、弘道小、弘道第一小)との連携活動になっております。


具体的活動

(1)花むすび花壇づくり
 通学路沿いのいろんな場所(公園、道路、民家・交番の軒下、空き地、集会場の植え込み、畑のフェンス面、マンション敷地の一角、街角等)を借りて花壇をつくり、また既存の花壇と提携しています。現在、25花壇、合計面積300坪、通学路に面している長さは延べ800メートルになります。地域と子どもたちから「お花畑を通っているよう」と評されております。私たちの花づくりは、常に花の満開を求めるものではありません。芽生えて、若葉が繁り、花が咲き、実を結び、枯れて朽ちる。このすべてのサイクルを大切にしております。原則としてさく等を設けず防御しない、花でゆらぎをつくる、咲き乱れさせる…等によって、道ばたのストレス緩衝空間となる花壇づくりを目指しています。道ばた花壇の「枯れて朽ちる」様は、見る人にとっても作る人にとってもストレスになりがちですが、ぎりぎりまで放置するようにしております。花の枯れて朽ちる様をも受容できる地域は、子どもたちに「命のサイクル」を静かに伝えることができる環境であると考えております。

 次ぐ春に 命つなぐも 枯れてこそ
  こぼれし種に 雨がしと降る

(2)花むすびの日
 毎月第2土曜日を協働の日としております。

(3)花むすび交換市と茶会
 花壇には大量の苗を必要とするため、各人が種から育て持ち寄って交換する「市」をつくりました。毎年6月と11月に校内で開催、この6月で6回目になります。毎回、約20種約2000株が出品され、見学者にもプレゼントされます。現在は、種苗、土、肥料が交換できます。毎回300名前後の参加があり、同時に開催される「茶会」ととともに、地域から待ち望まれる恒例行事になっております。

(4)花手形
 上記交換市での交換通貨は「ありがとう」です。現金は使用することができません。しかし、通貨が「ありがとう」の音声ではうまく伝わらない場合もあって不便ですので、「ありがとう」を固定化・証券化して用いることにしました。それが「花手形=花むすびありがとう交換手形」です。この「花手形」1枚は、花苗1株、一定量の土や肥料、1時間のボランティア活動…と等価として交換されます。

(5)わすれな草の咲くふるさとづくり
 「学校」と「通学路」は「ふるさとの原風景」として子どもたちの記憶に深く残ります。その原風景をロマンチックな花で彩ってあげたいと、天空の青を引き写したように咲く「わすれな草」に着目しました。卒業生に100万本のわすれな草を贈ろうと、校内の植え込みや通学路の花壇に大量の種を蒔き、地域の方にも通学路沿いに咲かせていただき、また地域の方が育てて卒業式の朝に持ってきてもらう「わすれな草契約」を毎年実施しています。
ささやかに 君に贈るは この道の
 わすれな草の 青のふるさと

(6)はがき一葉のありがとうコンクール
 このコンクールは、とっておきの「ありがとう」を1枚のはがきに表現し、また表現された他人の「ありがとう」ヘの共感を通して、自己と他人の心の理解を深め合う取り組みです。第1回(一昨年)は1555通、第2回(昨年)は2240通の応募がありました。第1回の入賞作品集を発行して区内学校と地域に配布しました。今年度も第2回作品集を発行し、第3回を実施します。


活動の成果

(1)「まちが明るくなった。子どもたちが生き生きしている」と評されることが多くなりました。(これは「花むすび」以外の多くの方々のご尽力にもよることですが)
(2)「地域に咲く花はみんなで共有する」認識の高まりを通じて、地域信頼感が醸成されてきました。各家庭での「外向きの花づくり」が、明らかに多くなってきました。
(3)「花むすびは、学校を中心に地域の個々の花壇をネットワークし、地道な活動を通じてコミュニティを形成し、幼児から老人まで参加できるソフトのまちづくりの手本になっている。開放的団体であり、『花手形』や『花むすび何番花壇』の命名法などに『遊び心』も感じられる」(足立区まちづくり公社岸氏)
(4)「花むすび花壇で咲いている花たちが威張っていない。まちの景色に納まっていて浮き上がっていない。そんな景色の奥に『花むすび』を支えている人たちの姿が見える。道理、人の道、茶道などの『道』の心を感じる」(足立区まちづくり課岡野氏)
(5)「はがき一葉のありがとうコンクールの作品を読むと、時代は変わっても人の気持ちは不変であるとの安堵感を感じる。親、兄弟、友だちへの感謝の気持ちがよく伝わってくる。忘れかけている日本語の大切さを、この活動を通して再認識した。もっと広がることを期待したい。そのうち、道徳の地区公開講座の教材になることを願っている。」(足立区教育委員会堀越氏)


「地域株」発行システムの構築

 「株式」は近代資本主義における最高の知恵の一つですが、これに擬したシステムをつくり、地域づくりに役立てようとする試みが「地域株」です。「地域通貨」に類似する造語として、「地域株」を「一定期間後(年度末)に寄付金に転換される条件付で、地域づくりのために出資される資金」と定義します。商法の「株式」ではありません。会費でもなく、純然たる寄付金でもありません。この概念規定は今後の実践によって検証し見直します。現在、最終的な検討を行なっており、近日に発行実践します。


おわりに

 私たちはいろいろな取り組みは試行錯誤ですが、これらを貫いている「想い」があります。「まちを楽しくする創意」「遊び心」そして「ありがとう」の三つです。