「ふるさとづくり2005」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

青少年部門子ども会活動「桃太郎ミステリー列車」
岡山県 岡山県子ども会連合会

 まず初めに子ども会に関わるようになったいきさつをお話します。
 ある団地に住んでいたときのことでした。当時エネルギーが石炭から石油に替わり、炭鉱を追われた人々が故郷を捨て岡山に第二の人生を求め家族全員で引越ししてきました。そんな中、子どもたちは新しい環境になれないのか、故郷の友だちが懐かしいのかあまり元気がありませんでした。さびしくしているように見える子どもたちを見るに見かねて、なにか元気づけられることはないか、と市役所の社会教育課に相談したところ、子ども会を作ってみては、との提案があり資料を持ち帰りました。
 団地に戻り、親で集まり、さらに6年生の子どもたちを集め、話し合って会則を決定し、いよいよ「若草子ども会」の発足となりました。これが「子ども会」と私の出会いで、以来子ども会活動一筋の30数年の日々となります。
 結成の後、総社市西部地区子ども会連合会会長、総社市子ども会連合会会長、岡山県子ども会連合会の常任理事を経て、現在は岡山県子ども会連合会事務局長として11年になります。子ども会の活動を通して、成果を感じたことは幾度となくありますが、その中でもタイトルにあります「桃太郎ミステリー列車」はここでは書ききれないほどの忘れがたいエピソードの多い活動です。ぜひこの機会に紹介させていただきます。


列車を貸し切りミステリー列車出発

 総社市の子ども会の活動も軌道に乗る中、活動にマンネリが忍び寄る危機感もあり、なにか子どもたちがドキドキし、目を輝かすような活動はないものか、と思案していました。そこで思いついたのが「雪舟さんの絆を求めて」という企画です。列車を貸し切り、1泊2日の日程で最初のミステリー列車の出発でした。先生もいなければ保護者も付いて来ない、列車の中では6年生の仲間だけ。どんなことをして遊んでも構わない、という環境の中で子どもたちが本来の子どもに戻っていると実感し、大変うれしく思ったのをよく覚えています。こうして思い出していても2日間の日程を終えて、総社駅に到着したときの感動がよみがえり目頭が熱くなります。当時の感動は今でも子ども会活動の原動力となっています。


今の子どもに欠けている「友だちづくり」を

 平成6年には県の子ども会に関わることになりました。当時、活動の行き詰まりを見せていた県子連で私は市の子ども会活動で子どもたちと一緒に実施してきた「遊びながら」の活動の体験をすべて注ぎ込み、子どもたちのため県子連を変えよう、と気持ちを新たにしました。
 就任した年は県子連結成30周年の年でもありました。社会では子どもたちを取り巻く環境は良いとは言えず、無関心・無感動・無気力といういわゆる三無主義の子どもたちが増えてきていました。そこで記念の年にあのミステリー列車を走らせよう!と考えました。早速、この企画を会議にかけ、県子連の元気を子どもたちの元気とともに取り戻そう!と提案しました。名前も「桃太郎ミステリー列車」と決定。発車に向けて準備を開始しました。
 桃太郎ミステリー列車は8両編成です。(電車ではありません。列車です)これまで11回、実施した企画です。参加者は毎回約300名の子どもたち。子どもたちには行き先は内緒です。会費は1万5000円前後です。(行き先によって多少変わります)財政が厳しい中で子どもたちからは必要経費のみを集め、県子連のスタッフで準備・運営に汗を流しました。
 何よりも「安全面重視」で取り組みました。列車内での伝達方法、引率者の指導方法など綿密に話し合って決定し、全員無事に岡山駅に帰ることを合言葉に頑張りました。
 次に重視したのは「友だちづくり」。今の子どもたちは友だちをつくることにとても臆病に思います。そこでこの企画ではただ楽しく遊ぶだけでなく、ミステリー列車内ではジュニア・リーダーと一緒にレクリエーションやゲーム(ゲームと言ってもゲーム機ではありません。体を動かすゲームです)を実施し、創作活動も行ないました。これらは迷子対策のひとつでもあります。子どもたちに家族に感謝の気持ちを持って欲しいとの願いから、1日目の昼食は家庭からお弁当を持参させました。子どもたちの緊張を和らげるのにも役立ちました。こうして子どもたちが新しい友だちをつくりやすい雰囲気をと工夫しました。
 そして「楽しい思い出づくり」も大切な活動の目的になっています。子どものときに楽しく「遊んだ」経験のない大人が増えると結果、子どもたちに「遊び」を勧めない状況が増えてしまいます。それだけでなく「遊ぶ」子どもたちを理解できない大人が増え、最悪な場合は暴力をふるう大人も出てきます。人と関わって遊ぶ子どもは減り、電子ゲームやパソコンだけが遊び相手という子どもが増えてしまいます。
 また引率者として大人が気をつけたことは、わくわくしながら楽しみに来ている子どもたちに対して、何かあれば「怒らないで叱ること」。やさしく声掛けして目や顔色を見て健康チェックをすること。そして自由時間であれば子どもたちがどんな遊びをしていても黙って見る、ということです。ですから自由時間はゲーム機での遊びも漫画もOKとしました。存分に時間や親を気にせず遊ぶ機会を与えたいと考えました。
 貴重品を保管することに対しての大切さ、団体移動の体験も学びます。本人に任せると意外にも子どもたちはとても慎重で上手な買い物をするとわかりました。持参する金額もこちらからは決めず、平均はこれくらいとお知らせしています。
 ミステリー列車では行った先でその土地の方と交流し大変お世話になることもあります。あるときは列車の中で手作りの花火を作り、お礼の言葉を日が暮れて花火で書いたこともありました。事件もありました。列車の窓ガラスを子どもたちが2枚割ったことがありました。遊び疲れで降車時に寝てしまい乗り越したこともありました。出発時間に1人間に合わず出発しなければならないことも1度ありました。名前の読みの違いで1人いなくなったと大騒ぎになったこともありました。桑原を「くわはら」と読むか「くわばら」と読むかで返事をしない子もいるのだと初めて知りました。6年生ともなると子どもでもグループになると大人に負けない発言力を持つものだと知りました。男子より女子のほうがませていることもよくわかりました。いつもなぜか引率者のそばを離れない子どもたちが3〜4人いるのも興味深いことです。


遊ばない子どもは子どもではないの思いを込めて

 行き先がはっきりしないことに対するわくわく感。景色が変わり続ける列車の車窓。初めて会う子もたくさんいる中での友だちづくり。車内で実施される様々な遊び。見知らぬ土地での人々との交流。バザーでの買い物。親元を離れて過ごす夜。
 ミステリー列車の終わりには必ず子どもたちからアンケートを取ります。その中でとても気になることがあります。それは参加者の半分に近い子どもたちが将来に夢を持っていないことです。しかし、また行けるなら参加したいですか?との質問には全員に近い子どもたちがまた参加したいと答えてくれます。
 最後にひとこと、という問いかけには「友だちがたくさんできた」「とても楽しかった」「夜よく寝れなかった」(列車の中で寝ます)「ジュニア・リーダーになりたい」「バザーを50円にしてほしい」「列車の席を自由にしてほしい」(友だちをつくる機会を与えるためばらばらに座ります)「これからもこの企画を続けてほしい」「来年は弟がお世話になります」「もっと遠くにも行ってみたい」「みんなとさよならするのがさびしい」など。
 ジュニア・リーダー(中学生・高校生)の存在も貴重です。自分の時間を子ども会活動に使い、そして子どもたちの気持ちになって一所懸命に運営に協力している姿を見るととても頼もしくうれしく思います。参加している子どもたちが彼らの姿を見て自分もジュニア・リーダーになりたいと実際になった子どももいます。
 ミステリー列車にはいろんな子どもが参加します。親の切ない気持ちがひしひしと伝わってくることがあります。集団活動に慣れさせたいと願う親、喘息など障害を持っている子を勇気を持って参加させる親、親離れ・子離れの体験を目の当たりにします。無事に帰ってきた子どもを見てスタッフに感謝の言葉をわざわざ伝えに来てくれる親も何人かいらっしゃいます。
 桃太郎ミステリー列車の魅力は、
<親も先生もいない><何処に行くかわからない><お金はいくら持っていってもかまわない><遊び中心の企画>で子どもたちにとっては塾や習い事、宿題、テレビも忘れて1泊2日自由に過ごせるということにあります。久しぶりに子どもらしい子どもに戻れる2日間であるのかも知れません。運営者側としてもまだまだ子どもたちが「桃太郎ミステリー列車」を走らせてほしいと要望がある限り走らせようと頑張ります。私は「遊ばない子どもは子どもではない」と考えます。今後もミステリー列車以外でも様々な企画で「遊び」をたくさん子どもたちにプレゼントして「子どものための子ども会」を推進していきたいと願っています。