「ふるさとづくり2005」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

花の咲く明るく美しく住みよいまちづくり
千葉県 白子町
地域の概要

 白子町は、千葉県のほぼ中央東部、九十九里平野の南部に位置し、町の東部は九十九里浜で、白砂青松の景観を呈する砂浜と松原が続き、太平洋に望んでいる。温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、平坦な土地は農作地帯となり、農地1195ヘクタール(田828ヘクタール・畑367ヘクタール)が町の面積の44%を占める農作物供給の一大産地である。また、現在はテニスの町としても知られ、夏の海水浴などとあわせ年間95万人もの観光客が訪れる、農業と観光の町である。


背景

 町内の農家は、その約7割が後継者未定の状況で、就業者の高齢化も進み、家庭内分業の限界が近づいていた。農地は町の産業基盤であり、田園風景を形成する環境資源、観光資源でもある。荒れた遊休農地や未利用地の増加は、町の景観や環境を損ね、観光面に影響を及ぼすものと考えられた。
 町では、地域全体の問題と捉え、環境資源、景観資源としての農地(休耕地)の活用に取り組んだ。平成2年に町の花を「ひまわり」と制定、景観形成作物(レンゲ、ヒマワリ、コスモス)の栽培にも力を注ぎ、花の咲く明るく美しく住みよいまちづくりを推進した。
 しかし、高齢化と担い手の不足、流動化が進みにくいこと、米の生産調整などにより、遊休農地や未利用地は増え続けた。病害虫の発生や雑草繁茂の原因、用排水路の管理、災害防止機能の低下、農地への再利用の難しさも加わり、この問題は産業としてだけでなく多方面の課題となっていた。
 また、白子町の人口は昭和45年を境に社会増による増加傾向を示しており、新旧住民の交流の機会の場づくりが課題となっていた。


ボランティアによる実行委員会の発足

 このような背景により、平成5年9月、花づくりの好きな有志11名で白子チューリップ広場づくり事業実行委員会発起人会を開催し、事業の計画、予算、規約の素案を作成した。同月、専門的な知識・経験も必要と考え、発起人に農業、花卉園芸に精通のある2名を追加し13名で実行委員会議を開催した。


賛助会員(オーナー)制を導入

 事業の内容として、役場近くの40アールの休耕地を農家3人から借用し、5種類のチューリップの球根3万球を植え付けるチューリップ広場事業を計画した。休耕田の活用としては、町の花「ひまわり」を植え付けるひまわり広場事業も計画したが、賛助会員(オーナー)制を導入すること、年間を通じた広場の管理が難しいことなどを理由に、チューリップを植え付けることとした。広場に、1区画1・8平方メートルのほ場を210区画つくり、個人1口1000円60球の賛助会員(オーナー)制を導入した。全町民が楽しめ、全町民でつくりあげることで町民の力を結集し、全町民で花の咲くまちづくり運動を推進しようと考えたからである。また、町民以外の方にも、地域住民との交流、広場での体験をしていただこうと考えた。近年の観光スタイルが現地での体験や交流を重視するものに変わってきたが、当時としては、地域住民との交流、体験型を取り入れた先駆けとも言えた。
 個人だけでなく、団体で自由に植え付けたいとの希望もあったため、赤・白・黄・桃・紫の5色の900球で図案を作ってもらい、各団体に工夫を凝らしたデザインで自由に植え付けてもらうことにした。
 植え付け、草取りも賛助会員に行なってもらい、花が咲き終わった後は、球根を持ち帰ることができるようにした。花が咲き終わり葉を落とした後、1か月程度土の中で球根を育ててから、球根を掘り取る。その球根を秋に賛助会員の自宅で植え付けてもらうと、翌年も花を楽しむことができ、花の咲くまちづくりの輪が広がっていくことを期待した。


町内外に賛助会員を募集

 実行委員会は8月から9月にかけて町内外に賛助会員の募集を行ない、第1回チューリップ祭りは、40アールの広場で個人138人、団体10団体、球根数3万2000球で開催された。第2回からは広場を52アールと拡大し、今年の第12回チューリップ祭りでは、個人675人、団体27団体、球根数は7万3000球となった。賛助会員の募集もPR不足などにより当初は少なかったが、各種広報紙及び報道に事業の趣旨を理解していただき、協力を依頼した結果、県内の他市町村、さらには県外からも「賛助会員になりたい」との問い合わせがくるようになった。
 11月に賛助会員に球根の植え付けを行なってもらうため、10月になると球根業者から一括して納入される球根を消毒し、個人分は各色60球ずつ口数分に分け、団体分は使用する色の球根を各色準備した。
 草取りは賛助会員に行なってもらい、堆肥や肥料の投入、追肥、消毒、除草剤の散布、5月に実施する連作で疲れた畑土の天地返し、夏から緑肥用の牧草播きなどの大規模な作業は実行委員会で行ない、ほ場の管理に努めた。


チューリップ祭りを開催

 3月の下旬から7万3000本のチューリップが徐々に開き始め、4月の上旬に満開となるため、見頃の日曜日をチューリップ祭りと題し各種イベントを行なっている。ポット植え、切り花の即売、農産物の直売、焼きそばなどの模擬店、団体による模様植えコンテスト、写真コンクール、俳句コンテストなどの多彩な催しを行なっている。歌手のコンサートやジャズバンドの演奏で祭りを盛り上げ、オランダ衣装を着たチューリップガールが花を添えている。また、野だてのコーナーでは来場者にお茶やお菓子が振る舞われ人気を呼んでいる。第10回では消防署の協力ではしご車に乗って高い所からチューリップや町の様子を眺めるサービス、第11回ではラジコンヘリによるデモフライトやフライトショーなど工夫を凝らし祭りを盛り上げている。
 保育園児による写生も行なっており、自分たちが植えたチューリップを「私が植えたチューリップが咲いたー」などと喜びながら写生し、祭り当日には保育園児が描いたチューリップも咲き誇る。写生会時にチューリップが咲かない年もあり、保育園児は想像力を広げ、「画用紙には」きれいな花が咲き誇る年も…。
 団体植えの900球のデザインは、多少高い所からの方が見やすいとの見方もあり、第2回から鉄骨による橋(ビューブリッジ)を設置し喜ばれた。


土に親しむ機会づくり、新旧住民の交流の場

 休耕田の有効活用と新旧住民の交流の場の提供を目的として始まった私たちの取り組みは、今年で13年目を迎える。チューリップ畑には10種類7万3000球が植え付けられ、オーソドックスな品種から珍しい品種まで、色や形が様々なチューリップが咲いている。町民の参加協力をもとに、心のふれあいと美しいまちづくりを展開してきたが、5年、10年を見据えた長期的な計画が実を結び、近年は家族、先生と児童生徒、職場の団体などで植え付けから花の切り取り、球根の掘り取りまで、花が咲くチューリップ祭りの期間だけでなく、年間を通じ広場では、人々の笑い声が咲き誇っている。
 恒例のチューリップ祭りは、土に親しむ機会づくり、新旧住民の交流の場づくり、他地域の人々が自然な形で訪れる場として楽しい催しとなり、所期の目的は十分に達成することができたと考える。


チューリップの花言葉「博愛・おもいやり」

 毎年、実行委員が保育園児や小中学校の児童生徒に、球根の植え方、花の切り取り方、球根の掘り取り方を指導している。保育園児や小中学校の児童生徒からは、「球根の植え方を教えてくれてありがとう」「自分の家でもクロッカス、ヒヤシンス、スイセンを植えました」「春になるのが楽しみです」などお礼の手紙が届き、チューリップの花言葉「博愛・おもいやり」どおり、子どもたちの心にも花が咲き大変嬉しく思う。
 連作で疲れた畑土の天地返し、夏から緑肥用の牧草播き、堆肥や肥料の投入、追肥、消毒、除草剤の散布、賛助会員の募集や区割りなど、チューリップを美しく咲かせるには、みんなでよい土壌をつくるのはもちろんのこと、寒い冬に耐えなければ花芽さえ持たない。多くの方にチューリップを見ていただき、咲いた美しさに感動していただいただけで、実行委員としては喜ばしいが、保育園児、小中学校の児童生徒の手紙を読み、咲かせるまでの努力や苦労を思ってもらい、チューリップと同様、まちづくりも良い土壌を育てれば、子どもたち一人ひとりが、夢を持ち未来を展望できると子どもたちに教えられたような気がした。


今後の活動

 町内を見渡すとチューリップ祭りを始めた頃にくらべて、休耕田や遊休農地に、景観形成作物が多く見受けられるようになった。また、町民の庭先にはチューリップなどが植えられ、通行する人の目を楽しませる。通りにはあじさい、さるすべり、さざんかなどいろいろな種類の花が季節を変えては、町民を楽しませてくれる。町の南白亀川沿いには、桜が植栽され10年、20年先が楽しみである。地道な花の咲くまちづくりが実を結び、町民に輪が広がってきている。
 また、花のまちづくりは単なる景観形成ではなく、町民の環境の意識の高まりにも貢献し、地域のゴミゼロ運動や海岸清掃なども活動が活発になり、ゴミを捨てる人も少なくなってきた。
 私たちは、今後も、より花の咲く明るく美しく住みよいまちづくりに努め、地域でできる景観形成の方法を検討したり、家のまわりをできるだけきれいにする美化運動を推進したりしながら、チューリップづくりと同様に、「白子町」という土壌づくりに努め、子どもから大人までが、立派に花を咲かせることができるようにまちづくりに少しでも貢献していきたいと考える。