「ふるさとづくり2005」掲載
<企業の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

コミュニティ施設を核とした「ボランティアの心に満ちた交流ある街づくり」
神奈川県川崎市 モトスミ・オズ通り商店街振興組合
商店街を取り巻く環境

 モトスミ・オズ通り商店街振興組合は、東急東横線・元住吉駅前(川崎市中原区)に立地する商店街である。商店街のメイン街路では、撤退した店の後に、地元資本のドラッグストアが出店するなど、店舗の循環力は維持されている。だが、商店街のメイン街路から奥に入り込んだ場所の通行量はやや少なく、こうした場所で空き店舗が発生するケースが見られる。また、将来の環境変化として課題となっているのが、東急東横線の高架工事の進行である。現在は踏み切りによって、駅西側の街区と分断されている状況となっているが、工事完成後は、東西の行き来が楽になる。駅を隔てて西側には、約180店で構成されるモトスミ・ブレーメン通り商店街振興組合があり、生鮮三品業種、食品スーパーなどを中心に強い集客力を発揮している。従って、当商店街の後背地の住宅街の地域住民がモトスミ・ブレーメン通り商店街に流出する可能性が高い。
 かかる環境下、当商店街が持続的発展を維持するには、地域に根付いた「わが街の商店街」としての価値を発揮することが求められる。このために、“財・サービスの提供”にとどまらず、高齢化・少子化社会の進展の下で重要性が高まりつつある“地域コミュニティの形成”に貢献する活動が、商店街に必要とされている。


商店街が地域コミュニティ形成活動を開始したきっかけ

 商店街がコミュニティ事業を開始するきっかけは、隣駅である日吉駅前に立地する慶應大学のボランティア・サークル「ピース プロダクション」に所属する学生が、バザーに出すための寄付品集めの相談を商店街に持ちかけたことにある。この出会いを活かし、ボランティアを中心とした、人と人との交流ある街づくりを目指すこととなった。
 平成14年度は、川崎市からの支援を受け、今後の事業展開の方向性の検討を行なうとともに、空き店舗をコミュニティ施設として仮オープンさせ、1か月半の実験事業を行なった。さらに、年度の終わりには、広く地域関係者を含めたワークショップを開催し、平成15年度事業の本格事業化の方向性を討議した。これを受けて、平成15年度から現在に至るまで、国の「コミュニティ施設活用商店街活性化事業」を活用することにより、地域コミュニティの形成に資する活動を継続してきている。


具体的活動内容

 まず、地域コミュニティ形成活動を展開するにあたり、その拠点施設として、商店街内の空き店舗を活用し、コミュニティ施設「街なかボランティア・ピース」をオープンさせた。この施設を核として、世代の枠を超えた交流の街づくりのために、商店街と慶應大学ボランティア・サークル、さらには地域住民が連携して、以下のような活動を展開してきた。
@託児サービスの実施
 コミュニティ施設では、平日の11時〜16時に、託児サービスを実施している。子どもの受け入れにあたっては、保健所の指導を受けて安全・安心な施設にするとともに、保育士の資格を持つ地域住民に協力をあおいだ。託児サービスの利用目的で多いものは「買物」「食事」「病院や歯科の受診」「美容院の利用」などで、ゆっくり買物・食事を楽しむことや、子どもを連れて行きにくい施設の利用についての利便性を高めている。
A無料休憩施設としての開放
 コミュニティ施設は奥で託児サービスを実施するとともに、前面スペースは無料休憩施設として開放し、トイレ利用なども可能としている。買物に疲れた高齢者がひと休みしたり、乳幼児のオムツ換えや授乳のための立ち寄りなども多い。
B大学生による寺子屋塾の実施
 毎週土曜日の14時〜16時には、慶應大学ピース・プロダクションのメンバーが、小学生を対象に、学年の異なる子どもたちと大学生が一緒になって遊び・学ぶ場である「寺子屋塾」を開催している。行政が実施している学童保育は、単に見守りだけにとどまることが多いが、寺子屋塾では、年齢のあまり離れていない「大学生のお兄ちゃん・お姉ちゃん」が勉強や遊びを教えてくれる。一人っ子も多く、また、隣近所との交流が希薄になる中で、年齢の異なる子どもや大学生と触れ合える場として、毎週楽しみに通ってくる子どもたちも多い。
 また、平成16年度には、特別講座として、ファイナンシャルプランナーによる「子どもにもわかるお金の仕組み講座」なども開催した。さらに、寺子屋塾の成果として、小学生自らが脚本・演出を手がけ、大学生がサポートをして、人形劇の発表会などをイベントで実施。日曜日ということもあって、観客の中に子どもたちの父親の姿も目立った。
Cボランティア・フェスティバルの開催
 商店街が中長期的に目指しているのは、「世代間の枠を超えた人と人との交流ある街」「ボランティアの心に満ちた優しさのある街」である、こうしたものを地域に根付かせるために、年に2回のイベントを開催している。以前は、サンバ・カーニバルといった娯楽イベントを開催していた。現在は、そうした派手さはないものの、手づくりイベントを地道に継続している。毎回実施するのが、カンボジアの恵まれない子どもたちに対する文具や衣類、お金などの寄付の受付である。子どもなどが直接、受付窓口に持ち込む姿も多く見られ、文具だけで、ダンボール箱2箱が集まる。これらは、慶應大学ピース・プロダクションを通じて、カンボジアに送られていく。
 今ひとつのイベントの核は、子どもたちの夢の実現の応援や、社会的な体験の場の提供である。七夕ボランティア・フェスティバルでは、短冊に書かれた「サッカー選手になりたい」「絵がうまくなりたい」といった小学生の願いを実現するため、慶應大学サッカー同好会メンバーなどが、公園でサッカー教室を開いたり、絵の得意な大学生が、絵画の手ほどきを行なった。さらに、12月のフェスティバルでは、近隣の木月小学校と連携して、小学生がお店に立って商品を販売する「こども商店街」も実施している。「いらっしゃいませ」「○○いかがですか?」といった子どもの元気な声が飛び交い、商店街の街路が、日頃とは異なった雰囲気に包まれる。そうした姿を撮影する親たちの姿もそこここで見られた。


活動の成果と謀題

 従来、商店街は、地域における「人や情報の結節点」としての機能を果たしてきた。これによって、世代や置かれている環境などが異なる人同士が、それらの違いの枠を超えて、触れ合い、助け合う仕組みが地域内で維持されていた。だが、近年、そうした人と人とのかかわりが希薄になりつつある。これによる歪みが、家庭内の児童虐待や、引きこもり・登校拒否の子どもの増大、犯罪の低年齢化といった現象になって表れてきていると考えられる。現在の商店街の活動は、孤立しがちな子どもたちや、子育て中の母親たちに「街なかに出る、人と触れ合う」機会の提供につながっている。さらに、大学ボランティア・サークルメンバーという協力者が存在することによって、コミュニケーションの円滑化や、人への優しさの啓蒙といった効果も生み出されている。
 だが一方、社会貢献活動としての色合いが濃いことから、利用者や参加者から料金を徴収することが難しい面があり、中長期的に活動を継続していくためのコスト負担や、運営体制などの仕組みづくりが今後の課題とされている。


17年度の新たな挑戦

 これまでの成果と課題を踏まえ、平成17年度は高齢者も視野に入れた「多様な世代交流」と、様々な市民活動グループとの連携による「事業の持続可能な推進体制の構築」を目指し、シニア起業グループ「かわさき創造プロジェクト」との取り組みを開始した。この団体は、川崎市が開催したシニア起業講座の参加メンバーによって結成されたもので、本年度中のNPO法人化を目指している。17年度は、コミュニティ施設でのシニア向け講座(パソコン、あみもの)や、お茶やお酒を飲みながら交流を図るシニアサロンを開催している。
 今までは、子どもや子育て中の母親といった世代を対象とした事業が中心となってきたが、シニアグループとの連携により、世代の枠を超えて活動が広がっていくことが期待されている。さらに、平成17年度は、慶應大学ピース・プロダクション、かわさき創造プロジェクトをはじめ、多様な市民団体と連携することで、補助金終了後も、コミュニティ施設の維持、交流事業の継続が可能となる仕組みの確立を目指している。