「ふるさとづくり'87」掲載

箱本魂で城下町ルネッサンス
奈良県 大和郡山まちづくりの会「箱本21」
 現在、会員の約半数が郡山市内の商業者であり、その他に僧侶、教師、主婦、建築家、医者と多彩な職業の方が集まり、語らい調査を行っている。そして大和郡山のまちづくりへの市民レベルでの参加と政策提案をしている。しかも、私たち市民自身でできるところから、自助自立の精神で、城下町の商業活性化や町並み再生への努力をしている。このレポートでは、私たち市民組織の目的と具体的な活動内容を報告したい。


町並みの崩壊と暮らしにくさ

 田園文化都市をめざす大和郡山市にも急激なベッドタウン化とともに都市化が進み、大型店舗の進出や駅前開発に伴って、城下町内にある商店街の商業活動の地盤沈下が著しい。
 豊臣秀長が大和郡山に城下町を築いて400年になる。咋年は「築城400年察」で娠わいをみせだものの、江戸時代の町並みを残す城下町の活性化は今後の課題に残されたままである。
 このような情況に危機感をもつ商業者を中心に、城下町らしい商業の活性化を模索するとともに、城下町の豊かな歴史や文化の蓄積を生かしたまちづくりを実践しようと、市民が集まった。そして、多彩な人々の力や知恵と情報を結集して、ひとうの商業者の努力のみでは得られない優れた実践を可能にした。
 しかも、主婦会員である消費者の立場からの提案は、生活者のニ−ズとウォンツを把握して新しい商業活動を展開する上で有効であった。
 大和郡山市には、いまもなお優れた歴史的町並みが残っている。かつての遊廓街で3階建ての細かい格子のある建物群を残す洞泉寺町や染め物を洗ったという水路のある紺屋町、造り酒屋のある本町界隈など、城下町情緒のある町が多い。しかし、町家の老朽化とともに空家が目立ち、空地にはいっの間にかミニ開発業者による不釣合いな建て売り住宅が並ぶという、町の景観破壊が進行している。
 一方、城下町特有の堀や水路の汚濁が進み、かつて緑を確保していた土茎も消えつつある。町の緑や水そして美しい町並みは、城下町に暮らす私たちの誇りとする幕らしの文化財であり、その崩壊は、私たち市民の暮らしのアイデンティティの解体と思われる。
 そんな市民の碁らしに根ざしたもうひとつのアイデンティティの解体に対する危機感が、町で商売を営む若い人びとから、さらには新しい住民層から訴えられてきた。
 このような各自の生活点からの危機感から、自分たちにできることからスタートしようと集まったのが、大和郡山まちづくりの会『箱本21』である。


城下町のポテンシャルの認識

 町の暮らしへの危機感が生んだ『箱本21』の組織だが、会の活動を通して、私たち会員が学んだことは、大和郡山市の城下町がいかに優れた歴史的体験と資産を持ってきたかということ、そして現在もなおその歴史とともに、優れた立地条件を持つことである。
 具体的に述べると、
(1)城下町が築かれただけあって、大和国中(くんなか)の交通の要所に立地すること。
(2)奈良西の京、斑鳩など飛烏・天平文化の宝庫に隣接すること。(3)城下町400年の歴史と伝統に育まれた風土。
(4)シンボルとしての城郭復元と整備が進みつつあること。
(5)豊かな感性を侍つ新住民層のマーケットの拡大。
(6)住民層でのボランティア活動が盛んな町であること。
(7)近鉄郡山駅に隣接する西友と国鉄郡山駅東側に予定されている西武セゾンのホテル計画と新しいショッピングゾーン計画など城下町の東西の端に、都市的施設が計画されていること。
 以上のように、城下町大和郡山のまちづくりへの可能性は広がってきたと思われるのである。とくに、私たちの例会活動「箱本講座」(月1回21日)やサロン「箱本寄合」(毎月5日)で話し合うなかで学び、強く印象に残ったのが、400年前に豊臣秀長が、城下町を築くときに、商人保護制度として町人自治を認めた「箱本制度」を作ったこと。そして、この「箱本制度」という保護制度のもとといえども、郡山の城下町の商業は活性化していたこと。さらに、いまもなお城下町商法といえるような呉服、家具、仏其、建具、寝具など、ひろいネットワークで商業活動をしている商人が多いこと。また、町中には、ちょうちんや神具、畳、筆、指物などの職人も多いことなど、かつての城下町をほうふつさせる「箱本13町」(江戸時代に城下町を支配していた)の名残を感じさせるのである。
 そこで、私たちは、このような大和郡山城下町園有の町人自治制度へのこだわりから「箱本」の名称を用いるとともに、21世紀のまちづくりを推進する組織として、「よみがえれ箱本」をスローガンに、『箱本21』と名付けたのである。


元気印「箱本ブランド」商品づくり

 会員のひとりにこんにゃく屋さんの松下純大さんがいる。彼がたまたま手づくりこんにゃくをつくり、例会のとき、みんなに試食してほしいといったのが『箱本座』のはじまりである。例全の半ばに、手づくりこんにゃくをみそ田楽にして試食すると大変おいしくて、歯ごたえがある。
 これを商品化したらどうかという話が例会のなかで出てきたのである。その後、あらゆる機会に試食と販売を行ったところ売れ行きもまずまずであった。それでは『箱本座』の企画商品として出せないかと考えたのが、漢方薬店を経営する田中進さんである。彼は大和郡山に誇るべき名産品がないことに日頃から疑問を感じていたので、『箱本21』による地元名産品づくりを推進したいと考えていた。そこで、まず手づくりこんにゃくからスタートしたのである。
 しかし、商品化や流通開発には資金がいる。『箱本21』は、市民ボランティア組織だけに、このような事業を起こすことは不可能に近い。そこで、『箱本21』の組織内に地場産業起こしグループ「箱本座」を結成、手づくりこんにゃくを初めとして町のオリジナル商品づくりに乗り出した。つねに『箱木21』のメンバーに支持される商品づくりに努力すること、そして、商品開発する人は必ず『箱本21』の会員になることを条件に、町ブランドとして《箱本》を添付することを認めるものである。
 「箱本座」は『箱本21』に所属する商人グループを中心に組織するものであり、城下町にふさわしい商品開発や店舗企画、さらにフリーマーケットなどのイベント企画を進めることを目的としている。将釆は、商業者を中心とする協司組合を指向するが、当面は組織の拡大と商品開発力をたかめることに努力している。現在、手づくりこんにゃくを初め、蜂蜜、吉野くず、かぼちゃジャムなどの食品から「箱本ブランド」商品づくりに乗り出しており、すでにある自然食品センターで販売している。
 「箱本」の名を大和郡山の市民に広げるために、そして城下町郡山のまちづくりの市民ネットワークを広げるために、私たちがまず手をつけたのが、わが町のC・I(コーポレイト・アイデンティティ)づくりである。
 すでに、機関紙「箱本かわら版」は、かんてい流文字を使った「箱本」ロゴを用いているが、さらに、江戸時代に箱本13町で用いられていたという「箱本」を染め抜いたのぼり(職)を模して、のぼり型のマークを作った。
 こののぼり型マークをシールにして箱本商品に添付する、あるいは包装材に印刷するというように、「箱本」の知名度を高める努力をしている。もちろん、新しいイメージを作るために、横文字の「ザ・ハコモト」のロゴも用意している。


元気な暮らし絵本づくり

 城下町に暮らすことの喜び、町と一体になれる喜び、そんな素朴な生活感党のあるまちづくりを推進していくために、そして、これらの喜びを21世紀に生きる子どもたちに伝えるために、私たちはいま「まちづくり絵本」を作成しようと、調査にかかっている。
 その調査の内容は、(1)城下町だからこそいまもなお残る生活文化財の調査 (2)城下町特有の堀や水路、土量の調査 (3)城下町の町並みや暮らしぶり調査の3つを考えている。
 生活文化財調査のひとつが、町の職人・手仕事調査である。例えば、畳、ちょうちん、指物、仏具、神具、建具、豆腐、こんにゃく、寝具、大工、家具など数多くの職人さんがおられる。このような職人の実態調査をすることによって、かつて江戸時代賑わいをみせた城下町の名残を明らかにするとともに、現代の生活に取り入れることの魅力を探ってみたい。そこから、また郡山の名産品づくりの契機になるものがみつかるだろうし、「箱本ブランド」商品づくりに生かせるだろう。
 また一方、現会員のなかに、陶芸家や版画家などがおられるほか、手づくりショップを経営する女性経営者もおられる。彼らの知恵と広いネットワークを活用することによって、伝統的な職人芸と現代的なクラフト世界の交流を果たしたいと思っている。
 ふたつめの城下町特有の堀や水路、土量の調査は、町中の緑と水を確保するために、すでに郡山市教育委員会の委託で、昭和56年に奈良国立文化財研究所が調査しているので、その報告書をもとに現在との変化を探ることにしている。
 とくに、町中の水路の問題については、住民ならこそできる調査があると思われる。すでに、私たちが注目しているのが、綿町から紺屋町にかけての水路であり、写真にとり、地図に明記している。土塁も、洞泉寺裏や柳八幡神社裏山の土塁は、比較的よく残されており、いまのうちに保存策を検討する必要があるので、調査をしている。
 もうひとつの城下町の町並みや暮らしぶり調査は、優れた町並みや町家の調査が、すでに先述した奈良国立文化財研究所の調査報告があるので、それをもとに現実にいまどのように変貌しつつあるのか、あるいは町家の暮らしぶりの変化を探っている。
 すでに述べたように、紺屋町や洞泉寺町の町家は、空家が目立ち、空地も増えつつある。現実の崩壊過程をただ見過ごすのも悲しい。私たちとしては、いまのうちに町家の暮らしぶりを記録にとどめ、さらには古い町屋に生活したい人を紹介したり、古い町家の改造プランを提案したい。
 また一方、400年続いた城下町の碁らしの魅力(路地裏の遊び場、低い家並みと寺の土壁、造り酒屋の白壁、町の境界の水路など)を探り、それをビジュアルな絵本に表現したい。現在、この絵本づくりのために、町をタウンウォッチングしたり、マップに表したりしているところである。また、絵本を楽しいイラストばかりか、布や刺しゅうによる表現、版画による表現を考えており、会員のなかでとくに女性でそれらを趣味にしておられる方に検討していただいている。
 以上、私たち大和郡山まちづくりの会『箱本21』では、ひとつの柱にわが町の元気印「箱本ブランド」商品づくりをかかげるとともに、もうひとつの柱に、わが町の元気な暮らし絵本づくりをかかげ、あらゆる分野のネットワークで「城下町ルネッサンス」を推進している。