「ふるさとづくり'89」掲載

実践の積み重ねで福祉の町づくり
山梨県南部町 南部町生活学校
 日進月歩の世の中は慌しく変って行く。多様化された時代の中で、金さえあれば何でも手に入り、手間ひまかけなくても、日常生活が簡単に出来る大変便利な世の中になった。しかし、そうした便利さの中で、貧しく失われていくものの多いことも、またいなめない。
 今、山梨県としても、21世紀に向けて新たな県づくりの指針として、幅広い県民の参画の中で、新総合福祉計画を策定し、施設事業の具体化を図るため力をそそいでいる。町でもまた、福祉をかかげ、「だれもがしあわせに」と願いながらとりくんでいる。
 そうした中で、一住民として、また一集団として自主的にふるさとづくりに何かできないだろうか、と、ささやかではあるが努力を続けている。そして、今回も何とか問題点をしぼって取り組んでみようと考えた。
 もちろん、私自身、常に問題意識はもっているのであるが、日ごろ声なき町民の皆さんは、それぞれどんな事を考え、どんなことに問題意識をもっているのであろうか、より多くの人の問題点となっているのは、どんなことだろうか、また、それが少数、あるいは個人の問題であっても、考えて解決しなければならないこと等はないだろうかと思い、次のようなことを試みた。多くの問題の中から、その焦点を地域の環境問題に的をしぼり、その実体をさぐることにした。


町全域対象にアンケート調査

 くらしを営む中で、毎日利用する道は、ここ数年の間に驚くほど道路状況がよくなり、国道、県道はいうまでもなく、集落の道路までも舗装されて、ほこりの少ない一見快適な道になって来た。しかし、そうした中で、身障者、病弱者、高齢者、幼児や学生等にとって不都合なことはないだろうか、町内をよく見つめ、自分の身のまわりから問題となることを拾ってみる。そしてより多くの人の目で拾い出したものを集約し、それを資料として、住みよい、うるおいのあるふるさとづくりを構築する、ということをねらいとした。
 まず、南部町全域の成人者300人にアンケート調査をおねがいした。
 集計の結果からの問題点
1位 生ごみ処理の問題(69.7%)
2位 下水道問題(65.9%)
3位 道路のせまさの問題(53.6%)
4位 ごみ・空き缶・美化活動問題(52.3%)
5位 歩道、および歩道橋問題(50.9%)となり、五位までが50%以上となった。
 さらに、早急にとりくんでほしいご3点としてあげられたものは
1位 下水道問題
2位 生ごみ問題
3位 道路のせまさ
 があげられた。この問題に関連しては、過去に取り組んだものがある。それは、下水道の設備がないまま、水洗トイレの急激な増加、雑排水のたれ流し、田用水への直接流出、加えて合成洗剤の無制限使用ということから、昭和53年度1,000世帯を対象にアンケート調査をし、洗剤の功罪学習を積み、安全性と、水や川を美しくという点から、合成洗剤から安全性の高い石けん使用運動の輪をひろげたのである。
 チラシを2,000世帯全戸へ配布した。対話集会を行い、洗剤販売店、南部町全店へ粉石けんをおいて販売してもらう約束をとり決め実行に移した。昭和57年には石けん使用がどの程度出来ているか、啓発の意味をこめて追跡アンケートをし推進をはかってきた。昭和59年度からは廃物利用に依る手作り石けんをすすめ、部落で作るのはもちろんであるが、南部町の文化祭には無料で少量ずつ分配したり、菜種子の発芽の様子を実物で見せるコーナーを設けたり、作り方プリントを配ったりして輪を広げている。
 また、南部町内学校の母親学級、夏休み女教師の集い、隣町の婦人会や、隣町小学校のクラブ活動やPTA清動、南巨摩郡消費者相談委員研修会や、東八代郡、北巨摩郡等、作り方の講習の依頼を受けるなど幅広く県下に手作り石けん使用の輪を拡大している。しかし、それとは別に下水道問題は、住民に大きくのしかかっているのである。
 今回は全体のなかでトップに上がって来た生ごみ問題の取りくみと、経過、見通しについて記してみる。
 南部町は数年前よりごみ処理場が出来て、不燃物は月1回、可燃物は週2回収集している。処理場を数回にわたり視察見学をし、残飯や、生ごみの出し方の不備を目のあたりにし、生ごみの出し方、水切りなど婦人の集いで話し合っているが、なかなか思うように行かない。でも、手をゆるめず婦人団体のみんなと共に運動を続けている。空き缶拾い、アルミ缶分別などリサイクル運動を10年以上も続け、汗とほこりにまみれながら分別し、わずかな売上げ金も、積もれば大きく、その利益金58,000円で空き缶圧縮機も購入できたけれど、こんな方法だけで満足しているわけではない。しかし利用しながら次の段階を考えている。
 ごみ処理問題は、処理経費の調査をしてその多額なことに驚き、昨年の議会傍聴の頃から問題をもっていた。今回のアンケート結果により、町民の意識が生ごみ問題をトップにしていることから、今こそチャンスだと思った。町の処理経費軽減のためにも、私たちの目ざすリサイクル活動としても、今こそふるさとづくりへの意欲は燃えて来たのである。
 たまたま富士吉田市で、生ごみ処理器を使用していることを知り、代表20名が先進地官士吉田市の現地を観察研修に行って来た。
 富士吉田市では、VTRを見せていただいたり、生ごみ出荷の減量していく傾向、補助金制度で生ごみ容器の普及率を高めているようすなどの話をきいたり、処理工場の施設も見学した。予想以上に規模が大きく、生ごみ、ガラス類、鉄類、アルミ缶類等すべて機械が分類し、ガラス張りの施設の様子は外から一見出来、ごみの量等もコンピューターで即時出て来るすばらしい設備であった。さらに容器利用の家庭を訪問し、実際の場での利用法等々つぶさに見学した。細部にわたって質問等もし、実りの多い研修であった。
 研修を終えて思ったこと
 1、私たちは、今後生ごみの出し方の啓発運動を徹底的にする必要があること。
 2、生ごみ用器の使用法は正確にし、虫の発生などなきよう留意することが肝要のこと。
 3、生ごみ減量は、処理費の節減につながる。
 4、有機質堆肥としてのリサイクル清動は、残飯を発酵させて肥料にする「堆肥製造器」であり、金肥と異なり安全性が高く、野菜や庭木などに有効大であること。
 5、容器購入補助金制とすれば、処理費の軽減費は、住民に還元される結果となること。等、一石二烏とも、一石三烏とも言えそうだ。
 さっそく15婦人団体と協力して町当局との対話集会をもつ計画を立てた。アンケートの集計結果と、声等の抜粋を用意した。
 9月13日、町長、総務課長、総務係長、婦人の窓係、中央公民館長等と、婦人団体75名、2部屋取りはらっていっぱいになるほどの盛況の中で話し合った。
 生ごみ処理器補助金制として普及率を高めたいということが、主軸となっての対話集会であったが、下水道問題、医療センター問題、高齢者、弱者への対応として道路の金網取り替え問題、足身障者個人問題の対応として、内船駅スローブヘ手すりを取りつける問題、はては火祭りのイベント等、時の過ぎるのも忘れて10時までも話し合った。行政側の町長さんとの親近感を深めた。信頼し合う官民一体の中でこそ、よりよいふるさとづくりは出来るものだと、しみじみ感じたのは私ひとりではなかったと思う。
 翌日、こわれている道路の金網を町長さん立合いで、建設省職員と調査・話し合っているのを見た。5,6枚こわれていたのであったが、約500メートル区間、金網すべてを取り替え、高齢者や、婦人のハイヒール等の妨害に対応してくれることになった。内船駅へのスローブヘ手すりの取りつけも、JRへ申し入れた。何段階もの書類作成で行なわれるそうであるが、実現させるという前向きの回答をいただいた。
 9月17日、私たちは陳情書を作製した。婦人団体15名の代表者連名と捺印をし、町長さんと、町議会議長さんに、「生ごみ処理補助金制」を陳情した。町議会は20日から開催される、9月27日には生ごみの補助金制のことが議題にされるということなので、私たち婦人団体の者は出来るだけ大勢が議会傍聴をし、そのなりゆきを見届けたいと思っている。
 何事も為政者まかせでなく、常に足元をみつめ、幅広い見通しの中で、自ら物を考え、多くの人の意見に耳を傾けながら協力して住みよいふるさとを構築していくことこそ、住民としての義務であるように思う。実践の伴わないものは、どんな立派な意見も空論に等しいと思う。これからも、実践を積みながらみんなと協力し福祉の町づくりと活性化を計って行きたいと思っている。