「ふるさとづくり'90」掲載
入賞

『ペパーミントシティ北見と夢みるミントくん』
北海道北見市 まちづくり研究会
まちの悲哀を解消するために

 私のまち北海道は北見市と言っても、北海道以外の方には、どこにあるのかさえもわからないでしょう。そんな時、流氷と刑務所で有名な網走から内陸に50キロと、説明する悲哀を何度となく痛感しています。これからの話は、このことから始まるのです。
 この悲哀を解消したいため、3年前に「まちづくり研究会(略してまち研)」が発足しました。まち研は、30代を中心として15名程で、自営業、公務員、家事手伝い、主婦、学生等の市民グループです。私のまちは、開基92年を迎え順調に発展してきた人口10万人の地方都市です。しかし、最近では人口の伸びも止まり、危機感が募ってきているところです。なんの特色もなく知名度のない我がまちにも、歴史を振り返ると、昭和初期には世界の70パーセントを生産していたハッカ王国でした。まち研は、この歴史的金字塔ともいえる“ハッカ”を以て、まちのイメージ戦略を実施することにしました。「ハッカで、さわやかな香りのまちづくり」をキャッチフレーズに、「ペパーミントシティ北見プラン」を基本に展開しているところです。


連帯、遊び、夢の心

 私たちは、まちづくりの三つの心として、「連帯、遊び、夢の心」を原則とし、発足と同時に「遊び心」から、シンボルキャラクターを市民より公募することにしました。ひとりの会費が毎月500円、清水の舞台から飛び降りたつもりで、年間予算9万円のうち5万円を賞金としました。でも、今から考えると非常に安い買い物でした。それは表紙の「ハッカの葉をくわえたエゾリス」です。キャラクター作戦の展開は、大変な幸運にも恵まれ、JR北海道の北見〜旭川間の新特別快速列車「きたみ号」のヘッドマークに採用されたのです。JRでも全国的に珍しいことだそうです。この後、北見〜札幌間初のリゾート列車の名称も「ペパーミントエクスプレス」となりました。キャラクターグッズも登場です。Tシャツ、トレーナー、スポーツタオル、キーホルダー、ペナント、ステッカー等と広がりました。
「ハッカ」と「20日(はつか)」をかけて、毎月20日を「ハッカの日(ペパーミントデー)」と勝手に制定して、「第2回ペパーミントフェスティバル」を商店街の協賛を得て開催、これが、「第3回日本イベント大賞特別賞(主催 インタークロス研究所 本社東京)」を受賞してしまいました。イベントでは、第1回ミス・ペパーミントの選出、手作りのハッカローソク(作り方:ホテル、葬儀社等から使用済みのローソクをいただき、鍋で溶かしクレヨンで着色、お弁当のおかず入れに使われる星型のアルミはくに、さめてきたロウを入れ、冷えたところでハッカ油を注ぐ、ロウが冷えていないとハッカ油が蒸発してしまうので注意すること。溶かす前のローソクからあらかじめ抜き取っておいた芯を、1.5センチメートルぐらいに切っておくこと。そして、固まってきたロウの中に芯をさして、アルミはくを取り除いて出来あがり。手間はかかるが、ローソクの色を2色、3色と使って3分の1を赤、緑、青と3層のローソクも作ることができ、1色とはまた異なり目を楽しませてくれますしハッカの香りのする、ここにしかない手作りの、しかもリサイクルのローソクは、市民はもとより市外の多くの人にも好評です。
 夏の観光シーズンには、近くの空港へ行き、観光客にハッカローソクをプレゼントして、「ペパーミントシティきたみ」をアピールしました。また、夏休みの小学生を対象に、「ハッカ記念館写生会」を企画、まちの将来を担う子供たちに、我がまちの歴史に大きな足跡を残したハッカを、写生を通して理解してもらいました。さらに、ホームスティの留学生たちに、ハッカ記念館を見学してもらい、ハッカの記念植栽により「ペパーミントで国際交流」を図りました。
 秋には、ハッカ畑の収穫祭を兼ね、「ペパーミントシンポジウム〜香りでまちづくり」と題して、参加した市民に、まち研手作りのミントティ、ミントゼリー、ミントの天ぷらを試食・試飲してもらい、ポプリを贈りました。
 まち研のクリスマスプレゼントとして、クリスマスと言えばローソク、ローソクと言えばハッカローソクを、保育所の子供たちにプレゼントしました。驚いたことに、子供たちはハッカを知りませんでした。だからこそ、まち研の活動が必要だと、思いを新たにしました。きっと、子供たちは家に持ち帰ったハッカローソクの香りにより、両親から北見ハッカのことを学んだに違いありません。郷土の歴史を絶えることなく、語り継げていかなければならないことを改ためて痛感しました。


シンボルは「ミントくん」

 まち研の1周年を記念して、市民を巻き込むために、シンボルキャラクターの愛称を市民より募集することを決め、多くの市民はもとより、マスコミの影響で、周辺市町村の方々からもたくさんの葉書をいただき、非常に感激しました。そのなかで最も応募の多かった「ミント」に決定し、「ミントくん」と「ミントちゃん」とどちらがいいか迷いましたが、「ミントくん」として男の子に決定しました。まち研もめまぐるしい忙しさのため、キャラクターの名前と性別を決めるのに1年かかりました。その後、人が入る「ミントくんのぬいぐるみ」もできて、様々な行事に引っ張りだこです。なかには、結婚式の余興、家族と一緒の記念撮影、各種大会の応援団等、市民のマスコットとして大活躍です。今、まちで「まち研」を知らない市民は、皆無と言っても過言ではない程浸透しています。
 北見のまちに、今「ミント現象」が起きています。ミントとつく名前のマンション、スナック、喫茶店が出現したり、さわやかなミントグリーンの建物、自動車が増えたりしました。ある中学校の文化祭では、まち研がテーマとして取り上げられ、これを機会に、この中学校では、「ペパーミントスクール」を宣言、ハッカ畑をつくりハッカの蒸留釜をも製作しました。スナック・料理店で出されるおしぼりも、ハッカの香りのするおしぼりが多くなりました。また、ある繁華街では、通りにハッカを植えて、「ハッカ通り」の看板を数カ所設置して、オリジナリティを演出したのです。町内会のゴミ箱も、この際ミントグリーンにしようと実施されました。デパートのエレベーターに、スーパーのトイレに、とうとうNTTもテレホンボックスをミントボックスとして、ハッカの香りをさせることになりました。また、手づくりの作品として、あるおばあちゃんは、「ミントくんの人形」をプレゼントしてくれました。また、2人の女性が趣味の剌しゅうをいかして「ミントくんの刺しゅう」をプレゼントしてくれました。このように、ミントくんも市民から愛され、まち研の活動に対して共鳴者も増え、ようやく市民のなかにも、「ミントの風」がさわやかに吹きつつあります。
 ミス・ペパーミントも3代目を迎え、各種セレモニーに花を添えるようになりました。様々な団体から依頼があり、ラジオ・テレビにも何度となく出演、本人も素晴らしい体験を得られたと大変喜んでいます。


公共機関もミントくん採用

 遂に、市役所も「ミントくん」のマークを使用することになり、市の下水の終末処理場のタンクに、縦・横約10メートル程の大きなミントくんがペイントされました。汚臭の悪いイメージをハッカのもつさわやかさと、ミントくんの愛らしさを以て返上しようとする試みは、地域住民から大変歓迎され、特に子供たちは大喜びでした。今では、ペイントされたミントくん用の夜間照明まで設置されています。ハッカの植栽も実施され、終末処理場が、ハッカのさわやかな香りに包まれる日も遠くないことでしょう。また、お祭り用の市職員のはっぴにも採用されました。決定的とも言えるのは、全国有数の加入率を誇る日専連北見会にも採用され、商店街のいたるところまちぢゅうにミントくんがおめみえすることになりました。官民、大小問わず、ミントくんマークの使用件数は、50件を超えることになりました。小さなことでは、スポーツチームなどのユニフォームに使われ、大きなことでは、今年の9月に、市内の足並みのそろわない3農協が、統一マークにミントくんを採用、野菜発送用のダンボール箱に印刷されました。この意義はとても深く、障害を超えて「北見発」にミントくんを統一ブランドとして認知されたことになり、名実ともに「北見の顔」となったような気がします
 実は、ミントくんが誕生した時に、不法に使用されては一大事ですので、札幌の弁理士にお願いして「意匠登録」をしておきました。こんなグループなもんてすから、費用の捻出も大変だろうということと、ボランティアのまち研の趣旨に共鳴していただき、費用も実費だけど大まけしていただいたエピソードもありました。
 とうとうまち研の一村一品も登場しました。かねてから市内の業者に依頼していたものです。ひとつは、使い捨ての紙おしばりにハッカをしみこませた「ハッカおしぼり」です。これは、本州のホテル、ガソリンスタンドから注文がくるまで好評です。もうひとつは、「ペパーミントクッキー」です。これも、お土産、贈答にと評判です。


初心にもどって新たな三つの夢を

「遊び心」を大切にしてきたまち研も、周囲の期待に惑い、最近ではプレッシャーを感じるようになりました。これではよくないと感じ、もう一度初心にもどる意味もこめて、これからは、「まち研らしい夢」について、語ります。
 夢の第1弾は、「ミントくんファミリー」の達成です。前段として、今年の夏に、ミントくんに恋人を迎えました。そして恋人の愛称を募集し、「ペッパーちゃん」に決定しました。2人の名前を合わせると「ペパーミント」になります。来年には、2人の結婚式を盛大に催す計画です。まち研は、ミントくんの親のつもりですから、今から仲人を誰にお願いしたらいいかと苦慮しているところです。結婚の次には、子供の誕生………と、楽しい夢を市民とともにふくらませていきます。
 夢の第2弾は、ミントくんはエゾリスなので、エゾリスを放し飼いにした「ミントくんの公園」を考えています。子供たちとたわむれるミントくんを想像し、そのことによって名実ともに「北見のマスコット」としたいものです。
 夢の第3弾は、「はかない恋」を「ハッカない恋」のシャレで「ハッカ神社」を建立。「ハッカ神社」に祈願すると、「はかない恋」が大願成就し、「ハッカのごとくすっきり、さわやかになる」という具合です。北見の新しい名所となって、恋に悩める男女が大勢押し寄せてくれたら最高です。鳥居、おさいせん箱、おみくじ等全てミントグリーンにして、御神体はもちろん「ミントくん」。そして「はっかない恋」を成就させたカップルで以て、この神社で結婚式が実現できる日を早く迎えたいものです。
 これらの夢が実現すると、ひょっとして、北見の町名のなかに、「北見市ミント町」の字名が登場するかもしれません。そんなユニークでユーモアあふれたまちづくりを夢みています。
 最後に、比較的都市規模が大きいために、10万人の市民を響かせる困難さはありましたが、一石を投じることができたものと自負しています。「まちのイメージ」を「ペパーミントとミントくん」を以てPRする喜びと楽しさが、今ではまち研にとどまらずたくさんの市民に広がりました。「新しいふるさとづくり」の手法として、これからも「ペパーミントの輪」を創り続けます。