「ふるさとづくり'91」掲載
<集団の部>

長浜の地域文化創造に取り組む
滋賀県 長浜芸術版楽市楽座
長浜の若者が生んだ芸術イベント

 多方面で地域活性化を考えていた若者の間で、湖北長浜の精神的風土・歴史的遺産・伝統的技術・自然環境等の中に見い出し得る「日本の原風景」が色濃く残るこの長浜を、文化を軸として活性化しようとする意見が提案されました。時は昭和62年5月。話し合う中で、
(1)湖北の精神文化を活かすこと
(2)創造性、国際性が豊かなこと
(3)他地域との人的、文化的交流が図れること等をコンセプトとして、地域の文化性を活かした芸術イベントの構想が生まれました。
 そのメンバーは約80人、建築関係者・銀行員・教師・商店主…様々な市民の集りがこの運動を担いました。
 長浜は豊臣秀吉が初めて城持ちの大名となり、天下人への階段を駆け上がるスタート台となった町で、築城と同時に秀吉は商工業者の年貢を免除し、だれでも自由に商いができる楽市楽座の自由通商、工業施策を実施したため、町はおおいににぎわい今日の長浜の都市としての基礎が築かれました。
 そこで、この「楽市楽座」の持つ長浜の歴史的な意義と共に、その言葉のもつ明るく楽しい響きを芸術運動として現代に蘇らせました。すなわち、絵画・陶芸・彫金…ETC、いろいろな分野のアーティスト、クラフトマンが自分の作品を持って全国から集まり、市民や観光客等と交流しながら、制作・展示・販売を行うイベントを芸術版楽市楽座――アートインナガハマ――とネーミングし、手さぐりで始めました。ユニークなイベントとの、予想を超える評価を頂き、平成2年度には国土庁の地域づくりの賞をもらうまでになりました。
 4回目を迎えるこのイベントも今年は10月13日〜14日の両日、長浜城に隣接する豊公園の自由広場で開催します。参加アーティストは年々増えて今年は約550人。滋賀県内はもとより、近畿、中京圏一帯まで参加者の輪が広がり、関東、新潟、岡山から駆け付けて下さる常連客もあります。中には外国人の方も増えてきました。
 参加者は会場にはられたテント張りのブースの中で作品を展示し、制作・実演などを通じて自己を表現するほか、販売もします。
 会場の1角に設けたステージでは、いろいろなイベントを2日間にわたって実施します。
 特に人気があるのが、まずオークションと芸術品掘出市。参加は自由で、13日は午後1時から、1回日は午前11時から、1日2回ずつ開きます。これはアーティストたちが参加料の代わりに無料提供した作品を販売するので、望外な掘り出しものを入手でき、回を数えるごとに市民の間でたいへんな好評を得ています。


ギャラリ‐タウンをめざして

 この「芸術版楽市楽座」の狙いは、文化を軸としたまちづくりの推進にあるので、まち全体が多方面のアーティストを育てると共に、街のあちこちで市民が日常的にいろいろな作品に接することができるようなギャラリータウンを目指しています。そのためには、わずか2日間のイベントだけでは不十分で、もっと長続きする運動が必要となり、そこから生まれたのが常設の「ギャラリーシティー楽座」です。
 長浜の町を歩くと、この「楽市楽座」の看板を掲げた喫茶店や酒屋、ホテル、ブティックなどが目につきます。ショーウインドーに絵画や陶器、手芸品などを展示し、市民や観光客は年間を通じて買い求められるシステムになっていて、「アート・イン・ナガハマ」の参加アーティストと契約して作品を展示・販売する街角ギャラリーを「楽座」と呼んでおり、市内の80店舗が加盟しています。中には年間100万円を売り上げるかたもあり、町全体をギャラリーとし美しく住める街とすることで、文化のビジネス化による商業振興にも大変役立っています。
 また、楽市楽座運動の拠点として、より本格的な専門ギャラリーを常設する計画も具体化しています。実行委員を中心とした市民の有志20人が出資して、このほど有限会社「楽座」を設立、中心商店街に店舗を借りて専業の「ギャラリー楽座」を平成2年11月にオープンする予定です。
 場所は人通りの多い大通寺の表参道の1角。美術工芸品の販売・レンタル業を始め美術教室の開催、コンサート・パーティーの企画・運営などを手がけ、文字通りギャラリータウンの核施設を目指します。株主は理髪業を営む社長を始め建設業者・旅館主・社会保倹労務士・サラリーマンと様々で、市民総ぐるみで創業する専業ギャラリーといえましょう。
 このように、芸術版“楽市楽座”の一連の事業では、いずれも市民が重要な役割を果たしています。「アート・イン・ナガハマ」の主催団体は市民各層の代表で、今では約100人を越える人びとが参加し、資金の調達から会場の設営まで一手に取り仕切り、公的機関の関わりはほんの一部です。
 この実行委員会の特色は、社会的な地位は一切関係なく自主的に、自発的に話し合い、それぞれが責任をもって役割を果たし、報酬を一切求めないボランティア精神に満ちていることといえます。4回目を迎えても決して初心を忘れず、参加してくださる人びと、仕事を終え腹をならしながら駆けつけて下さる若者達、交流会の御馳走を1年間考えて下さる婦人ボランティアの皆様…。どれをとってもまちづくりに情熱を燃やす人びとばかりです。
 長浜芸術版楽市楽座――この芸術をキーワードとしたまちづくりを進め、まち全体を絵のあるまち、絵になるまちにしようというギャラリータウン構想を粘り強く展開し、生活の中に芸術文化がいきづくまちをめざして、今後もこの素人集団は燃焼し続けます。