「ふるさとづくり'93」掲載
<集団の部>

社会に貢献出来ることを生きがいにする
島根県・上津ヤングオールドクラブ
クラブの結成による地域の活性化

 これから紹介する「上津ヤングオールドクラブ」が結成された上津地区は、東西に細長い島根県の中央部に位置し東西8キロメートルからなる細長い地区で縁結びの神様として名高い大国主命の把られている出雲大社の近くにあります。また神話で名高い八岐のおろち退治の舞台となった斐伊川の清流にそって存在し、西谷町上島町船津町からなる零細な兼業農家がほとんどです。したがって、最近では、従来の地域住民同士の強いつながりから、勤務先を中心とした、仕事を通じてのつながりが強くなってきたのが現状です。特色としては、全国的にも上質の水源として誇ることが出来る出雲市内全住民の水源地が上津地区にあります。
 地域の紹介はこの位にして、ヤングオールドについて紹介します。
 高齢化時代に対して“ただ長生きが出来ればよい”という感覚から考え方や意識が転換し、1人1人が気力、体力、趣味など、自己の尺度に合わせた目標を掲げ、話し合い、励まし合いながら本当の「生きがい」のある生きかたを目指して、最善の努力をすることが必要と考えられます。
 しかし、そうした生き方も、完全に第一線を退いた、老後になって直ちに出来るものでなく、出来るだけ早い機会から、「考え方」「趣味」「仲間作り」「社会参加」などに対する自主的な、前向きの姿勢をもって、努力することが大切です。この様な考え方を基本に、上津地区では、さる昭和62年に、年齢的な青年期、壮年期を過ぎた50歳から60歳台の、有志が集い“ああ長い人生をすごした”との思いを持ち続けながら、社会参加や奉仕等を通して「社会に貢献出来ることを生きがい」にすることを目標とした会を誕生させました。
 この会には会則もなく、会が強制的に何かを、押しつけるものではなく、賛同者すなわち会員それぞれが、新しい考え方を提案し、それを総意によって運営する組織で、“老後の生きがいの基礎づくりをする会”であると思われます。
 具体的に会の目標をあげると、次のようになります。
(1)郷土の上津を知り、上津を語る会を作り、地区内をくまなく歩いて、上津のことを勉強し上津のよい点、悪い点、将来像を話し合う。
(2)心豊かな生活をするための集いで、会員による研修、既存団体等との連携による講演会の開催、テーマにとらわれない自由奔放な話し合い、時にはチョット一杯の機会も作る。
(3)健康を保つための集いで、健康管理について考えたり、専門家の話を聴いたり、健康野菜作りや、調理実習もやってみる。グランドゴルフ、ニュースポーツに親しむ機会も作る。
(4)社会奉仕を進める集いにより、地区団体との連携による奉仕活動の推進、明るい住みよい地域づくりに積極的に協力する。
(5)趣味や技能を生かす集いで、花木づくりの実習など、やりたい趣味のグループや、実習グループの集約および結成。
(6)成果を発表する集いで、地区文化祭での発表会、またクラブ主催の発表会など足跡をみんなで検討し次の活動の糧とする。
 以上が目標のあらましですが、上津地区の人口は約1,800人で、その内に50歳から60歳台が500人余りと、総人口の28%を占めます。その500人の中で、クラブに加入している人が140人余りですが、会が発足してから5年を経過、会員数も固定化し、各部の名称も、上津クラブ、放談クラブ、旅行クラブ、大正琴クラブ、料理クラブ、釣りクラブ、グランドゴルフクラブ、手芸クラブ、さつきクラブ、女性だけの歓談(オシャベリ)クラブ、と10のクラブがあり、そのクラブは、ただ自己満足だけではなく、会の設立理念に従い、少しでも社会に役立つことを願いながら、独自に定例的な活動を続けています。


クラブ活動の概要

○活力あるまちづくりに対する役割
 クラブで定例会を設け、地域内はもとより模範的な先進地については、積極的に視察研修を行い“地域のまちづくりはいかにあるべきか”を研究討議を重ね、意見を集約した上で自治会等地域の関係機関にあくまでも、参考意見としてではあるが答申し、活力ある地域づくりに、側面的に援助できることを、生きがいとして、努力中です。
○公園整備と管理活動
 地区の中心部にある上津公園(桜ケ丘ともいう)は、明治38年(1905)から昭和41年(1966)までの61年間みんなが学んだ小学校の跡地で展望のすばらしい場所ですが、校舎の移転後は広範な土地で管理が思うように行かず、荒廃した状態でした。このままではいけない、何とかしなければと、自治会を中心としたまちづくり協議会に働きかけ、平成2年には椿の苗木が入手されたのを機会に、これが会の目指す社会奉仕と、クラブ員の手によって50本余りの植樹を行ないました。ところがその年は、異常気象により、7月なかばから約50日間もの日照が続き、苗木の活着が懸念されたので事務局より、4名ずつ交替の水かけ作業をクラブ員に要請したところ、心よく協力をいただき、20日間にわたる奉仕作業によって無事苗木の活着を見ることが出来ました。
 また、翌年の平成3年には、桜の苗木、さつきおよびツツジの苗木が入手出来だのにともないヤングオールドの会員全員参加の植樹を行いました。往年の花いっぱいの桜ケ丘、椿サツキの丘として甦るのも間近と思われます。
 また植樹後の管理は毎年、春夏の2回、クラブ員により、公園の雑草刈りならびに草取りを実施し、思い出多い跡地の美化が進み、地区の人達にそれぞれが想い出を胸に、自然に足を運ぶ公園としたいと努力中です、これに刺激された自治会でも、遊具、東屋の設置をするなど公園の充実を因っています。このことは、クラブの活動とは役者が活躍する舞台での黒子的役割を果し、仏語にいわれている「無敗の一施」として地域の人々に無言の語りかけとなり、まちづくりの一端に参加できる「生きがい」を感じながらの活動が続いています。


地域のスポーツ振興

(1)グランドゴルフ
 会の結成と同時にニュースポーツヘの取り組みとしてグランドゴルフのクラブを作り、毎月3〜4回の練習を重ねていますが、クラブ員の内から全国大会に出場する人も出るほどの成果があがり、地区体協とも連携し地域内で老人を含め、父、母、子どもと家族ぐるみの和やかな大会を行うなど、地域全般への普及を因っています。
(2)ゲートボール
 ゲートボールは過去老人会を主体に行われて来ましたが、高齢化とともに競技はしたいが、企画準備等については、身体がついて行かないなどの理由で、10数年も続いた競技会も平成2年度をもって中止となりました。
 そこでこれではいけないとクラブ員が出かけ、積極的に競技(練習)に加わり、ゲートボールの若返りを図るほか、今年3月には近隣の出雲市南部ブロック(悍厚、朝山、乙立)の競技会を立案、準備、実施等、万端を引き受け、無事老人クラブとクラブ員一緒になって、大会の開催をする事ができました。また、老人は練習場または競技場に行くのにも足(自転車等)が問題となるので、輸送はその都度協力し、相互間の助け合いにより、後期高齢者がゲートボールに参加する、生きがいづくりに協力しています。
(3)小学生に対する実技指導
 公民館活動の一環として、小学生のクラブ活動で、ゲートボールとグランドゴルフが取入れられ、その指導をクラブ員が引受け、月4回4名ずつが交替で小学生と共に練習をしながら、1日も早く世代間交流競技が出来るよう上達を楽しみに努力をしています。
(4)その他のニュースポーツヘの取り組み
 最近普及されている、ペタンクはクラブ員の中から5名が普及指導員の講習を受け、最近開催された出雲市老人会主催による、世代間交流ペタンク大会には、クラブ員も孫と共に参加し、和やかな雰囲気を楽しみました。その他のニュースポーツも積極的に取り入れ、既成団体とも連携協調しながら地域スポーツの振興に寄与する考えです。


世代間交流事業の推進

(1)小学校農園と稲づくり体験学習に対する協力
 農業地域に住みながら近代機械化農業の影響を受け、本来の米づくり過程もはっきり知らない後継者(小学生等)に実際の種まき、田植(手植)、稲刈、稲架乾燥、脱穀調整の実施について、小学校に働きかけ、農協の全面的な協力を得て、2年前から所定の順に従った作業を指導しています。収穫された餅米は、親子餅つき大会でふれあいの機会を作り、さらには取り入れた薬では老人会(祖父・母)の指導で、薬細工の講習を行うなど、世代間の交流が行われますが、その陰には一貫した稲づくりに対する、クラブ員の実技指導はもとより、水田の水管理、必要最少限の消毒、また畑作物は安全有機野菜の栽培指導など陰の協力によるものが大きいです。
(2)地域における花いっぱい運動
 自然に親しみながら、世代間交流を通して明るい家庭、そして地域づくりを目標とした地区集会所に老人、母親、子供(中学生、小学生、幼稚園児)が一緒になって花壇を設け花木の植竹、水やり、除草などの管理を自主的に行い、機会を作ってお茶会も開き、花の観賞や反省会等、和やかな活動が続いてます。その企画世話等すべてクラブ員が担当しています。
 こうした花づくりが地域に波及的効果となって広がり、各戸の花づくりが進み、別途組織されている上津花木の会、花と緑の銀行の会員増加にもつながり、大きな成果をあげています。将来は“まち全体”が花いっぱいの地域となることを夢見た活動が続いています。


郷土歴史の調査と継承

(1)郷土誌編纂とクラブ活動
 有史以来、天与の恵みとともに幾多の災害による試練をも与え続けてきた、斐伊川の歴史そのままが、上津地域の歴史です。しかし、残念ながらほとんどといってもよいほど古い文献にとどめられたものはありません。クラブ員によって現在において、出来るだけの資料を集め、後世に伝承したいとの願望から進めていたところ、この活動を見て、地域でも郷土誌編纂の声があがり、自治会を主体に「郷土誌編纂委員会」を設け編集の運びとなりましたが、その委員会のほとんどがクラブ員によるもので、素人の集団ではあるが、初期の目的に向って“生きがい”を感じながら、積極的に足を運び、調査聴取等を行い今年度には発刊するよう作業を進めています。
(2)郷土芸能の伝承
 古き時代から、素朴な郷土のふれあいをめざして受けつがれて来た芸能も、大きな時代の変化とともに、廃れゆくさまを憂慮したクラブ員により、地域に働きかけ古くから伝えられてきた上津獅子舞の伝承、祭礼の子ども神興など文化祭の発表会などの機会を設け、伝承に協力しています。また保存会では市内各施設の慰問による研修と交流を深めています。
(3)名勝、旧跡等と案内板設置
 クラブ員による歴史の調査等を進めるなかで地区民自身でも、忘れ去られようとしている旧跡等を掘り起し、これの伝承を目的とした案内板の設置を働きかけ、史実にもとづく出来るだけ正確な表示について協力しています。
 なお、こうした活動により、本年は上之郷跡に、自治会等の夜間照明による一夜城が出来あがり、地区あげての上津納涼ふるさと祭など大きな成果があがっています。


ボランティア活動

(1)大正琴クラブ員による活動
 クラブ発足と同時にスタートした大正琴クラブは意外なまでの反響を呼び、クラブ員以外からも第2クラブ、第3クラブが誕生し、地区内の催しはもとより地区外の老人ホーム等の施設にも慰問演奏を続け、大きな成果をあげながらクラブ員の生きがいとして技量の研鑚が続いています。
(2)その他の活動
 地区内の公園、史跡等もクラブ員自身が自主的かつ積極的に草刈り等、管理を行うなど史跡の伝承と公園等の美化につとめるほか、空き缶・ごみの回奴等により河川愛護、道路の美化等にも協力しています。


今後の課題と対応

 以上、クラブ活動の概要について述べましたが、この様な活発な活動も他の団体(老人会)との間において問題がない訳ではありません。
 出雲市では昨年度新しい若い企画性、世話役的役割をいかして老人会の活性化を図ろうと60歳代会員をもって青年部が結成されましたが、上津地区ではこうした会がすでに結成され、活発な活動が続けられている老人クラブ加入年齢(65歳以上)者の加入率に影響も生じる結果となり、こうした問題にも対処していく必要があります。
 それは後期高齢者を含めたあまりにも層の厚い老人クラブ活動との隔たりにあると考えられますが、高齢者相互の助け合いに目を向け、クラブ員が自主的に老人クラブにも加入し、実質的には、後期高齢者の支えになって全般的に老人クラブの活性化に協力すべきであり、やがて迎える後期高齢時代に資するよう協調し融和して、相互の理想的な会の運営を行うことが、本来のクラブ設立の理念であることをふまえて、今後一層の努力をすべきであると考えられます。