「ふるさとづくり'94」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

ウォールアート(巨大壁画)で個性と活力のあるふるさとの創造
徳島県・小松島市 ウォールアート実行委員会
海と港の魅力を創出するまちづくり

 真夏の夜の夢のようにドキドキ、さわやかで熱く、つつましくて華やか、一瞬のうちにあざやかに記憶に残るウォールアート。春の作品募集から夏の完成記念イベントまでのウォールアート計画も5年目を迎えました。市民が主役となり、産・官・学・民の知恵と力を結集して、海とみなとの魅力を考えなおし創造的なまちづくりを楽しもう、というもので、その成果が、みなとの倉庫の壁画や遊歩道にたくさん完成したウォールアートです。そして、市全体のまつりに定着した記念イベントです。近年、大型埠頭の建設、本港地区など港周辺の再開発計画が急ピッチで進んできました。また、旧国鉄跡地が都市公園として生まれ変わるなど国体を前にまちなみの修景がすすみ、変わらないと言われた小松島のまちが急速に変わってきました。この4年間のウォールアート計画をつうじて、多くの人を結集しまちづくりをアピールしつづけてきたことが港周辺の活性化へのささやかな一助となったのではないかと、自負しています。より良いまちを創っていくためには、そこに住む住民が、真剣にかつ自由に考え行動していかなければ始まりません。


怖い、暗い、汚いの街イメージの払拭を

 自分の出身地を恥ずかしがる子供やこんな町から逃げ出したい、と言う声がありました。生まれ育った故郷として、誇りがもてるような地域を創っていきたい、そのために絵を描くといった誰にでもできる第1歩からふみだそう、美しい絵は、人を勇気づけまちを明るくしますから、みんないっしょになってやってみようということになりました。実行委員会のメンバーは、主体的に作品募集から現場の設営、壁画の制作、音楽を演奏したり聞いたり、ステージをじぶんたちで作ったりしてきました。伝統的なまつりと地域社会が崩壊しつつある地域だからこそ、子供から年寄りまで情熱を無心にかけられる昔のおまつりのようなイベントを行って、みんなの夢見るちからと情熱でみなとまちを復活させたいという願いからでした。
 私達の町は、四国の徳島県、県都徳島市から南に20分程下ったところの人口40000人の市です。和歌山から船で2時間半のところにあり、現在も国際貿易港ですが、交通体系の変貌と商業流通の変革で大きくゆれた港のまちです。かつては四国の海の東玄関として栄え、豊かな水と白砂青松の海岸が京阪神からの避暑客に愛され、絵のまち小松島と音頭にうたわれた時期もありました。しかし港の機能は老朽化し、10年ほど前に港への連絡船が赤字で廃止され、跡地は利用計画もないまま放置されていました。中心商店街は寂れ、道を歩く人はなくなりシャッター街と呼ばれるようになり、昔はよかったというだけでなにもせず、「沈滞」の冠が付けられ閉塞感がただよっていました。市外の人にまちのイメージを聞くと、怖い、暗い、汚い、金がない…、といったネガティブな感想が返ってくるばかりでした。


ウォールアートで街の沈滞吹き飛ばす

 ウォールアート1(1989)。人がどう言おうといいところはあるんだがなあ、自分たちで何かできるものはないだろうかと思っていたところ、ちょうど港で運輸倉庫をしている会社より、倉庫の壁面の提供をするのでそこに何か大きな絵をかいてもらえんだろうか、という要請がありました。わたりに船とばかりデザインは広く県内外より募り70点の応募があり、巨大壁画4メートル×8メートル(地場にある工場から無償で提供を受けたファスカルというカッティングシートを用い小さく切ってはって制作)を4面つくりました。その成果を見てもらうため急遽チケットを市民に買っていただいて費用を捻出し、7月の港まつりの初日、野外の手作り完成披露パーティーを行いました。その時苦労したあげくのいいようもない興奮と達成感があり、人々の大反響は街の沈滞感に風穴をあけたように思えました。
 ウォールアート2(1990)。この年は事業を広げるため、国(運輸省)、県、市などの行政、郵便局、学校、NTT、電力、船会社、港湾関係業者、建設業、地場の民間全社、音楽関係、美術関係、お祭り大好き人間、青年会議所などボランティアをふくめた幅広い市民参加を求め、実行委員会をつくりました。ベルリンのかべ崩壊の希望の年。かべに夢あり、をテーマにデザインと制作をセットにして募集したところ250点の応募があり、4グループの手で芸術性の高い巨大壁画が完成。港を楽しく美しくし地域のルネッサンスをはかりたいとの想いから、8月には海をテーマにイベントを企画。故郷のシーフードの大鉄板焼き、各種バザー、屋台夜店、阿波踊り教室など、そして目玉は、日本を代表するジャズトランペッター日野皓正の、特設した水上ステージでのライブ。港の船たまりにヨットを100艇あまり集合、ライトアップされた帆船、客船オセアニックグレースも浮かび、豪華な雰囲気のなか、本場のジャズがはじめてこの地で演奏されました。真夏の夜の夢のような出来事でした。参加動員は延べ10,000人で、海と港のあるこの地域の魅力を再認識させ、地盤沈下のさけばれていた地域のひとびとをおおいに勇気づけた事業となりました。


海、地球、みなとをテーマに大イベント

 ウォールアート3(1991)。5月より「海、地球、みなと」をテーマに応募を募り、そのうち5グループがショッピングセンターで公開制作しました。海に面した倉庫に取り付け、海のギャラリーの第一歩が記されました。8月のイベントは市民が気軽に参加できる夏の恒例のまつりとなりました。壁画のまえの岸壁でアマチュアのコンサートを中心にして海に浮かべた水上ステージの演奏を楽しみました。120名のボランティアスタッフにより、中国人留学生の水ギョウザ、地の魚介類でつくるエスニック風ブイヤベース、材木をくみシートをはったプールであなごのつかみ取りをするふれあい水族館、巨大ファミコン、グアム旅行のあたる大抽選会など工夫した催しで、遅くまで港一帯は歓声と熱気につつまれました。参加動員は延べ4000人でした。さいごに次のような“宣伝キャンバス”を港の倉庫に掲げました。
 『みなと…ひととものとのふれあい
  みなと…母なる大地と緑の大地の出会い
  みなと…未来にむけて船を漕ぎだす
  みなとは様々な可能性のイメージと夢に彩られた宝箱です。小松島港は、国際貿易港。
  世界にむけて開かれた近畿四国圏の海の玄関。人と海と大地がはじめて出会う魅力ある
  ウォーターフロント。この場所で立ち止り、ひととものと情報が集積するみなとまちの
  可能性をもういちど考えたい。殺風景な建物の壁面を絵で美しく彩って、ウォールアー
  トをつくり、まちや港を訪れるひとを迎えたい。いろいろな表情にあふれたひとのぬく
  もりの感じられるすてきなまちづくりのきっかけとなりたい。こんな運動を市民自らの
  手で行い、その輪を広げ、遊び心あふれ、自立した人のツドウ、快適で活力にみちたま
  ちをつくりたい』


金長たぬきもまちおこしに一役

 ウォールアート4(1992)。第4回目は、
 @『潮風美術館へようこそ』と題し、「みなとまちのあるふるさと」「美しい笑顔」「あたたかいひと」「阿波踊りなどの情熱的なまつり」をイメージしたデザイン応募数263点のなかから優秀作『虹のふもとの狸のまちへ』を選び、入港してくる船に見えるよう海に面した倉庫に4メートル×23メートルの巨大な作品を完成しました。灰色の倉庫がお客さんを迎えるカラフルなランドマークに変身しました。
 A『501匹タヌちゃん大行進』と題し、遊歩道に面した紡績工場のかべ300メートルに、1200点のなかから選んだ300グループにより、小学生の親子連れから一般までおおぜいの参加をえてさまざまな姿の501匹の狸の絵を水性ペイントで描きました。こどもには一生の記念になり、全長たぬきの伝説でまちおこしをはかっている市には、あたらしい観光名所になりました。
 B記念イベント『海いっぱいに夢いっぱい!ウォールアートハーバー』を、8月15日、10,000トン岸壁で行い、帰省客、観光客、家族づれで5000人の大賑わい。「ライブインコマツシマ」は県内外のアマチュアバンドの晴舞台。「ダンシングコンテスト」では若者のチームが多数出演。「ふれあい水族館」はこどもに大人気、「ボートサイドバザール」では、ペルー民芸品、海上保安庁、日本丸、まちの商店、手作りの店などが出店。「アジア食べ歩き」では国際交流協会の協力を得、県内に在住の外国人の手で、タイ、
バングラデシュ、中国、インドネシア、ミャンマーの各国の家庭料理がエキゾチックで大好評。他にも日本のおまつり屋台、バナナの叩き売りなど。やる前よりきれいに、環境に優しいウォールアート、を合言葉にゴミ処理にも気を配りました。港と海を背景にしたおしゃれで国際性にあふれ、市外から来ても楽しんでもらえる内容の地域の活性化にもつうじるまつりへ成長してきました。


ウォールアートは海洋民族の誇れる拠点

 そしてウォールアート5(1993)。@潮風美術館へようこそ(東四国国体ウェル力ムウォールアート)南岸倉庫壁面に10点、8月完成予定、Aベイサイドトーク「みなとが好き!」、7月22日予定、港まちづくりについて、女性パネラーとゲストをお迎えして市民サイドの新しい視点から意見を求めるシンポジューム。B海のモニュメント制作、9月5日完成予定、アーティスト黒田征太郎さんの提案で、昭和30年頃に造船された古い木と鉄でできた貨物船から海を乗り越えてきた船の魂、波を切るヘサキを切り出し、現代アートの香り高いモニュメントで、高さ約6メートル、幅4メートル、をつくりました。C海と大地のまつり、〜心で聴き、魂で視よ!我ら海洋民族〜、9月5日予定、一瞬の感動のエネルギーをキャンバスに表現する黒田征太郎ライブペインティング。沖縄から至福のハーモニーの4人ネーネーズライブコンサートを開催。
 ウォールアートはさらに大きく航海をし続ける、生きているゆめの船です。新大陸を発見できるまで今後もご期待くださるようお願いし、以上、ご報告いたします。