「ふるさとづくり'94」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり大賞

ヒューマンスケールなまちづくりめざし
岐阜県 古川町
伝統の息づくまち

 飛騨古川は、高山市から北へ15qに位置し、古くから城下町として栄え、美しい自然を背景に優れた文化的遺産、歴史的遺産を有する人口16,000人余の町です。
 街の中心部を貫流する瀬戸川は、今から400年ほど前につくられた堀割で、現在、自然石を使用したものに改修され、夏は農業用水、冬は流言溝として利用されています。
 この瀬戸川には、悠然と泳ぐ900尾余の錦鯉が放たれ、周辺の土蔵と相まって独特の雰囲気を醸し出しています。今でこそ、清流が保たれていますが、以前は生活雑排水等により汚染され、とても鯉が住めるような環境ではありませんでした。昭和43年、各種団体によって、「街を明るく、美しくする運動」が始められ、その一環として鯉が放流されて美しさを取り戻し、今では、東の古川、西の津和野と言われるまでによみがえりました。
 また、占川町は出格子の商家や造り酒屋、由緒ある寺など木造建築が数多く存在しており、これらの軒下を支える腕本には、大工の棟梁のシンボルマークである「雲」と呼ばれる肘(ひじ)本紋様が取り付けてあります。その雲は、一軒一軒異なっており、古川の町並みを形成する一つの特徴といえます。
 都会に失われつつあるものを、いまだに残している町、どちらかというと保守的ですが、この町には古くから「相場くずし」を嫌うという慣習があります。「相場」というのは、周りの景観との調和を大切にし、それを維持していこうとする考え方です。
 町では、こうした現状を踏まえ、美しい町並みを保存して行くため、昭和61年から観光協会が中心となり、「景観デザイン賞」を制定しました。これは、新築の建造物を対象に飛騨の匠の技がいきづく伝統的なものを表彰する制度です。


町民の英知の結集「起し太鼓の里」

 昭和63年3月に、当時の青年会議所のメンバー7人と、観光協会のメンバー6人の計13人で Future Planning Committee (略称F・P・C)を組織し、道路、文化、農林、スポーツ、街並の5部門に分かれて討議を重ね、ふるかわF・P・Cレポート「この一冊が未来を拓く」を作成しました。
 その中で、瀬戸川の改修と中央公園の整備のことが提案され、平成元年度から4年度にかけて、この一連の事業として「起し太鼓(おこしだいこ)の里整備事業」(自治省ふるさとづくり特別対策事業)を進めてきました。
 これは、古川人の歴史が脈打ち、意志が息吹き、そして誇りが込められている「古川祭」を年間を通して体験できるような空間の創造を目指し、「起し太鼓の里(飛騨古川まつり会館)」を建設(平成4年6月オープン)したものです。
 館内は、生きた博物館を目指し、常時、3台の「屋台」と1台の「神輿(みこし)」を収納し、臨場感あふれる立体映像や、コンピュータ制御で動くからくり人形など、見どころいっぱいの施設であり、当町の誇るべき財産といえます。
 その他、木造建築の歴史と文化の一翼をになってきた飛騨の匠の業績と技術を紹介し、現在に伝える施設であり匠の技が磨かれ、ひいては産業の振興と、地域の独特な町並み景観の形成を図っていくための拠点である「飛騨の匠文化館」、飛騨の歴史的風土の中で創造・伝承してきた、わら民具・わら細工・竹細工などの展示及び手づくりの実演、体験学習できる「郷土民芸会館」、国の重要文化財である「飛騨の山樵及び木工用具」をはじめ、化石や考古資料、古文書など7つのゾーンで構成された展示室で本に交わってきた祖先との対話の中で、現代を見つめなおすことのできるような語らいの拠点としての「飛騨の山樵(さんしょう)館」(国土庁地域個性形成事業)を建設し、町づくりを進める上で、大きく邁進しました。


飛騨古川音楽大賞の創設

 昭和40年代に地元の小学校で「ふしづくり一本道」の音楽教育が始まり、ユニークなカリキュラムとして注目を浴び、50年代に入ると町民の間に〈良い音楽を聴きたい〉という気運が高まり、音楽に愛着を持つ9人の民間有志によって、53年、飛騨古川音楽文化協議会を結成し活動を開始しました。その間、東京フィルハーモニーを手始めに、大阪フィル、新日本フィル、名フィル、N響、都響などの演奏会を間催してきました。
 この協議会の活動は、「飛騨古川国際音楽祭」として、名フィル、京響、ベルリン国立歌劇場室内オーケストラ公演などを開催し、現在に受け継がれています。
 一方、少年少女による「ひだふるかわ音楽の森合唱団」も59年に結成され、定期的な発表会のほか、日本各地、また、ハンガリーやスイス、チェコなど世界的な合唱団との合同コンサート・交流活動、古川のポピュラー音楽を育てて20数年間、町民に潤いを与えてきた飛騨サウンドキャッスル、婦人コーラスの結成など、今まちの中には、音楽的土壌が確実に育ってきており、音楽をテーマとして古川の新しいまちづくりに取り組む条件が整ってきています。
 このように、木町に芽吹きつつある数々の音楽文化を背景として、音楽を通じ感性豊かな人間性を涵養し、音楽文化が大きく育つことを願って、全国の自治体でも珍しい『飛騨古川音楽大賞』を平成元年度に創設し、日本の音楽界をリードしてきた音楽関係者を顕彰することにより、地方から発信する音楽のメトロポリス化を目指そうとしています。
 幸いにして、平成2年より文化庁、県、町の共催により音楽大賞を含む一連の音楽関連事業が、「飛騨古川音楽の森推進事業」として行うことができました。今年は、10月に第5回目を迎える音楽大賞授与式、初めての試みである屋台蔵コンサート、11月にドイツ・バッハドリステンオーケストラ公演等が計画されています。
 今後は、音楽ホールの建設などを含めた“音楽の森”づくり構想の具体化に向けて、活性化を図るべく進めていきたいと思います。


ヒューマンスケールなまちづくり

 昨年度より第4次総合計画がスタートし、ヒューマンスケールなまち(=人間らしいくらしのできる手頃な規模のまち)づくりをテーマに、ソフト面でのまちづくりに力を庄いでいます。その一例として、福祉、文化、産業等「やる気のある人・団体」を支援するために『飛道人(ヒューマン)スケール大賞』を創設し、第1回目は、新彗星を発見した天文愛好家が受賞されました。
 また、町民から募集した「飛道人欧州視察研修団」を組織し、本年度は16人の団員がドイツ・オーストリア・フランスの古川町と同規模の町や村を視察訪問し、50年、100年サイクルで考える町づくりを目指し、国際交流を図ってきました。
 これからの展望としては、町民と行政が統一的なコンセプトを侍って、4次総の基本目標の柱となる7つのキーワード(やしなう・おこす・まもる・いつくしむ・はぐくむ・あそぶ・ささえる)を達成できるようなまちづくりを進めていき、何よりも人づくりを大切にしていきたいと考えています。
 そして、古川にしかない個性を明らかにし町全体のイメージアップと町民一人一人のパワーアップを図リ、ヒューマンスケールなまちづくりに向けて一歩一歩確実に歩んでいきたいと思います。