「ふるさとづくり'94」掲載
<個人の部>ふるさとづくり賞

こけしの里づくり運動のリーダーとして
青森県・黒石市 土岐良平
 土岐氏は、昭和54年に「あすなろ住民活動賞(青森県新生活協議会)」、同55年には住民活動日本一である「あすの地域社会を築く住民活動賞(あしたの日本を創る協会)」を受賞した後、63年に「全国モデル定住圈整備推進会議会長賞」受賞と、全国表彰を2度受賞した『山形地区住みよい環境推進協議会』の設立当初から全長として、16年間にわたってリーダーシップをとり、自ら汗を流し、常に活動の中心になってリードしてきた。


協議会の設立と共通課題の集約

 『山形地区住みよい環境推進協議会』は、昭和52年に地域内の町内会と各種団体が協力して、住みよい地域づくりを積極的に推進するために結成され、調査から構想会議・計画・実践と勢力的な活動を展開している。地域住民のほとんどが加入しており、会費も各戸が負担する地域ぐるみの住民自治組織である。組織としては、12人の町内全長と子供会育成連絡会、青年クラブ、婦人会、老人クラブ、交通安全協会、幼・小・中PTAなど18団体の代表が理事として運営に参画して基本的な事項を検討し、活動面は部会や特別委員会を置いて役割分担をしている。
 土岐氏は、個々の町内会や団体の活動を伸ばしながら、地域の共通課題を集約して、より大きな活動に発展させようと協議会設立のため奔走し、以来本年4月勇退するまで会長として、2度の全国表彰や各種団体表彰を受けた実績は、地域住民はもとより市内外から高く評価され、山形地区をコミュニティ活動の先進地に導いた人である。


子ども会の交通量調査から歩道設置

 52年に設立させた当時の協議会の最初の活動は、小学校のPTAと子ども会から提案されていた通学路の安全対策であった。十和田湖に通じる国道102号線であることと、ダム建設工事車両の増加に伴い交通量も多くなり、小・中学校の登下校時の事故が心配されていたのである。
 早速、子ども会とPTAが午前7時から8時までの1時間の交通量調査を実施したところ、5.7秒に1台の車両が通行していることが確認され、新聞でも大きく報道されたことから、住民や関係当局の関心の的となった。
 土岐氏は、1〜2の団体での取り組みから、地域ぐるみの運動に高めるため、町内毎の住民会議や地区の対話集会等を開催すると共に、市・県に要望書を提出するなど短期間に精力的な活動を展開したのである。
 交通安全対策の焦点は、学校前の信号機と歩道の設置であったが、この中で、協議会の存在と土岐氏のリーダーシップは見事な成果を生んだのである。
 歩道設置について一番の問題となる用地買収のため、地権者と交渉する窓口を土岐会長を中心とする協議会の役員があたることとし、個別訪問、全体集会、市・県との協議など、協議会は大きな役割を分担した。このことが行政を動かし、7月の交通量調査から3ヵ月余りの10月には実施測量が始まり、一部着工する運びとなった。


住民の要望が生かされた公民館建設

 このような実績は、全長はもとより協議会に対する住民の評価を高めることとなり、もう一つの共通課題として住民の合意を得た地区公民館建設についても、協議会と住民・行政の分担と協力が生かされ、他地区にはみられない成果を上げた。
 協議会が主体になって交渉したことが地権者の理解を得られ、一部寄付も含め安い価格で買収できたことから、市内で一番広い敷地に、市内の公民館では初めてという体育館を備えた公民館が建設された。
 建設にあたっては、市も協議会や住民の意見を取り入れ、利用者本位の施設となったことは、行政と住民の共通理解が図られた結果である。利用者を重視した取り組みは落成式と落成祝賀会も慣例の市長主催でなく、協議会主催で市長はじめ議員、各関係者を招待すると共に、地区住民が会費で希望参加するという、利用者中心の祝賀会となった。
 参加した地区住民の感激はもとより招待された関係者にも、これまで公共施設の落成祝賀会では味わったことのない感動を与えたのである。
 これらの成果とともに、地域づくりに対する住民の理解と参加を進めたことによって、県・全国の住民活勧賞を受賞したが、常に新しい試みに挑戦し、話し合いから、合意づくり、役割分担、地域ぐるみの参加へと誘導する土岐氏のリードは、多くの人を活動に引き込まずにはおかない力と魅力があった。


住民活動賞からの前進

 住民活動賞の賞金を基金に「こけし館建設」と「公民館の庭づくり」の2つの特別委員会を発足させ、具体的な運動に発展させたのも土岐氏の発想の豊かさと指導力によるものである。
 全国のこけし収集から、全国こけし展、こけしの里マラソンと続く活動の盛り上がりによって、63年に市が「津軽こけし館」を建設し、特別委員会で集めた800本余りのこけしはすべて寄贈した。市から運営委託されたこけし館は、住民の協力で多彩な展示会やイベントを開催し、こけしも2,000本余となるなど、年々充実した運営がなされている。また1億円のふるさと創生資金の活用に対する市民アンケートから、純金純銀のこけしが津軽こけし館に展示されることが決定したのも、会長として活躍した協議会の運動が、広く市民に理解され活動が評価を得たものと思われる。現在津軽こけし館では、運営委員会が中心になって『きんさん・ぎんさんと金銀のこけしを対面させる会』の市民運動を進めており、8月に実現する見込みである。
 また、庭づくり委員会で進めていた“いこいの庭”も、昭和61年には手作りの東屋も竣工し、公民館前に広葉樹の林が広がる住民の安らぎの場となっている。毎年この庭では森のお話会や観察会・ビヤパーティーなど、いろいろなガーデン集会に利用され喜ばれている。


問題解決の手法としての理論と実践

 このように協議会設立時の懸案の目標は、氏のリーダーシップにより着実に進行し、昭和63年には協議会設立10周年の記念誌を編集刊行させ、後進に指針を示す活動記録をまとめ上げたのである。また、同年に地域内に完成した浅瀬石川ダム周辺の整備に当たって、散策道やつり橋設置を提案し実現したほか、ダム湖周辺の活用を目指す「クリエート21トライヤル実行委員会」の主要メンバーとしても大きな役割を果たした。
 更に香典返しと見舞い返しの廃止が100%実施され、その他の合理化にも前進を図っていて、『冠婚葬祭合理化運動』についても、アンケート調査から町内会毎の対話集会を通して、住民の理解と合意づくりから実践へ進むプロセスを大事にすることによって実現率を高めている。
 このことは、子供と地域を考える集会などでも、各界各層との話合いを積み上げ、地域住民の課題に集約し役割分担を明確にすることによって、行政の協力を取り付け早期解決に向かっているのである。身近な生活課題から出発させ、住民の生の声を聞き、それを拾い上げ、計画を練り、更に住民にフィードバックさせて実践に移すという手法は氏の信念ともいえるものである。


尊敬する人物としての土岐氏

 土岐氏は、地域づくりの実践的指導者として、市政振興に貢献した実績により、平成4年度に「黒石市褒賞」を受けている。
 協議会の全長を勇退したとはいえ、津軽こけし館運営委員、町内会役員など地域づくり活動のリード役として現在も活躍しているほか、長男を協議会の事務局員として協力させるなど個人から家族、町内、地域へと活動の輪を広げる、理論と実践をともに花咲かせると共に、後継者も育てた最も尊敬する人物である。