「ふるさとづくり'95」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

一人ひとりがみな主役・一宇座の村おこし
徳島県一宇村 むら芝居「一宇座」
 四国第2の高峰剣山の北斜面で、林業を主産業としてきた一宇村は、かつて7000人を超えていた人口が今では2000人にまで減少した激しい過疎地だ。それだけに村に何とか活気をもたらそうと、素人の有志でむら芝居「一宇座」(代表・三上慶一さん)を結成したのが平成3年8月だった。現在座員は40人。村には280年前、身を犠牲にして村を救った義人、谷貞之丞がいた。その時の“直訴”を今の過疎にだぶらせて芝居で訴えている。


江戸時代の義民物語で旗揚げ公演

 義人伝説というのはこうだ。宝永7年(1710)はひどい旱魃で作物は実らず農民の蓄えは底をついていたが、藩は租税を従来の5倍も要求。農民の怒りは頂点に達し、一揆を起こす寸前までいった。それを制止して藩に直訴し、村と村民を救ったのが庄屋の谷貞之丞だった。貞之丞は川原で斬首となり、貞之丞を偲んで村人が建てた碑が村には残った。
 一宇座の芝居のテーマ“直訴”は、この江戸時代中期の義人、谷貞之丞の生きざまを広く住民に伝えることで、郷土への愛着心を喚起しようという願いが込められていた。こうして団員らは、時間の調整や厳しい練習、多額の費用のかかる衣装代などの難問を乗り越えて、第1回旗揚げ公演を平成4年3月22日、昼夜2回にわたって開くことが出来た。会場の福祉センターは超満員の大盛況。第2回を同年8月、第3回を6年3月に開き、第4回は、同年4月26日、徳島県郷土文化会館で公演した。県商工会連合会の招きによるもので、県下全域から来ている観客に“直訴”の熱演が感動を呼んだ。


村民の関心は高く共感を呼んだ

 一宇座の活動がもたらした成果は――。@芝居で集う子どもからお年寄りまで、座員間に連帯感が生まれた、A村民の中に一宇村を見直そうという意識が広がってきた、B芝居を通して他人の長所を認め合うようになった、C挨拶が自然に交わされるようになった、D谷貞之丞を研究しようという歴史家が一宇村を訪れてくるなど、村のPRに貢献した、E村内の小・中学校が授業に谷貞之丞を取り入れるようになった、Fボランティア活動の気運が高まり、村民運動会が行われるなど住民の心の輪が広がっている――、などである。
 貞之丞没後、280年目に再現された“直訴”は、命を賭して村や村人を愛した先人がいたことへの誇りを呼び覚ました。と同時に歴史を見直し、衰退する村の活性化に結びつけていこうという一宇座の活動が共感を呼んだことは、座員一同の大きな自信となった。