「ふるさとづくり'95」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

環境保全から住民合意のまちづくりへ
福岡県宮田町 如来田の環境を守る会
 鞍手郡宮田町の西端、四囲を山に囲まれたみどり豊かな地に、戸数12戸の小集落・如来田(にょらいだ)地区がある。この閑静な地も都市化はまぬがれず、道路などの拡幅とともに類似モーテルの建設が噂されたり、ゴミの不法投棄が生じ、バイパスの貫通計画が持ち上るなど、生活環境の悪化をもたらす問題が次々に発生している。この問題に真正面から立ち向かっているのが「如来田の環境を守る会」(代表・塩川敏治さん、メンバー23人)である。


類似モーテルの建設阻止

 売りに出ていた地区内の土地に類似モーテルが建つ、という噂に対応して如来田の環境を守る会は結成された。昭和56年3月のことである。本多文子さんらのメンバーは、「活動では将来にわたる対策が必要」と考え、試行錯誤の末に行き着いたのが『建築条例の制定』であった。こうしてメンバーたちは、まず資料で勉強から始めた。「長崎県飯盛町長が町旅館建築の規制に関する条例を根拠に類似モーテル建設に同意せず、訴えられて敗訴」の裁判記録や「熊本県旅館建築審査会条例」が効果を上げていることから、宮田町でも同様の条例をさっそく制定したものの、いま一つ権能の弱いことも分かった。
 動揺しているとき、「建築協定という制度がある。建築基準法第4章をみなさい」という電話を東京からもらったのである。さっそく読んだ本多さんらは、その制度に魅了された。
 「現在の土地所有者全員で同意し認可を受けておけば、その後に所有者が変わっても協定の効力は引き継がれる。民間協定でありながら行政にも関わってもらえる」というものだった。


如来田地区建築協定が認可

 実現のための活動が始まった。40キロ離れた図書館に通って文献を捜し、福岡県庁では2週間ごとに3時間の指導をしてもらった。町議会との意志疎通には手間取ったりしたが、1年3ヵ月をかけて、宮田町建築条例が制定され、昭和58年8月、如来田地区建築協定が認可された。こうして数件あったという類似モーテル建築申請は受理されることもなく、その後、他の建築上のトラブルも一切生じていないし、屋外広告の不法掲出もなくなっている。
 ゴミの不法投棄も行政との共同作戦で追放した。いま、地区を貫通する4車線のバイパス計画で、住民は心まで分断されないよう、環境保全活動に新たな意欲を燃やしている。
 この活動を総括して、本多さんは言う。「(活動は)人間の視野を広げたことと、民主主義社会の主権者たろうと努力する住民自身の成長過程だった」。