「ふるさとづくり'95」掲載
<個人の部>ふるさとづくり振興奨励賞

1株から始まった「幻の花」の再生
沖縄県名護市 玉城詠光
 沖縄県名護市を原産地とするナゴラン。乱獲で幻の花と呼ばれていた。この絶滅の危機にあったナゴランの復活を夢みて活動しているのが、名護市バイオ研究塾の塾長を努めた玉城詠光さんである。現在では新たに「やんばるバイオ研究会」を結成、復活だけでなくふるさとの山、学校、公共施設に根づかせ、環境保全の大切さを訴えてきた。


ナゴランの人工交配と無菌播種

 ナゴランは、300年前名護市内で初めて発見された亜熱帯性のラン。木の枝、岩の表面に自生していたが、匂いがよく乱獲され野生のランは姿を消し、「幻の花」となっていた。玉城さんが、やんばるの山中でナゴランを1株、偶然発見したのが昭和44年のことであった。当時、玉城さんは県農業試験場の職員、これを人工的に増やせないかと考え、昭和46年から取り組み始めたのである。
 この作業は、市が平成元年度からふるさと創生事業の一環として始めた「名護親方塾」に引き継がれ、その中でナゴランの復活をみんなで研究することをテーマにした「名護市バイオ研究塾」が結成され、玉城さんは塾長として技術指導にあたった。塾生は70歳代から高校生まで約20人、4年にわたり熱心に勉強会がもたれた。
 そうした熱意が実り、3年目にはバイオ技術で育てたナゴラン50株の苗が塾生の手で、名護市役所前の本に移植された。名護市役所は建築物としても有名で市民だけでなく、全国から訪れる人も多いが、その年に開花した可憐な白い花からはすがすがしい香りが漂い、みんなの心をなごませてくれた。


自然環境保全に対する市民意識の啓発に

 以後、玉城さんから提供されたナゴランを、小中学校、農業高校の生徒などの手で、自然に返す運動が本格的に展開され、これまで約1700本がふるさとの山名護岳の樹木に移植された。その一方で、市内小中学校の校庭にも植えられ、毎年花を咲かすまでになった。玉城さんは、「ナゴランは、名護に自然が授けてくれた贈り物、絶滅の危機という過ちを繰り返さないよう子どもたちに自然の尊さを伝えたい」と語る。
 その後、塾から発展的に有志で「やんばるバイオ研究会」を結成、自然に返す運動を続ける玉城さんだが、我が町の「ナゴラン博士」として、市民からも活躍が期待されている。