「ふるさとづくり'96」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

一人ひとりがみな主役ムラ芝居「いちう座」による村おこし
徳島県一宇村 ムラ芝居「いちう座」
 ムラ芝居「一宇座」(代表・三上慶一さん、会員25人)の前身は「青年一揆会」。一揆会は、ビデオ愛好家が村の史跡、名勝、伝統芸能、産業等の認識を深め、村外へもPRする目的で、救村の義人で伝わる庄屋・谷貞之丞「直訴」の史実も収録、村の小中学校、公民館に贈った。この史実を芝居で再現、文化遺産としてビデオに残し、村の活性化につなげようと平成3年8月「一宇座」を結成、その時の「直訴」を今の過疎にだぶらせ芝居で訴えている。


義人・谷貞之丞物語で旗揚げ公演

 宝永7年(1710)はひどい旱魃で作物は実らず農民の蓄えは底をついていたが、藩は租税を従来の5倍も要求、それを拒否した者は厳罰に処せられた。庄屋の貞之丞はあらゆる手段で代官に願い出たが聞き入れられず、農民の怒りは項点に達し、一揆を起こす寸前までいった。それを制止して藩に直訴し、村と村民を救ったのが庄屋の貞之丞だった。貞之丞は鮎喰川原で斬首となり、貞之丞を偲んで村人が建てた碑が村の土釜に残っている。
 一宇座の芝居のテーマ「直訴」は、280年前、身を犠牲にして村を救った義人、谷貞之丞の生きざまを広く住民に伝えることで、郷土への愛者心を喚起しようという願いが込められていた。こうして座員らは、時間の調整や厳しい練習、多額の費用のかかる衣装代などの難問を乗り越えて、第1回旗揚げ公演を平成4年3月22日、昼夜2回にわたり行った。会場の福祉センターは超満員の大盛況。第2回を同年8月、第3回を6年3月に開き、第4回は同年4月26日、徳島県郷土文化会館で公演した。県商工会連合会の招きによるもので、県下全域からの観客に「直訴」の熱演が感動を呼んだ。第5回は7年4月に村の公民館で開演。


一宇座の活動がもたらした成果

(1)芝居で集う子どもからお年寄りまで、座員間に連帯感が生まれ、大きな自信となった。
(2)村民の中に一宇村を見直す意識が高まった。
(3)芝居を通じ他人の長所を認め合うようになった。
(4)挨拶が自然に交わされるようになった。
(5)谷貞之丞を研究する歴史家が村を訪れてくるなど、村のPRに貢献した。
(6)村内の小・中学校が授業に谷貞之丞を取り入れるようになった。
(7)芝居だけでなく、ボランティア活動の気運が高まり、村民によるギネス運動会が行われるなど住民の心の輪が広がっている。
 貞之丞没後、280年目に再現された「直訴」は、衰退する村の活性化に結びつけていこうと共感を呼んでおり、座員の大きな自信となって公演は末永く続けたいとしている。