「ふるさとづくり'99」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

葛を生かして地球の緑化を進める「葛グリーン作戦」
兵庫県山南町 国際葛グリーン作戦山南
はじめに

 1991年6月、フィリピンのピナトゥボ火山大噴火時の噴出物により、半径60キロメートル以上の自然環境が破壊され、現在でも雨季の度に火山灰による泥流(ラハール)が起こり、周辺の住民の生活を脅かしています。特にピナトゥボの自然に依存し自給自足の生活をしていた山岳少数民族アエタ族は、唯一の財産ともいえる森を失い、今なお極限の生活を強いられています。
 ピナトゥボ火山噴火の1年後、1992年6月6日に山南町と神戸新聞社が主催して『わが町の葛を生かそう』という演題の講演会が開催されました。この講演会に参加した町民は、講師の津川兵衛教授(神戸大学農学部)から「日本ではやっかいもの扱いの葛も、生かし方で火山灰砂漠の緑化に役立つ」ということを学びました。そして、荒廃したピナトゥボに未来を築かなければならないアエタ族の人びとのことや砂漠化の進む地球のことを思い、一日も早くピナトゥボ火山被災地を緑化しなければならないことに気付きました。そこで、山南町民は津川教授を指導者に迎え、山野に自生する葛の種子をピナトゥボに送り緑化を進めようと、葛の種子を集めるボランティア活動に取り組みました。
 この活動にかかわる多くのボランティアを支援し、フィリピンでの葛植栽を確実に実施するために、有志が集まって「国際葛グリーン作戦山南」を設立したのです。
 活動初期の頃は、他のNGOに葛の種子を託すだけのボランティア団体でしたが、現在ではフィリピンのピナトゥボに元青年海外協力隊員を現地駐在員として派遣し、直接葛植栽を実施するNGOとして活動するようになりました。山南町では、多くの町民が葛を見直し、葛グリーン作戦に参加しています。


活動の実施方法と町民のかかわり

1.葛グリーン作戦の展開
 「葛グリーン作戦」は以下の5項目を柱とするだれでも参加できる国際協力事業であり、葛の植生を利用した大規模なピナトゥボ火山の被災地復興計画で、フィリピンのNGOアエタ開発協会と事業提携して進めています。
(1)「葛グリーン作戦、葛の種子採集」
 葛の種子採集は、山南町民が地球環境問題や途上国問題を考えるきっかけづくりの一つとして始まったボランティアワークです。種子採集は、中学生・高校生など比較的若い人たちのグループ活動となりました。サヤから種を出す葛の種子の精製作業は、老人クラブや小学生、PTA等の団体が中心になり、年齢・性別を越えた世代間交流の連携プレーとなりました。この活動に参加している老人クラブの人たちは、「自分たちにも“国際協力”ができるということに、喜びと誇りを感じている」と話しています。
(2)「葛グリーン作戦、ヒガラ」
 私たちが6年前に送った葛の種子は、その後順調に成長してヒガラに定着しました。それは、日本葛の大きな葉の下にできた水分に在来種の雑草が集まって、現在の自然に適応した理想的な草原ができあがったことでした。
 この草原に植林と農業を行うのが「葛グリーン作戦、ヒガラ」です。これは、葛が最終的には人びとの生活に役立つことを提案し、実践するモデル地区ともなります。
(3)「葛グリーン作戦、ヤンボ」
 ヤンボ地区は、かつて河川だった場所ですが、度重なる火山灰の流出で地形が変わり、現在ではわずかな水の流れと大量の軽石が残る『使えない土地』となった場所です。「葛グリーン作戦、ヤンボ」はこの『使えない土地』を果樹園にするという目的で実施します。
 1998年度は、約10ヘクタールに葛の植栽を行い、翌年度からは徐々に規模を拡大していきます。これは、ヤンボ地区周辺に住むアエタ族にとって、葛の植栽に関わることで現金収入を得られる新産業となり、農業が可能な土地をつくり出すことにもなります。そして、ピナトゥボ5000ヘクタール緑化の第一歩として期待されています。
(4)「葛グリーン作戦、文通計画」
 この文通の様式は、イラストや写真などで気持ちを伝える紙1枚のメッセージです。小学生から高齢者まで多くの町民が文通に参加し、見たこともない国に住む人びとを理解しあっています。
 言語も文化も違う私たちとアエタ族の人びとがお互いを知ることは、葛グリーン作戦の推進力を増すことにつながっています。
(5)葛グリーン作戦「こんにちは!」って言って計画
 1997年8月にフィリピンのNGOアエタ開発協会を通じてアエタ族から「アナタタチノコトヲ、オシエテクダサイ。ワタシタチノコトヲ、シッテクダサイ。」という、たった一文だけのメッセージが国際葛グリーン作戦山南に届きました。このとき、言語の違いが私たちの間にある最大の壁となっていることに気付き、文化や言語を越えるコミュニケーションの方法を考えました。それが、映像を使ってお互いを紹介しあう「こんにちは!」って言って計画です。
 山南町民とアエタ族はビデオカメラを通じてお互いを知り合い、笑顔で、理解し合う、だれでも参加できる顔の見える国際交流を始めています。
2.活動の輪を広げる作戦の展開
 会報「みどりの風」の発行、絵はがきの作成、葛グリーン講演会、地球緑化フォーラム、葛の種子伝達式などを定期的に開催し、町内外の人びとに葛グリーン作戦の内容を啓発してきました。今では、兵庫県立柏原高校・兵庫県立篠山鳳鳴高校・町内の小中学校など、あちこちの教育団体から、葛グリーン作戦について講演してほしいという依頼が殺到するようになりました。あらゆるチャンスはすべて逃さず、葛グリーン作戦を啓発し、理解を求める努力をしています。
3.事業資金を集める活動の展開
 葛の種子をフィリピンに運び直接植栽するためには、どうしても資金が必要です。労力の奉仕のみでは国際協力事業の展開はむずかしくなってきたのです。これは、一番苦しい取り組みの一つとなり、次のような資金獲得の努力を重ねています。
(1)助成金の申請
 環境事業団の地球環境基金に助成申請をしていたところ、助成金交付の決定を受け、少し安心しているところです。しかし、必要な経費の全額が助成されるわけではありません。
(2)寄付金・募金
 町内外の人びとの集まりがあるところに出かけ、募金活動を展開しています。また、葛グリーン作戦を理解し、支援してくださる方々から寄付をいただいています。
(3)賛助会員・特別会員の募集
 賛助会員の年会費は個人が3000円、企業が10000円。特別会員の年会費は50000円。
 賛助会員と特別会員を募る努力を重ねています。


活動が町づくりにもたらした効果

1.地域ぐるみの国際協力を生みだしている
 多くの町民の協力で、葛の種子を集めてピナトゥボへ送るボランティア活動を展開し、日本の田舎にいても国際協力できることを証明しました。
2.地域の教育力を高め、青少年健全育成に貢献している
 老若男女様々な世代が集まり、地球緑化という一つの目標に向かってボランティア活動が展開されることによって、地域の教育力を高める一助となっています。また、山南町青少年問題協議会基本方針に葛の種子集めボランティア活動を取り上げ、青少年の健全育成に貢献していることを認めています。
3.地球環境に対する関心を高めている
 葛の種子集めをすることによって、自然に対する観察力が育ち、葛をピナトゥボへ送り緑化を実施することで、地球環境に関心を持つようになり、身近な環境問題にも目を向ける人が増加しています。
4.国際理解教育に役立っている
 山岳少数民族アエタ族と文通やビデオ映像で交流することで、お互いを理解し、文化の違いを認めあうことができたのです。
5.住民の自治能力形成に寄与している
 民間主導で運営している「国際葛グリーン作戦山南」は、活動協力者の輪を広げ、民間の力を結集して頑張っています。この頑張りが住民の自治能力形成に役立っていると感じられます。
6.人びとに「喜び」「生きがい」「誇り」を与えている。
 山南町に住む人びとは、日本の田舎の小さな町に住むながら国際協力が出きるということに喜びを感じるようになり、この喜びは「生きがい」と「誇り」につながっているのです。


まとめ

 今、地球環境と国際協力は地球市民の生活に欠かせないテーマです。このテーマをまるごと抱え込んだ「国際葛グリーン作戦山南」の活動は、ただ民間団体の活動にとどまらず町をあげての取り組みとなり、官民協力がうまくできている事例の一つとなっています。
 全国的に経済効果をねらった町づくりが多くある中で、唯一町民の「誇り」を生みだした町づくりとして注目されているところです。
 そして、いつの間にか人びとは『葛のまち山南町』と言うようになり、葛グリーン作戦が山南町の町づくりの一つに位置づけられるようになりました。
 葛グリーン作戦に参加した山南町民は、きっと近い将来、火山灰の大地に緑が蘇り豊かな実りを取り戻したことを確かめるため、ピナトゥボを訪れるでしょう。