「ふるさとづくり'99」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

根獅子の浜を素材に、総意と工夫で創る自立のまちづくり
長崎県平戸市 ヒラド・ビッグ フューチャーズ
故郷と本会のあらまし

 「日本の水浴場55選・根獅子」は「結の心」が息づく心豊かな町だ。人口は734人、世帯数192戸、半農半漁で青年を引き付ける魅力ある産業も娯楽施設もない町だが……。西洋文化発祥の地・平戸市街地から24キロ、玄界灘に沈む夕日が美しい浜辺の町だ。
 ヒラド・ビッグ フューチャーズは「現実を嘆き、批判し、愚痴をいっても何も生れない。俺たちが他人に頼らず自分の町を楽しく面白く創っていきたい」という思いから、平成7年9月に23人で発足。現在は「過疎も資源の一つ、こどもの頃に遊んだ砂浜を活かして地域の人たちと楽しもう」といろんな活動を展開している。


結成前夜

 20年前に青年団の核だった数人が、平成5年9月、国内外の選手400人を集めて「平戸トライアスロンin根獅子」を開催し、約2万人を動かした。全国の関係者から絶賛を浴び、強い継続の要請にもかかわらず、当時の行政は民間主導型のこのイベントに冷やかであり、断腸の思いで断念せざるを得なかった。このことが「自らの地域は自力で創る」、という覚悟となり本会発足に燃えた。しかし、実績を積む内、行政の理解は深まり、今は極めて良好な関係にあり、継続的な実績が大切なことを実感した。


活動の軌跡・交流が生む豊かなまちづくり

 キャッチフレーズは“交流が生む豊かなまちづくり”。発足14日目「海彦山彦物語」開催は、「過疎逆」で宝珠山村青年との出会いが縁で始った。40名の福岡県朝倉郡の山彦たちを迎え、海の自然体験を通して意見交換し、今後の交流を約束した。これを契機に情報やネットワークが拡がり、広域的な交流による地域おこしが展開されることになった。また、市基本計画学習会を開講し、50人が熱心に学び愛郷心を涵養した。
 2年目は自然農法を学習し、赤土を活かしてバレイショやタマネギ、ビワなどの特産化を目指している。ビワは11年度から出荷できる。また、「ジャンボタニシ活用水稲栽培」講習会では、農家70名が参加し、タニシの雑食性利用の水田除草に関心が高く、マスコミにも反響があった。7月20日海の日の“根獅子からのメッセージ”は、白砂青松の根獅子の浜をキャンバスに、砂の造形に福岡を始め100人が技を競った。サンセットコンサートは洋上のステージで、夕日のシンガーソングライターの音楽に酔った。手作りの特大スクリーンを洋上に設置した洋上映画祭では、星と漁り火揺れる中で深夜まで500人の観客が夏の一夜を楽しんだ。また、テレビで放送され嬉しい反響を呼んだ。このイベントで市民の「良くやった、やれば根獅子もできるじゃないか、来年もやってよ」と沢山の激励に、私たちは苦労が報れ、手を取り合って喜んだ。幸いこの試みに多くの地元企業、県・市や各種団体、活性化グループから暖かい協力を戴いた。
 11月に山口県のんた塾生10人が来町し、「のんた&ばってん交流会」を、県内外7団体90人で開催し情報交換した。のんた塾とは山口県の地域リーダー養成塾のことである。“まちづくりを先進地に学ぶ”ことは本会の基本で、大山町や星野村にまちづくりを、MOA全自連大仁農場では自然農法を学び、各々の活動分野に活かしている。


平成9年度活動の軌跡

*「美しい海辺・春の絵画展&春の海演奏会」はミュージアムも音楽堂もない根獅子で絵画展と九響アンサンブル演奏会を開催した。本物の文化に触れることがない地域の人びとに深い感動を与えた。参加者は約1000人、福岡からの参加者も多かった。
*「手作りビール講習会」で70人が参加し自分のビールの味を楽しんだ。本会は200本作ったが、イベントで使い参加者の好評を得た。今年はワインを作る。
*「シャンソンの夕べ」は、シャンソンの草分け「古賀力・芳賀千勢子」の公演で、小学生は無料招待し、市内外300人がシャンソンを楽しみ、大変喜ばれた。
*「根獅子からのメッセージ」は7月20日、海の日記念イベントで毎年開催する。海の恵みに感謝し、清らかな根獅子の浜で童心に返り、心身共にリフレッシュしようと海をキャンバスに夢を描く活動である。タイトルは根獅子から情報を発信する願いを込めて命名。海浜掃除も実施し、水環境の保全に努めている。
 第1部「船上まちづくりセミナー」は、県内、福岡、大分、山口の75人の若いリーダーたちがネットワークを広げ、果敢に地域を起こしていくことを誓い合った。
 第2部「サンセット洋上コンサート」は、600人が「ハル」のボサノバに酔いしれ、昨年より参加者は約100人ほど多かった。若い人たちが増えたのが特徴だ。
 第3部「洋上映画祭」は名作「サウンド オブ ミュージック」を楽しんだ。映画館が絶えて20余年、映画館のない渚に映画はあり、音楽堂のない海辺に音楽は流れた。参加者が来年を約束してくれ、多くの感謝の言葉に苦労を忘れ涙した。
*「マル・ウォルドロン・ジャズコンサート」8月1日、平戸初の世界的なジャズ公演、マルのピアノ演奏は神業。聞く人を魅了し、県内より定数200人の参加。本年は関係団体等の理解と支援、メンバーの努力で300万円の経費を調達した。


イベントで心を紡ぎ、心を束ねてまちづくりの火種を灯す

 “根獅子からのメッセージ”で得たものは、成功を目指しやる気を持って取り組めば、何事でも必ず成功させる自信だ。
 活動状況はテレビ、新聞、公共広報機関紙で報道され、あしたの日本を創る協会情報紙「まち・むら」60号にも紹介された。
 根獅子の評価も大きく変わり、今、平戸で一番輝いている町だ。祭りは人の心を束ねるといい、イベントと同意語。まちづくりを始めるには、まず地域の人びとの心を紡ぎ直し、心を一つに束ねることが先決だった。まず、イベントを体験させ、やる気を起こし自信を持ってもらうことだった。本会の最初の活動は自分も楽しみ、人びとの心にはやる気の火種を点けて回る活動であった。
 そして、少しずつまちづくりに関心を持った人びとの火種は、新しい風を起こし始めた。風は、「無いもの、欲しいものは創る・本会の理念」から発している、と確信する。


活動から多様なクループが誕生

 その風が活動の効果というならば、次の新しいグループを誕生させた。
*「平戸自然農法研究会」本会の農事部的存在で行政の理解が深い。本会会員以外の人も多く活動し、ビワ等を農産物ガイドラインに沿い特産化を図っている。
*「マージョラム」本会の女性部的存在。町の環境診断と生活改善を提案し実施させた。婦人会等と連携し「美しい海と花の町推進運動」を推進中。ハーブや故郷の味を生かした特産品をイベントで即売し、評価は上々で加工所を検討中。
*「グリーンツーリズム研究会」も活動から生まれ、昨年は100人を宿泊させた。立地条件を活かし、受入れ体制を整備し、イベントと農漁村自然体験型の連携を図る。
*「ふるさと生活学校」マージョラム活動から発足。長崎県新生活運動協議会の指導を受けて、これからの活動が期待されている。これらのグループは有機的に連携し、その活動はなくてはならない存在になりつつある。また、本会の人づくりのため、派遣事業や各種研修会及び大会に参加させ、先進地研修で学び本会活動に活かしている。
 農水産業の衰退は甚だしく、このままでは集落の崩壊につながる。本会は人材を育て前述のグループ活動を強化し、遊休農地を活用し海産物とともに付加価値をつけた特産品開発とグリーンツーリズムを積極的に進めたい。是非とも起業活動に結び付け就労の場を創出したい。それが後継者づくりと集落の再生に繋る。


今年の主要イベント

*7月20日は海の日、水浴場55選認定記念事業“根獅子からのメッセージ”に水浴場選定委員で、女優の「岸ユキさん」が特別参加するサンセットコンサート。「ハル」出演も根獅子の浜のファンとなり、特別出演する。
*8月8日は「こども海彦山彦ものがたり交流会」で福岡県内と地元の小学生100人が根獅子の浜で自然体験学習をするもの。山の子と海の子の交流で漁労や海水浴、海辺の生物の観察など体験する。3地区が交互に会場を担当し、来年は宝珠山村が担当する。
*「隠れキリシタン教室」は長い沈黙に光を注ぎ、伝承と学術研究に寄与し、大学のキリシタン研究室を本地区に設置したい。関係者は地域内外から純心大学宮崎賢太郎教授を始め100人の参加を、11月下旬に予定している。
*「県地域づくり特使派遣受入れ事業」に京都府大江町大江塾5人を招聘し、地元関係者30人と情報交換をする。10月4〜5日の予定である。


今後の活動は、自ら輝き地域を暖め輝かせること

 本会は前述の他、福祉や環境保全、ボランティア活動も取り入れ、地域密着と自己充実を求め、全市的な人のつながりを図る。そのためには、きめ細かな触れ合いのある町を目指して、他団体や行政と、さらに綿密な関係を構築していく。寒い日の焚き火は燻っていては、誰も暖まろうとはしない。赤々と燃え盛る焚き火にこそ、多くの人びとは集まる。その人たちこそ、薪であり、焚き火の元となり、益々燃え盛る。まちづくりのグループ活動も、この赤々と燃え盛る焚き火のようでありたい。グループの人は薪であり、火の種だ。まちづくりは情熱ある理念と、不退転の決意を持って赤々と燃える「可燃性の人」を創ることだ。ならば、「可燃性の人」が燃える焚き火となって、暖かく輝く町を創る。
 本会は、「可燃性の人」の集合体であり、燃え盛る焚き火のような、また時には、炎を煽る風のようなグループとして、自ら輝き、地域を暖め輝かせていきたい。