「ふるさとづくり'99」掲載
<集団の部>ふるさとづくり振興奨励賞

萩・会津若松市民を繋ぐミュージカル“早春譜”
山口県萩市 シアター365萩オフィス 劇団さくら組
 明治維新前夜の「戊辰戦争」で、長州藩と会津藩は官軍と幕府軍に別れて戦った。130余年も以前の歴史上の出来事だが、当事者間、とくに悲惨な最期を遂げた白虎隊の地元会津地方の人びとにはまだ強い「こだわり」があった。その「こだわり」を少しずつほぐしていったのが、市民手作りの創作劇”早春譜”で、中心となって取り組んだのが「シアター365萩オフィス劇団さくら組」(代表・杉山浩司さん、メンバー31人)だった。


早春譜の交換公演が両市民の心を開く契機に

 平成8年のアンケートで、市民の間に「今なお山口県にはこだわりがある」32%、という回答にみられる市民感情を考慮して、会津若松市側は、萩市からの姉妹都市縁組の申し入れや経済団体の友好関係の呼びかけを「時期尚早」と拒んできた。
 同年11月、会津若松市文化振興財団が市民参加の創作劇”早春譜”を上映。劇は公募シナリオの最優秀に選ばれた作品で、会津の旧家の女性が萩出身の青年と恋に落ちるが、会津人の誇り高い祖父がそれに猛反発する、という筋立てだった。公演に招待された萩市長や同市民も観劇していたが、地元の市民感情を考慮して「和解」を口にすることなく帰るほかなかった。


「平和は心の中に」を噛み締めた両市民

 会津若松で上演された”早春譜”は、市長と共に観劇した萩市民の杉山浩司さんや池令子さんらの心を強く動かし、仲間でつくるアマチュア劇団「さくら組」と、創立10周年になる劇団「シアター365萩オフィス」に”早春譜”の上演を持ちかけ、討論の上公演を決断したのである。そして、脚本を書き直してミュージカルヴァージョンとし、内容的には「分かり易く」「史実に忠実に」「寛容と共存の訴え」を重視し、メインテーマを、Peace in the Heart(平和は心の中に)に決めた。
 会津若松市文化振興財団から原作の使用及び公演の許可が下りたのが9年3月下旬だった。準備期間はわずか2か月半しかない。脚本や作詞、作曲、舞台構成を固め、芝居や歌、ダンスなどのレッスンから、大道具や小道具、衣装、ポスター、チケット、チラシの制作、マスコミへの広報活動、チケット販売にと、団員たちは忙しく動き回った。
 9年6月、「萩スカイシネマ」での8回の公演は全て超満員の盛況。会津若松市からも山内市長や会津版”早春譜”の関係者も駆けつけた。ミュージカルの成功を受けて、早速七月には会津若松市民の有志の間で「若松公演を成功させる会」が結成された。萩市民側も「さくら組”早春譜”を会津に送る会」を組織した。遂に長い「こだわり」を越えて、会津と萩の両市民が演劇を通して同じ土俵に入ったのである。
 白虎隊の命日に当たる9年8月23日、劇団さくら組一行が会津若松市に入り、市長以下多くの市民の熱烈な歓迎を受け、満席の観衆を前に、ミュージカルヴァージョン”早春譜”が演じられた。そして「平和は心の中に」を参加者は噛み締めた。