「まち むら」105号掲載
ル ポ

世代を超えた交流の場を目指す、コミュニティサロン・クローバー
秋田県秋田市 NPO法人子育て応援Seed
 0〜1歳児を連れたママたちが集まってくる。赤ちゃんをあやしながら、ママたちのおしゃべりが、そこここで広がっていく。飲み物やカップ、洋服や小物を見比べながら、もう情報交換が始まっている。手遊び歌が流れだす。歌うのは元幼稚園の先生。赤ちゃんを抱っこしながら、親子の遊びが始まる。
 ここは指導者もサポートもすべて、ボランティアによって運営されているコミュニティサロン。ボランティアに参加しているのは、主に小学生の子どもを持つ母親世代。「ここでボランティア活動をして、喜んでくれる人がいると、自分にもできることがあるという自信がもてる」、「役に立てたと思うと、人にやさしくなれる」とボランティアたちは話す。忙しい時間をやり繰りしながら、自分ができる範囲でのボランティア活動を、楽しんでいるように見える。


非営利活動として運営される交流サロン

 秋田市中心市街地にコミュニティサロン・クローバー(以降はクローバー)はある。江戸時代、久保田藩の居城があり、今も市民の憩いの場として愛される千秋公園のすぐそば。現在、秋田市の人口は32万人余り。かつては県都としてにぎわったが、郊外に住宅地が広がり、大型商業施設が建設されたことなどによって、全国の地方都市同様、中心部の空洞化が社会課題となっている。
 この場所で先代から開業している耳鼻咽喉科医院の1階に、昨年4月、赤ちゃんから高齢者まで、世代を超えたあらゆる地域住民が集い、お互いが助け合いながら交流するサロンを目指して開設されたのがクローバーである。
 実施主体は「NPO法人子育て応援Seed(シード)」(以降はSeed)。平成12年、「育児サークル スマイルキッズ」として発足したグループが、平成17年、支援対象を就園前の子育て世帯から子育て世帯全般に広げるために、団体名を「子育て応援Seed」とし、平成20年、秋田県からNPO法人の認証を受けた。
 会員構成は、正会員(役員含む)25名、賛助会員4名からなり、年会費は、正会員1000円、賛助会員5000円となっている。また会員とは別に、協力団体と協力者(個人)があり、協力金で支援している。ボランティアでサロンでの見守りをする、協力サポーター8名もいる。
 クローバーの開設時、秋田県の「地域福祉拠点づくり事業」として、空き店舗を活用するための助成金を受け、室内の改装費に充てた。月々の家賃は、医院の待合室も兼ねるということで、無料。寂しくなる一方の地域に子どもの声が響けば、地域がにぎやかになるのではないか、との小泉院長の思いがある。光熱費などの管理費は、会費収入で賄う。クローバー利用者は、原則として利用料300円を支払い、飲み物のサービスを受けながら利用する。講座参加者は、別途参加費、材料費を支払う。


子ども連れでゆっくりできる場所

 2か月毎に発行される「Seed通信」(A3表裏4ページ、発行部数2000部)には、休日の日曜日を除いてたくさんの講座が並んでいる。0歳児とママに向けたもの、1歳から就園前の児童に向けたもの、外国出身者から学ぶ講座、転勤族や県外出身者を対象にした講座、おやつの手づくりやお孫さん連れのシニアに向けた講座など、対象者と目的が細かく分かれた講座がずらり。
 Seed理事長の山崎純さんは、「人の興味は様々、だから講座も選べるように数多く企画します。子育て後の自立を支援する目的もあるので、ここを使って夢の実現のために準備をする方もいます。講座以外にサロン開放日もあるので、お茶を飲みながらゆっくりしてくださる方もいます。とにかく、人と人とのかかわりが増えればいい」と話す。
 赤ちゃん連れでの参加者は、「以前、お料理教室に参加したとき、スタッフが温かく迎えてくれたことがうれしかったので、今日は月齢が近い子どもが集まる講座に来ました。ミルクをどのくらい飲むとか、はいはいのこととか、誰かに聞いてもらうと安心します。家は狭いから、子ども連れでゆっくりできる場所がほしかった」と話す。


地域とつながり、秋田への愛着を育てる

 平成12年からの活動を通して山崎さんは、「Seedの活動のメインは在宅子育て支援。次に、地域の人との交流です。子育て支援活動は環境、福祉、男女共同参画、世代間交流など、多くの分野が重なります。子育てママだけが助け合うのではなく、地域の方から声をかけていただいたり、見守られたりしてはじめて、安心して子育てができるのです。地域の中には子育て世帯以外の方の方がむしろ多く、そんな方たちと協力し、助け合いながら豊かな子育て環境をつくっていきたい。私たちが子どものころ、周りの大人からたくさんの愛情をいただいたように、今の子どもたちも地域で育みながら、ふるさと秋田への愛着を育てたい」と、大きく先をみる。
 もっと地域に開かれた場づくりをしたいと、昨年から開催されているのが「中通倶楽部」である。市の中心部、商業地域の強みを活かして、周辺の商店から専門家を講師に招いて開くカルチャー教室だ。昨年度は生命保険協会助成事業として、フラワーアレンジメント講座、手芸講座、そば打ち講座、エレクトーン体験の4講座を開催し、好評を得た。
 今年度の企画として5月に開かれたのが、「中通倶楽部・手芸部」。皆が同じものを作るのではなく、各々が作品や作りかけを持ち寄って、おしゃべりをしながら、互いに教え合う部活動のような集まりができたらと企画された。当日は、秋田市の広報誌や人づてに知った、手芸好きが20人ほど集まった。子どもから70代の方まで、教えたり、教えられたりするうちに次回の日程も決まっていく。次回は、平日と土曜日2回開催することになった。参加者の希望を聞きながらの柔軟な対応で、参加者も満足していた。


本気で仲間づくりを

 1周年を迎えたクローバーについて、スタッフに聞いた。英語の歌やゲームを親子で楽しみながら、異文化を学ぶラボパーティを主催する小玉由紀さんは、「今まで、Seedの活動を遠巻きに眺めていた人たちが、クローバーができたことで参加できるようになり、広がりができた1年だった。人が人を呼んできました」。親業訓練インストラクターとして、親業講座を受け持つ鈴木聡子さんは、「子育て情報と一緒に、おいしいものの情報も集まるようになりました(笑)。人とのお付き合いについては、とてもいい勉強になりました」と、振り返った。
 山崎さんは、「アイデアを出す人、調整する人、実際動く人などの役割分担ができてきました。Seedとしては、話し合いを大切にしていて、ワークショップや研修会のテーマも、そこから出てきたことを選んでいます。リーダーとしては、待つ姿勢、聞く姿勢を心がけました。ここにかかわってくれる人は、基本的に子どもが好きなやさしい人です。みんながいい方向に向けるように、お互いを認め合っていきたいと、仲間づくりを本気でやってきました。スタッフも、クローバーはここに関わる人たちが、一緒になって作る場所なんだ、という意識になっているのを感じます。ボランティア活動を通して、みんなで成長していきたいと思っています」と、明るく話す。3人の和やかなやり取りがクローバーの雰囲気をそのまま伝えている。