「まち むら」106号掲載
ル ポ

生ごみのリサイクルから環境と食の大切さを伝えたい
新潟県新発田市 NPO法人ユー&ミーの会
 自然豊かな城下町の新発田市は、数十年前までごみステーションからただよう悪臭、その生ごみを食べ散らかすカラスに悩まされてきた。今でも日本中のどこにでもある光景が、ふたりの主婦の思いと積極的な行動によって、少しずつ変わってきた。
 「ごみを減らして、空気と水をキレイにしたい。私たちが家庭できることはなんだろう」。1996年、ふたりの思いから始まった生ごみのリサイクル。小さな活動が7年かけて広がり、2003年に「NPO法人ユー&ミーの会」として発足。今では新発田市内の小・中学校の給食の食べ残しや家庭で出た生ごみを分別し、生ごみから堆肥を作り、農家に還元。出来上がった農作物を地元の学校や家庭で消費する「地産池消」の食の循環につながっている。『捨てればごみ、活かせば資源』を合言葉に、理事長の佐藤恭子さんは生ごみのリサイクルに取り組んでいる。


子どもたちに変化
食べ残しが減った!


 現在、生ごみの分別に協力する会員は130戸、法人会員2社。3年前から新発田市と提携し、6モデル地区(米倉、大木、板山、上羽津、桜ヶ丘、東新3丁目)の約1000戸で生ごみの分別指導にあたる。さらに、小学校8校、中学校2校でも給食の食べ残しの残さ(ざんさ)の分別指導、回収も行ない、出来上がった堆肥で育てた野菜を食べる取り組みを続けている。子どもたち自らが堆肥化を実践するのは、新潟県内でも珍しい試みだ。
 2004年に始めてから、少しずつ子どもたちにも変化が訪れた。「子どもたちの好き嫌いと食べ残しが減ったんです」と各校の先生たちは口をそろえる。給食を食べ終わると、子どもたちは残さを水切りのついた特別のバケツに入れ、それを校内に設置した集積所に運び、米ぬかを入れる。一次発酵まで子どもたちに任せることで、食べ残しの多さや肥料になることを目の当たりにする。佐藤さんたちは週に2回、その生ごみを回収し、市内の有機資源センターへ運ぶ。ある小学校では、この肥料を利用した野菜づくりの取り組みで、民間企業の食育コンクールにてグランプリを受賞したこともある。
 学校での取り組みは、初年度から順風満帆だったわけではない。においやウイルスなどを心配する声も多かった。問題が発生したらその都度、学校へ訪れて先生に説明し、改善策を練った。今でこそ、市内の中学校でも行なっているが、まだ中学校が生ごみリサイクルに取り組んでいないとき、ある小学生が中学校に入学する直前、佐藤さんにこう尋ねた。「中学校でもやるんだよね? またごみにするのかな?」。その言葉に、佐藤さんは子どもの思いを叶えるために、中学校でも導入してもらうよう校長へ直談判したこともあった。
 また、生ごみのリサイクルだけではなく、学習の一貫として、有機堆肥センターやその堆肥で作っている農家へ子どもたちを案内することもある。目を輝かせる子どもたちに、野菜を育てる、料理を作る、食べる、残ったものを土に返すという食の循環を教えている。今では子どもたちから「ありがとう」という手紙が届くようになった。「それがなによりうれしいんです」と佐藤さんは笑みを浮かべる。


空気と水が汚れている
私たちができることから


 「ユー&ミーの会」の発足のきっかけは、佐藤さん自身の難病にあった。20歳代〜30歳代まで紫外線を浴びると顔や体がむくむ特異なアレルギー体質で、苦しさのあまり寝たきりの日も多かった。月に4回も通った大学病院皮膚科の医師に「空気と水が汚れているから」と言われたことも。
 「ごみを減らさなければ、同じ病気にかかる人が増えるかもしれない」と、同じく主婦をしていた林さんに声をかけて、ふたりで勉強を始めた。野菜くずや魚などの残飯類は、土に戻る。ごみステーションのよう、悪臭は生ごみから出る水分が原因だと知ると、そこからふたりの試行錯誤が始まった。
 「どうしたらごみと水分をきっちりと分けられるか、嫌なにおいがしないようにするためにはどうしたらいいのか、いろいろ考えましたね」と佐藤さん。2年目にして、水分とごみを分別する二重底のバケツの使用と、水分を抜いた生ごみに米ぬかを与えることで、嫌なにおいがしなくなった。米ぬかは企業にお願いして無償で提供してもらった。
 それから佐藤さんたちは「ごみを減らしましょう」と、各家庭に1軒ずつ説明しながら歩き、賛同してくれた10軒の家に二重底のバケツを置いてもらい、定期的に回収。当初は生ごみの中にビニール袋やプラスチックが入っていたこともあったため、1個ずつ調べ、手で取り除いたこともあった。各家庭に分別のためのチラシを作成して説明に回ったりと忙しい日々を送った。
 その集めたごみを堆肥にするために、知人から借りた土地で佐藤さんたち自らスコップを使って土と混ぜたこともあった。数か月かけて出来上がったものを農家に持っていくと、「こんなの堆肥じゃない」と叱られたことも。それでも、地道に続けることで協力してくれる人や企業も現れてきた。堆肥は市内の大型有機堆肥センターが受け入れ先となることで、生ごみの回収量も増やすことができ、良質な堆肥を大量に作られるようになった。
 佐藤さんたちと堆肥センターの職員は、よりよい堆肥を作るために、今でも改良を重ねている。そのうわさが口コミで広がり、「ぜひ売ってほしい」という農家も増えてきた。近年では、堆肥が足りないときもあるという。


できることはある
そのきっかけ作りがしたい


 生ごみのリサイクルや環境問題について、学校や団体、新潟県内の市町村などから講演の依頼も増え、県内を飛び回る日々を送る佐藤さんたち。忙しい合間をぬって、地元の食材を使ったエコクッキング教室も定期的に開催。その日の食材を提供する農家を呼んで、参加した市民と農家の交流も深める役割も担っている。ときには、市民から希望の野菜のリクエストがあれば、その野菜の農家を紹介したりと、人と人をつなぐパイプ役としても活躍している。老人ホームへ招かれたときには、「お孫さんたちに、美しい地球を残しましょう」と、生ごみリサイクルのことはもちろん、空き缶やペットボトルのごみの出し方についても伝えている。
 佐藤さんたちには、まだまだやりたいことがある。市内の幼稚園や保育園での生ごみのリサイクルもひとつ。小さいころからの意識づけが、学校を経て大人になったときにも当たり前にできるようになるためだ。もうひとつは、「私たちが地球を壊したんです。だからこそ、みんなでエコに取り組んでいきたい。各家庭を回っていると、ごみ以外にも興味を持つ方が増えてきました。若い人たちにも興味を持ってもらえるように取り組んでいきたい。誰にでもできることはある。そのきっかけを作りたい」。新潟県内で開催されるエコイベントにも積極的に参加し、たくさんの人たちに生ごみのリサイクルや環境問題について呼びかけている。できることから、一歩ずつ。美しい地球を、未来の子どもたちに残すために。