「まち むら」109号掲載
ル ポ

ワガママ系おやじに心地よい子どもの健全育成ネットワーク
宮城県仙台市 黒松パネット
多彩なイベントを 意欲的に開催

 仙台市立黒松小学校の学区をベースに活動する黒松パネット。パネットとは「パパ・ネットワーク」の略、文字通りお父さんたちの集まりだ。
 活動の目的は、子どもが育つ地域の顔のつながりを広げ、イベントなどを通して子どもの健やかな成長を願うというもの。結成以来毎年2〜6回の親子で参加できるイベントを開催している。その内容は20数種類にも上り、バレーボールやサッカー大会、スキー、餅つきのほか、パオ(モンゴルの伝統的移動式住居)を町内のモンゴル人家族と一緒に建てる「パオパーティ」、ドーム球場を借り切って近隣4校と一緒にキックベースなどをする「シェルコムで遊ぼう」、学校の裏山を遊べるように整備する「プロジェクトX 〜裏山編〜」といったユニークな企画も。
 「小学校に入学したばかりの長男のために『学校に泊まろう!』に参加した」というのは小野祝夫さん。防災訓練も兼ねたこのイベントは、体育館に泊まり夜の学校探検などの遊びのほかに、サバイバルごはんを作ったり、防災ヘリや消防車も呼んだ。「私自身は積極的な方ではなく最初は人見知りしていましたが、一緒に活動していると通じるものですね。参加者の方には他のところで会っても声かけてもらえますし、参加してよかったです」最初は奥さまに背中を押されての参加だったそうだが、早くも企画・準備などに関わる会員(以下コアメンバー)となった。


「おれたちも楽しい」ことが重要な条件

 黒松地区は民間や県営の集合住宅などが多く、移住者が大半という地域。初代代表の長谷川嘉宏さんは同地区で育ち、結婚してアパート住まいとなった。近隣には同世代の夫婦世帯が多く、ほぼ同時期に子どもが生まれたりもしていた。「そんな環境でしたので、まず『せめて隣の人と飲まなくちゃ』と思い、『ついでに隣の隣の人とも』と広げているうちに10家族が仲良くなりました」。これが黒松パネットの起源である。
 「おやじ達がつながれば、地域は間違いなく生き生きしてくる」という信念で活動開始、99年3月、お父さんだけで第1回定例会「まずは集まってみっか、の会」開催に至る。PTAなどの場合、集まるのはほとんどがお母さんだ。黒一点の場を敷居が高いと感じる男性は少なくない。2代目代表の菅野知成さんも「男は女の人に囲まれると弱くなって、居心地がよくない」と笑う。
 12人でスタートした黒松パネットは、その後実にのびのびとした会になっていく。
 前述の経験から、まず大切にしているのが居心地のよさ。堅苦しくない、ムリがない、楽しい…そんな「おやじ達が安心して集える」会を目指した。子どもの育成に貢献する手法として「おやじ達が持つ三種の神器〈知恵・ワザ・コネ〉を子ども達が育つ地域に還元しよう」と謳い、イベントはお父さんの得意なことから企画。得意なことをするとき人は生き生きとする。そんな姿を子どもに見せ、一緒に楽しい時間を過ごす。そのような場ならお父さんたちも参加しやすいであろうという思惑もあった。
 学校やPTAとは少し距離を置いている。これも居心地を考えてのこと。といっても、イベントの告知・参加者募集は学校が協力してくれ、イベントには先生も参加、PTAが必要とするときは黒松パネットとしてではなく個人として積極的に協力するという良好な関係である。お母さんたちについては、「お母さんたちのネットワークには遠く及ばない」と敬意を表し、その口コミ力を借りたり、イベントの際には目配り、気配りの協力をありがたくいただいている。
 そして、活動が決して子どものためだけで終わらないのがこの会らしいところ。割とお父さんたちの理想が採用されている。「一翼を担うというほど肩に力が入っているわけではないのです。どちらかというとワガママ系で役に立ちたい。その方が気楽だし、カッコいい!」という長谷川さんの笑顔は屈託ない。コアメンバーの小野寺健さんも「お父さんが楽しくないとだめ」と言い切る。実際、企画会議では「それじゃ、おれたちが楽しくないじゃないか」という発言で修正されることも。だから、「裏山プロジェクトで草刈機や鉈の使い方を覚え、作業がおもしろかった」とか「『学校に泊まろう!』でヘリが正面から飛んできたときはドキドキした」とお父さんも目を輝かせるのだ。


地域も家庭もつながりが密に

 活動の成果は各所に現れている。
 参加した子どもに別の場所で「イベントのおじちゃん」と声をかけられてよろこんでいる人もいる。それが進化すると「おじさんA」から脱出して「○○さんのおじちゃん」と覚えてくれたり、小学生だった子が大学生になっても挨拶してくれる。
 家庭内においては、情報交換が増えている。菅野さんは以前は一方的に話を聞くだけだったが、自分からも話題を提供できるようになり、話題に出る人の顔と名前も一致するようになった。ほかにもさまざまな活動に取り組む長谷川さんは「活動のなかで唯一妻に歓迎されているのが黒松パネット(笑)。子どものことですし、妻も時々参加しますから。コアメンバーの子ども同士も仲良くなるし、子どもたちは友だちに不自由しません」と満足げ。
 お父さん自身も「地域のなかで遊べる場が増えた」という小野さんをはじめ、自分の持つ三種の神器が活かされたとき、実にうれしそうな、満足そうな顔をしているのだそうだ。
 多いときには160人もの参加者を集めてきたイベントの数々。楽しい集まりは求心力を持ち、楽しい空気は拡がっていくようだ。


人材の層を厚くして活動の幅を広げたい

 黒松パネットは「軸があるような、ないような」組織である。出入り自由で一度参加すればだれでも会員に数えられるが、役職は「代表」のみで、それ以外の人は何かを義務付けられることはない。会費はイベントの都度、参加費を負担するだけだ。分けるとすればコアメンバーと、イベントのみの参加者の2種類になる。「決まっていることをこなすのではおもしろくない。これまでもそうしてきましたが、あるところまでしか決めておらず、あとは集まった人で作っていく。学校との連携の仕方や自分たちの楽しみ方も、参加した人の話し合いで変わっていいと思うのです。だから、ビールを飲みながらの会合が楽しい。『冗談から真』みたいなことがたくさんあります」と長谷川さんがいえば、「みんな勝手な話をしていて、本当に自由。でも最後にはまとまるのです」と菅野さんも。
 自由な会だけに、強制せずにコアメンバーをいかに増やすかが思案どころ。仕事があり忙しいお父さんたち、特技があっても企画の場に進んで出てくる人は限られる。すでに「家族ではできないことをイベントで体験できる」とよろこぶ声は聞かれるが、協力者が増えれば活動の幅は広がり、さらに多くのことができるようになる。いかに潜在的なお父さんたちとつながりを作るか。「面倒なのではないか?」そんな懸念を払拭して運営の楽しさを共有する仲間を増やし、さらに多彩な活動を展開していきたいという。