「まち むら」109号掲載
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コミュニティ協議会を活用して活気ある郷づくりを目指す
鹿児島県薩摩川内市 大馬越地区コミュニティ協議会
 平成16年10月に1市4町4村が合併して誕生した薩摩川内市が、市民参画、共生・協働のまちづくり、生涯学習をいかしたまちづくりを進めるために組織した「地区コミュニティ協議会」は、概ね小学校区を1地区として市内48ヶ所に設立された自治組織だ。旧入来町の大馬越(おおまごえ)地区に協議会が発足したのが平成17年4月。340世帯761人、高齢化率は実に38.3%、小学生はわずか22名という過疎地区はこの「地区コミュニティ協議会」を活用しながら様々な活動に取り組んでいる。


コミセンを拠点に多彩な活動

 大馬越地区は県都・鹿児島市の中心部から国道3号、328号を経由し車で40分ほどの山間部に位置し、水稲、お茶、キンカンなどが主な農作物としてあげられる。薩摩川内市誕生前は地区の活動は子ども会や婦人会、老人クラブなどそれぞれの組織が各々に行なっていたが、「地区コミュニティ協議会」発足後はそれまで個別に活動していた団体が連携し、行政ともパートナーシップを結ぶことによって、「自分たちのことは自分たちの手で」という理念のもと地域活性化を目指した活動を行なうことが可能となった。
 大馬越地区コミュニティ協議会は「自治活動部会」「青少年部会」「健康福祉部会」「環境地域づくり部会」の4つの部会からなり、それぞれの部会ごとに関連する活動や事業を行なっている。自治活動部会では防犯パトロール、文化祭、さなぶり会を、青年部会では書初め会やといあげ祭りなどを実施。健康福祉部会では年に1回のふれあい弁当配達、世代間交流事業、男性料理教室、高齢者のサロン、環境地域づくり部会では「しそっぷ物語」や「ふるさと宅急便」などの特産品作りやホタルの夕べ開催と、この小さな地区でこんなに?と驚くほど1年を通して多彩な活動を行なっている。またホームページでは大馬越の情報を発信するほか、しそっぷ物語やふるさと宅急便の販売も行ない、着実に交流人口も増やしている。
 これら活動の拠点かつ会場ともなる施設として「大馬越地区コミュニティーセンター」が利用されている。ここには多用途に使える大広間のほかに農産加工室も完備され、特産品作りなどに利用されている。協議会発足後はここ「コミセン」に協議会の運営や行政との連絡を計るコミュニティ主事と協議会職員からなる「事務局」が置かれ住民の活動をサポートしている。


住民発のアイデアを形に

 大馬越地区コミュニティ協議会の活動は他地区からも視察があるほど活発だが、活動の成否は「その地区の住民がどれだけその気になれるかによるところが大きい」とコミュニティ協議会代表の吹田紘男さんは言う。
 例えば平成19年に「薩摩川内市ふるさと特産品コンクール」で市特産品協会長賞を受賞したしそジュース「しそっぷ物語」や、毎月第2、4土曜日に限定100丁が販売される手作り豆腐「まごえのおかべ」も、その発端は「しそなら庭先や畑に生えている、あれでなにか作れないか」「休耕田で大豆を作ってみてはどうだろう? その大豆で昔懐かしい堅いおかべ(豆腐)が作りたい」という住民のアイデアから生まれた。
 また「ホタルの夕べ」というイベントは、コミセンからも近い黒武者集落で行なわれていたホタル鑑賞会が基礎となり生まれた企画だ。「他の集落の人にもこの素晴らしい光景を見てもらいたい」という黒武者集落の人たちの思いはコミュニティ協議会というフィルターを通すことで、ホタル観賞会以外にも、ホタルが飛ぶ時間まではコミセンの広場でホタルの生態を学んだり、食事もできるイベントとして内容を充実させることができた。他にも米の収穫を終えた11月に開催する「といあげ祭り」は高校を卒業したばかりの若者たちが発案し、これにコミュニティ協議会のサポートが加わって、ステージあり屋台あり花火ありの、老若男女が楽しめるイベントとして発展させた。
 このように住民と行政との中間に位置するコミュニティ協議会という組織が上手く機能しているのが大馬越地区なのだ。しかし世帯数が少ない過疎地とはいえ、様々なイベントや活動の広報は容易ではない。そこで、ミニコミ紙「コミセン便り」を月に1回事務局が作成し市の配布物と共に全戸に配布している。各部会の会議の議事録やイベントの報告は写真もふんだんに使い、1ヶ月のコミセンの予約状況や行事をまとめたカレンダーも加えた盛りだくさんの内容で、住民とコミュニティ協議会をつなげるツールとして活用されている。


「楽しい」が活動の原動力

 しそっぷ物語やおかべなどの特産品づくりは地域の活性に一役買っているが、地区全体が潤うほどの大きな収益とはなっていない。これまでの収益は豆腐づくりのための機械を購入したり、小額だが作業従事者に配分した程度だという。もちろん今後の活動では収益を上げていくことも目標だが、なにより「作業に加わることで人と人との交流が活発になる」ことのほうが大切だと吹田さんは言う。
 しそジュース作りではしその葉を1枚1枚手でちぎらなければならないが、その作業は主に高齢者が担っている。その高齢者たちが「自宅で作業をするより、コミセンでみんなとおしゃべりしながら作業するほうが楽しい」と、どんどんコミセンに集まるようになった。人が集まれば話しが弾み、笑顔が増え「楽しかった」という思いが積み重なることで、また次の活動にも参加したいという意欲に繋がっていく。そして意欲的な高齢者が加わることで世代を超えた活動が盛り上がり、その副産物として「収益」があるのではないだろうか。まさに「みんなが協力し、歴史・自然・文化を守り未来を拓き活気ある郷をめざす」という地区振興のための方針がここでは実践されている。


今後の大馬越の活動

 大馬越地区ではこれまでのイベントの継続や特産品づくりに加え、今後の大きな活動として地区南部に位置する清浦ダムへと続く遊歩道の整備を予定している。ここにはダム完成以前に使われていた旧道があり、樋脇川沿いのその旧道を整備すれば森林浴も楽しめるウォーキングコースに最適なのだという。さらに遊歩道完成後のイベントもすでにアイデアは出ているそうで、コミュニティ協議会としては行政のバックアップを求めつつ、対象集落の住民をサポートしながら大馬越地区はもとより近隣のコミュニティとも連携しながらこの活動を進めていきたいという。
 地区の高齢化や過疎化はこれから先、どの地区で起きても不思議ではない。少子化も進み地域の絆づくりは難しくなるかもしれない。けれど「高齢者だから動けない、住民が少ないから何もできない」ではなく「今の自分たちにできることを自分たちの手でやろう」と発想を切り替えることでまちづくり、地域づくりは動き出す。そのことに一足早く気付き、コミュニティ協議会という組織を活用しながら実現しつつあるのが大馬越地区なのかもしれない。