「まち むら」110号掲載
ル ポ

ボランティアグループの夢 親子ひろばを通じて廃校を地域のふるさとに
東京都立川市 子育て支援ボランティア ミニトマの木
無償ボランティアでも活動に参加したい

“たまがわ・みらいパーク”
 旧多摩川小学校(東京都立川市)の校門の上には、こんなプレートが掲げられていた。中に入っていくと、昇降口があり、廊下の両脇には教室が並ぶ。子育て支援ボランティアグループ「ミニトマの木」が運営する親子のための“ひろば”は、1階の奥の突き当たり。2つの広い教室は、今では小学生ではなく、就学前の小さな子どもとママたちが集う憩いの場となっている。
「利用しているお母さんの中には、この学校の卒業生という方もいますよ」
 案内してくれたのは、谷真理さん(59歳)。設立メンバーの1人であり、現在は代表を務めている。「それから、同じ地域で育ったお母さん同士、子どもの頃に見知った顔を見つけて、声をかけ合う場面を目にすることも少なくないです」と谷さん。
 “ひろば”の開設時間は、毎週金曜日と第2・第4日曜日の午前11時から午後3時まで。初めて利用する際に登録すれば、あとは時間内ならいつ来てもよく、食事や授乳、昼寝も自由にできる。利用できるのは0歳から就学前までの乳幼児で、利用者数は年間約千人程度だ(2009年度は1030人)。
 利用料はなく、運営しているミニトマの木のメンバーは、すべて無償で活動しているという。
「ボランティアって交通費や食費は持ち出しなので、賃金をもらうどころか、むしろ自分がお金を払っているわけですよね。それでも『ミニトマの木で一緒に活動したい』という人が集まって、それぞれが自分のできる範囲で精いっぱい関わってくださっている。そのことを誇りに思います」(谷さん)
 現在のメンバーは、保育士4人と看護師1人を含む16人。「40代から70代までと年齢はさまざまですが、楽しいことだけでなく悩みや困り事も分かち合える対等な仲間だと思っています」という谷さんにとって、無償ボランティアに対する“報酬”は、そんなかけがえのない仲間を得られることなのだという。


放浪の末に実現させた自分たちの“ひろば”作り

 ミニトマの木の発足は、2004年10月に遡る。立川市が企画した子育てボランティア養成講座1期生から4期生までの受講者の中から、「自分たちでボランティアのグループを作ろう」と声をかけて集まった有志が発足メンバーとなった。この時から会の中心的な役割を果たしてきたのが、2期生だった池谷愛子さん(59歳)だ。発足後は池谷さんが代表、谷さんが事務局として活動してきた。
 ボランティア養成講座を終えた後、メンバーはそれぞれ立川市に登録したボランティアとして、個人で子育て支援の場に派遣されていたという。ミニトマの木ができてからは、派遣先でエプロンに手作りのオリジナルマークを付け、グループとして活動するようになった。イベントや定例会も行ない、その名はしだいに立川市内に周知されていったが、それでも学習館(公民館)や子育て支援センターの貸しスペースなど、あちこちの会場をそのつど借りなければ、会としての活動ができない不便さがあった。メンバーは「やっぱり自分たちでひろば≠作りたいね」と、しばしば話し合っていたそうだ。
 そして2007年6月、「仮の住まいをいくつも持ちながら放浪していた」というミニトマの木に、定住先が見つかった。これには、ミニトマの木の活動を続けながら、廃校となった旧多摩川小学校の活用計画を進める委員に立候補し、選任された池谷さんの労が大きい。同校は、後に“たまがわ・みらいパーク”と命名されることになる。
「それはもう嬉しかったですよ。お母さんや子どもたちの居場所ですけど、私たちにとっても、こうして居場所があるのは本当にありがたいですね。スタート時には、校舎を掃除して、看板を作ってと大変でしたが、それも今ではいい思い出です」(谷さん)
 たまがわ・みらいパークの再出発から5年が経つ。立ち上げ時には数団体だった登録グループは、現在では22団体となった。フォーラムの開催や年1回のお祭りなど、全体としても少しずつ交流を深め、つながりを強めている。それでも、今では、たまがわ・みらいパーク企画運営委員会の事務局長を務める池谷さんは、「まだまだこれからです」と意欲的だ。
「子どもだけの遊び場ではなく、子どもを中心としながら異世代が集まって、学んだり交流したりできる場にしようというコンセプトでやってきましたが、交流の部分はまだ十分とは言えません。それに、学校って広いでしょ。ここの校舎は4階まであるし、多目的室や校庭、体育館も、まだまだ有効利用できます。“ふれあい農園”という校舎の前にある畑や、すぐ裏手の多摩川での体験学習といった、ここならではのプログラムの実現を目指します」


ミニトマの未来 みらいパークの未来

 今日は、“ひろば”で開かれる月に1度の誕生会。4月生まれの男の子、小嶋一平(おじまいっぺい)くん(1歳)が、お母さんに抱っこされて、おっかなびっくりの表情でみんなの前に登場した。明るい教室の中に、“おめでとう”の唄が響き渡る。そして最後に、初めての子育てを1年間、無事に終えたお母さんに“ごくろうさま”の花飾りが贈られた。お母さんの小嶋真理さんは「子どもの成長は嬉しいけれど、お祝い事があると準備や後片付けは私の仕事。今日は『ママも頑張りましたね』と声をかけてもらえて嬉しかったです」と話してくれた。
 仲間がいることの大切さを、谷さんが改めて振り返る。
「個人でボランティアをしていた時は、『これでいいのかな』と思うことがあっても、話し合ったり、互いの思いに共感したりする機会がありませんでした。慰め合い褒め合う相手がいれば、次のボランティアをする元気や勇気がわいてきます。私たちの“ひろば”に来てくれているお母さんたちにも、そんな仲間を見つけてもらえたら嬉しいですね。今すぐにではなくても、何十年か経った時に、『そういえば、あの“ひろば”の人たち、楽しそうだったな』なんて思い出してもらえればいい。私たちが仲良く楽しく活動している姿を今のお母さんたちに見てもらう、それが一番大切なことじゃないかと思っています」
 一方、たまがわ・みらいパークの将来を担う池谷さんの夢は果てない。
「夢は、赤ちゃんから高齢者まで、立川市民みんなが生き生きと笑顔になれるような居場所になること。そうすれば、子どもたちはこの場所を通して、あらゆる世代の人と触れ合いながら成長していけますよね。そして、ここで育った子どもたちが大人になった時、懐かしく思い出してもらえる立川の“ふるさと”のような存在になれることを願います」
 ミニトマの木の“ひろば”から始まって、たまがわ・みらいパークの様々なプログラムを体験しながら育った子どもたちが成長し、やがて自分の子どもや孫を連れて、再びここを訪れる。そんな姿が目に浮かぶようだ。
 天気のいい日、校舎の4階に上がると、水面がきらめく多摩川の川辺のはるか向こうに、悠々とした富士山がその姿を現すという。