「まち むら」115号掲載
ル ポ

安心、安全で住みやすい地域づくりは住民自らの手で
滋賀県大津市 NPO法人青山まちづくりネットワーク
夏祭りから始まった「青山まちづくりネットワーク」の活動

 滋賀県のびわこ文化公園都市の住宅ゾーンに広がる広大なニュータウン。その青山地区には約3000世帯、1万人が生活している。ほかのニュータウンと同じく、この地域も、高齢化や車依存型のライフスタイル、昔からの入居者と新たに入居してきた世帯との世代ギャップなど、様々な課題を抱えている。こうした現状に市民の力で取り組んでいるのが「NPO法人青山まちづくりネットワーク」(以下、まちづくりネットワーク)である。まちづくりネットワークは、もともと、地域最大のイベント「青山夏祭り」の運営をサポートするため、2007年に設立された。自治会など、役員が1年で交代することの多い組織に代わり、地域の福祉、環境、文化、防犯など様々な課題を長期間かけてじっくり取り組んでいる。青山地区を訪れ、その活発な活動の様子についてお話をお聞きした。


住民の声と地域の熱意から生まれた魅力的な施設

 地区を案内してくださったのはまちづくりネットワークの理事を務める村瀬寛治さん。NPOの立ち上げメンバーのお一人である。銀行員として活躍後、社会に寄与できる仕事をしたい、との想いで青山地区のまちづくりに関わるようになったそうだ。まずご案内いただいたのは、地区の商業ゾーン。この場所には、まちづくりネットワークの活動の成果が数多く結集されている。まずゾーン内に併設されている青山市民センターには、大津市内36学区で唯一、救急出張所が併設されている。市民センターの設計計画段階から地域のまちづくりに積極的に取り組むメンバーが参画し、住民たちの意見を集約。それを反映することで、地域の人々にとって本当に使いやすい施設を実現したという。
 その隣には大きなスーパーがあるのだが、ここも特徴的。例えば、一般的なお店に比べ、ワインの品揃えが非常に豊富である。高級なワインから手ごろな価格のものまで商品棚に相当数の種類が並ぶ。これも地域の人の嗜好を取り入れた結果だという。地域住民との話し合いの場を設け、そこで出た意見をスーパー側が柔軟に受け止めることで、地域の人が買い物しやすく、かつお店側も商品を売りやすいスーパーづくりを図っている。
 スーパーの横に広がる「プロムナード青山」には、土づくりにこだわる無農薬栽培の野菜をはじめ、こだわりの商品が並ぶ産直品のお店、ミシュランで星を獲得したホテルの総料理長だったシェフが腕を振るうレストラン、観光バスでお客さんが訪れるケーキ屋さんなど、魅力的な店舗が並ぶ。
 こうした施設の誘致は、地域開発の専門家がまちづくりネットワークのメンバーにいたことと、地域に根ざした商業施設がほしいと願うメンバーの熱意が実現したものである。
 この一帯に集まっているのは商業施設だけではない。動物病院や訪問看護ステーションなど、福祉、医療関係の施設も併設されている。また、子どもたちが身近に自然に触れる環境づくりの一環として、川が流れ、天然のメダカが繁殖するビオトープも整備され、来夏にはホタルが飛び交うよう準備中だという。


地域を支える「青山まちづくり役場」

 忘れてはならないのが、ゾーンの西側入り口に位置する「青山まちづくり役場(以下まちづくり役場)」黒くて丸いドーム型の建物が目印である。中に入るとロッジ風の暖かい雰囲気の内装が広がる。建物の2階からは、地域の一時保育施設「こいも倶楽部」を利用する子どもたちの元気な声が聞こえてくる。「こいも倶楽部」では、月、火、金の9時半から13時半の間、満2歳から就学前の子どもたちを預かるサービスを行なっている。プロの保育士さんだけでなく、地域のお母さん方やお年寄りたちもサポートに加わり、地域ぐるみの子育てを実践。竹の子掘りや流しそうめんなどのイベントも定期的に開催されているという。
 建物の1階は打ち合わせや様々な活動用のスペースになっているだけではなく、木工作業をするための道具なども一通りそろっている。まちづくり役場には、当番制で常に人がおり、地域の人々がいつでも気軽に立ち寄れる。こうしたスペースの存在が、青山地区の多くのボランティア団体の活動を支えている。
 まちづくり役場を拠点として活動する団体のひとつが「ボランティア青山」。40名近くのメンバーが月2回程活動を行なっており、その内容は地域の中学生との合同清掃、飛び出し防止看板の作成、小学校で昔の子どもたちの暮らしや文化を伝える出張授業や牟礼山での卒業記念植樹など多岐にわたる。
 70名ほどが活動する「牟礼山森林クラブ」は地域の里山である牟礼山の竹伐や里山保全活動全般を行なっている。
 また、難民救護衣料センターへの古着の送付や、福祉バザーなどの活動を続けている「あじさいの会」は、東日本大震災の支援活動も実施している。


多岐に広がる「青山まちづくりネットワーク」の活動

 青山地区が目指すのは、安心安全に加え、利便性を備えた暮らし。まちづくりネットワークはその実現に大きく寄与している。例えば、地域内には派出所がなく、不審者や泥棒などの事件が増えつつあった。金銭面の問題から新設は難しいことから、まちづくりネットワークでは、地域のケーブルテレビと警備会社との協働による新しいセキュリティシステムの改善提案を行なった。ニュータウンに入居する際には、ケーブルテレビへの加入が必須とされた。そしてこの機能を発展させ、AEDを標準搭載したパトロールカーによる24時間巡回や、高齢者見守りサービスも含めた警備サービス、毎朝晩に地域の情報を伝える町内放送番組等を提供している。また、先述の商業ゾーンは、徒歩圏内に商業施設がなかった地域環境を改善するため誘致されたものである。
 そのほかにも、世代間の交流を促すため、エコキャンドルづくりや左義長などを開催したり、地域活動の若い担い手を育てるため、近隣に位置する立命館大学でのボランティア活動講座に協力したりと、まちづくりネットワークの活動は地域の多様な課題に対応している。
 こうした一連の取り組みが評価され、まちづくりネットワークは(財)住宅性能振興財団による全国規模の町並みコンクール「第4回住まいのまちなみコンクール」において、「住まいのまちなみ賞」を受賞している。


住民自ら実現する暮らしやすい地域づくり

 青山地区にニュータウンができて30年近く。その間に社会情勢は大きく変わり、日本は人口減少社会に突入した。行政の税収も減り、景気も後退している。じっとしていても、行政が公共サービスを提供してくれ、企業が魅力的な施設を開発してくれる、そんな時代は終わった。しかし、それは逆に、住民自らが行動することで、自分たちにとって一番住みやすい生活環境を実現できることを教えてくれる契機となったともいえる。青山地区の様々な取り組みと、その結果生み出された魅力的な環境はその典型であるといえる。
 住みやすい地域は自分たちの手でつくる。青山地区からはそんな強い意志を感じることができた。