「まち むら」116号掲載
ル ポ

住民によるサロン&カフェでおしゃべりをヒントに地域づくり
宮城県仙台市泉区 NPO 地域生活支援オレンジねっと
 仙台で初めて住民による住民のための茶の間が、2010年4月にオープン。誰でもいつでも気軽に来られて、お茶っこ(お茶会)やおしゃべりでふれあい、命のもととなる食を通してつながり、支え合う場をつくろうと開設された。今では、趣味のサークル、若い母親たちの集いなど、訪れる人が後を絶たない。開設1年で、多くの人が集う場所になったコミュニティづくり。そこから、地域で求められている支援ニーズも見えてくる。


ランチ、サークル、買い物…
心ときめきく楽しい「茶の間」


 朝、10時。「みんなの茶の間 ときめきカフェ」のキッチンでは、オレンジのエプロンをしたカフェ担当の智世さんがランチの準備をはじめている。隣のサロンでは、70〜80代の男女5名とサポーターが、にぎやかにおしゃべりをしてから「脳の若返り教室」がはじまった。
 その最中にもカフェには、年配の男性が地域の祭りの打ち合わせに来る。その横では、手作りのナイロンたわしに目をとめ「かわいい!」と入ってきた主婦が、陳列された色とりどりの手作り品をゆっくりと眺め、好みの物を買っていく。
 ここは、仙台市の北東部にある南光台地区。大通りに面した中心市街地に、地域交流サロン「ときめきカフェ」がある。NPO「地域生活支援オレンジねっと」(約50名、2006年発足)が、商店街活性化事業の助成と店舗所有者の協力を受け、空き店舗を利用してオープンした。
平日の10時半から16時半まで開かれているカフェでは、水・木・金曜の500円ランチ、コーヒー・紅茶200円、ケーキ250円など、手ごろな値段で楽しめる。サロンでは、「詩吟の会」「カメラサークル」「和の手作り教室」など、約15の教室が日替わりで毎日のように開かれている。
 この日、「脳の若返り教室」に参加していた80代の安藤利夫さんは、一人暮らし。「県外にいる娘に強制的に、脳トレに通うように言われてね」と笑う。同じく参加者の70代の工藤亮悦さんは、この日で参加170回目。「うちにいるとしゃべらないけど、週に1度ここにくると世間話をしたり、笑ったり。気持ちにハリが出ます」と楽しみに通っている。
 正午過ぎ、ランチ担当の智世さんが、子どもの学校行事のために帰ると、その後を引き継ぐのは、代表の荒川陽子さんと事務局担当の高橋あつ子さん。主婦らしい気配りで引き継ぎもスムーズ。定番メニューの「野菜たっぷりランチ」の常連客が次々と訪れると、「いつもありがとうございます」「今日はリクエストのイカ料理ですよ」と和やかな会話で迎える。


30〜60代の主婦による
できるときに、できること


 「オレンジねっと」のボランティア登録者は、40〜60代の主婦が中心。子育て中の人も少なくない。というのも、地域特性が影響している。
 南光台地区は、昭和35年ごろから開発が進んだ新興住宅地。今では高齢化率が約23%になっている。その一方で、仙台駅まで地下鉄とバスで約30分というアクセスの良さからマンションやアパートも増え、転勤族や若い世帯も多い。
 荒川さんも夫の転勤に伴い、千葉から仙台に引っ越して16年。転勤族の不安も子育ての大変さも、地域の友だちと話すことで解消してきた。千葉で暮らしていたころは、月1回、同学年の親たちのおしゃべり会を開き、子育て中の仲間づくりを行ない、ふれあい、育ち合う場をつくってきた。仙台でも、子ども会育成会の会長を12年務め、母親たちとの関わりがずっと続いている。ボランティア登録者に若手の主婦が多いのも、「育成会やPTAのつながりがあるから」だという。
 一人ひとり状況の異なる主婦が活動しやすいように、活動できる時間帯や内容を聞き、連絡もメールアドレスなどを利用している。子育て中の人は、サロンに子どもを預けて活動する人もいる。「このくらいならできるかな」という活動からはじめ、さまざまな経験を積むことで、徐々に自信がつき、重度の障がいのある人の対応も行なえるようになるらしい。
 ボランティアの一人、平間美紀さんは活動歴5年目。子ども会を通して活動を知り、参加するようになった。元美容師としての技術と経験も生かしている。
「70〜80代の方のお宅に、定期的に訪問しカットしています。活動を続けているのは、本当に自分を必要としてくれている人がいるから」とほほ笑む。
 活動を通して自分の社会的な存在意義を見つけ、より成長したいという人も多い。ボランティアをする側、受ける側という関係が、いつの間にかお互いが必要とする関係になっていく。それを荒川さんは、「支え合うことが心と体の栄養となり、互いの生きるエネルギーへと変わる」と話す。


カフェでのたわいない会話が
支援ニーズを知るきっかけ


 そもそもオレンジねっとが発足した目的は、「次世代につながる共助の地域づくり」にある。活動は、大きくは4つ。@ケアーズ部/生活支援や子育て支援Aサロン部/コミュニティサロン&カフェの運営BSmile部/地域福祉情報誌「ときめき通信」の発行Cボランティアセンター/ボランティア活動の推進や人材育成など。荒川さんは、ボランティアコーディネーターと家族相談士の資格を活かし、住民主体の支え合いに重点を置いて活動している。
「相談依頼は、地域包括支援センターや介護事業所からが多いんです。依頼内容のトップは、高齢者の病院への送迎付き添いや車いす介助、次に家事支援、障がい児の預かり保育など。制度では担えない生活を支えています」
 まだまだ支援ニーズの掘り起こしができているとは言いがたい。相談場所でもあるカフェがどんなところか気になっている人は多いが、実際に来るまでには時間がかかる。足を踏み入れるきっかけづくりに「ランチの力は大きい」と荒川さんは言う。少しでも訪れやすいように、明るい色づかいの手作りタペストリーや絵手紙を貼り、店頭に手作りの品をかわいくあしらう。それに目をとめて訪れた人がランチやお茶をして、おしゃべりが広がる。
 カフェを訪れた主婦の「困った話」に耳を傾ける荒川さんのそばで、居合わせた主婦から「こうしたら、ああしたら」とアイデアがぽんぽんとでてくる。そんなやりとりの中から「知り合いに、こういうことで困っている人がいる」と、自然に必要とされるニーズが見えてくる。


つながりを必要とする今
社会のシステムをつくりたい


 震災後、多くの人から「情報がなかった」「日ごろのご近所の付き合いが大切」といった声が多く聞かれた。その声に、今、南光台地区にはつながりが必要だと感じた荒川さん。ますます共助の地域づくりへの思いが強くなっている。
「活動は、志だけでは難しい。多様化するニーズに応えるには、人材育成が重要です。住民が地域に関心を持ち、課題を共有し、連携を図り、システムとして地域を支える事業をどう進めていけばいいのか」
 模索する荒川さんの「何とかしたい!」という声に包括支援センターや社会福祉協議会、地域団体リーダーが集まり、プロジェクトが立ち上がった。2012年の介護保険改正までに方向性を示す予定だ。新しいあり方に、期待が高まっている。