「まち むら」118号掲載
ル ポ

竹の音色で人々の心を癒すバンブーオーケストラ「いわくに竹楽坊」
山口県岩国市 いわくに竹楽坊
間伐した竹で楽器を作る

 日本三名橋の錦帯橋がある岩国市は、美しい竹林があることでも有名だ。しかし、最近では、手入れがされない里山で竹が繁茂し問題になっている。荒れた竹林や里山の整備に取り組むボランティアグループが活動しているが、その間伐した竹で楽器を作って演奏するグループがあるという。バンブーオーケストラ「いわくに竹楽坊」の会長、藤井博さんにお話しを聞いた。
 藤井さんは、岩国市周東町の出身で尺八の名手である。中学生の頃から尺八を吹き、琴曲家、宮城道雄と一緒に演奏をしたこともあるそうだ。また、「周東里山の会」の会長として里山や竹林の整備にも取り組んでいることから、竹の活用や竹林の整備などの普及啓発を目的に、竹で楽器を作り演奏するグループを立ち上げることになった。そして、2006年11月3日から12日まで山口県で開催された「第21回国民文化祭」で演奏することを目標にした。「国民文化祭」とは、1986年から始まった日本最大の文化の祭典である。
 「国民文化祭」に間に合うように準備を始めたのは2004年からだった。竹で楽器を作るには、油を抜いて乾燥しなくてはいけない。それに時間がかかる。3〜5年たった古い竹を使うのが、硬く虫が付きにくいため一番よいといわれている。また、楽器によって適する竹が違うため、手に入れるのも大変で県内のいろいろな場所に取りに行った。
 2006年には、岩国市周東町の閉店したスーパーマーケットを借りた。ここが楽器作りの工房、練習場、楽器置き場になる。4月には竹楽器作りの教室を開講。講師は、世界で活躍する「竹の音楽家」柴田旺山さん。柴田旺山さんは、東京芸術大学大学院を修了、公益社団法人日本尺八連盟から最高位の竹帥の称号を授与された、尺八・横笛の演奏家だ。
 7月までに楽器を作り、バンブーオーケストラ「いわくに竹楽坊」が設立された。11月の国民文化祭にオーケストラデビューをするまで、「死ぬ気で自主練習!」を合言葉に練習を行った。そして、11月11日の「国民文化祭・やまぐち2006グランドフィナーレ」に出演し見事デビューを飾った。
 メンバーは、岩国市や近隣の市町の人たちが集まった。現在は、里山や竹林の整備に取り組むボランティア・尺八の愛好家・主婦など多彩な顔ぶれで、ほとんどが素人の集まりだ。今年は、小学校1年生と2年生の可愛い仲間が増え、7歳から76歳まで38人が参加している。みんな、やさしい竹の音色に惹かれて参加している。


さまざまな竹楽器

 現在、楽団の竹楽器は、管楽器の、尺八、篠笛、ケーナ、パンフルート、打楽器の、アンクルン、竹マリンバ、クロンプット、スーパーマウイ、レインスティックの9種類がある。
 「尺八」は、馴染み深いが、これが吹けたらすべての楽器が吹けるというくらい難しい楽器でもある。「篠笛」は、祭りのお囃子などでお馴染みの日本の伝統的横笛。「ケーナ」は、南アメリカのアンデス地方に古くから伝わる縦笛。「パンフルート」は、竹のパイプを並べて吹く笛。「竹マリンバ」は、ベトナムやインドネシアの竹琴(チッキン)を参考にして、真竹や孟宗竹を削り調律し、マリンバの構造に新たに作り直したもの。
 「アンクルン」は、インドネシアの楽器。中をえぐって調律した竹筒と竹枠からなっていて、ゆすって竹筒と竹筒をぶつけてカラカラと心地よい音色が響く。楽団では各音階が並んだものを使っている。「クロンプット」は、ベトナムの山岳地方の民族楽器で、何本もの竹筒を並べ、その開口部分をウレタンスポンジのバチで軽やかに叩く。筒の響きとバチが筒に触れる音とのバランスで、ふくよかな心地よいソプラノからバスまでの音を奏でる。圧巻は「スーパーマウイ」。竹楽器の中でも最大級の楽器。最も長い筒は3メートル50センチもあり、斜めに立てかけると大人の男性が隠れるくらいの高さになる。直径10センチ以上の孟宗竹を使い、途中の節をすべてくり抜いて、開口部分をスポンジのついたバチで叩いて音を出す。バンブーオーケストラでは最も低いベースとリズムを受け持つ。迫力の重低音は、空気を震わせ、ズシンとお腹に響く。「レインスティック」は、南米の楽器で、竹の筒をさかさまにしてザザーッと波や雨の効果音として使われる。


音が少しでもずれると、楽器を作りなおす

 楽団の練習は、毎週土曜日に行っている。第1、第3土曜日は定期練習、あとの土曜日は自主練習日になっている。レパートリーは、なんと60曲以上もある。指導は、高校で吹奏楽を指導している山本早弓先生にお願いしている。山本先生の指導はとても厳しい。音のわずかなずれも許さない。このような指導があってこそ、人を感動させる音楽になるのだろう。
 竹楽器は音がずれやすい。湿気や乾燥に弱いため、しばしば作り変えなくてはいけない。そのため常に材料になる竹を保持しておかなくてはいけない。演奏会の前には必ず音の確認をし、少しでもずれていれば楽器の調律をしたり作りなおす。竹を少しずつ切りながらチューナーで音を合わせる。途中で、「あ、切りすぎた!」ということもあるらしい。そうしたら、また最初からやり直しになる。
 楽器もたくさんあれば、演奏者もたくさんいる。音あわせも大変だが、人をまとめるのも大変なのではなかろうか。そのコツを聞いてみた。藤井さんは「仕事を持っている人も多くて、全員が集まって練習するのは大変です。毎回メンバーが変わったり、楽器が変わったりするんですよ」という。「人をまとめるのは、その人の都合を認め合うことが大切!」これが、オーケストラをまとめる秘訣のようだ。


竹の音色は人々を結びつける

 現在、「いわくに竹楽坊」は、演奏活動の他に、新しい竹文化の発信、里山活動への参加、竹楽器制作のワークショップを通して、森林の機能保全・地球環境対策・地域社会への奉仕活動など幅広い活動を行なっている。また、山口県の「おひろめたい志」として「住み良さ日本一の山口県」のPRにも一役買っている。
 竹林面積が全国3位の山口県では、「いわくに竹楽坊」の他にも三つのバンブーオーケストラが活動している。今年5月27日の「全国植樹祭」では、全楽団が集まって「山口バンブーオーケストラ」として、天皇皇后両陛下の御前で演奏をした。
 「いわくに竹楽坊」あるコンサートの途中、突然竹ボウキで掃除をする人、竹の柄のハタキでホコリはたく人、竹の柄がついたチリトリやタワシを持った人が登場した。コンサート中に掃除?と思っていたら、突然掃除道具を口にして音を奏で始めた。掃除道具は、実は竹楽器だったのだ。考えてみると、竹は生活の中にたくさん存在しているスーパー素材だ。一つの材料から、こんなにもたくさんの楽器ができるのは竹だけという。繊細で大胆、鋭くて太い、そして温かみのあるまろやかな竹の音色が人々を惹きつけ、結びつけ、オーケストラの音色になる。竹と人間の歴史は長い。竹に感謝しつつ、その音色を楽しみたい。