「まち むら」118号掲載
ル ポ

古本と手づくり品で町の中と外を結ぶ一日市
奈良県奈良市 大門玉手箱
 近鉄奈良駅から歩いて約5分、見過ごしそうな神社がある。初宮(はつみや)神社という。普段は閉門されているが、ときおり参拝できる日がある。毎月開催されている「大門(おおもん)玉手箱」の日も、そんな一日だ。大門玉手箱は、初宮神社の小さな境内に小さな出店が並ぶ一日イベントの名前。いたってのんびりムードで古本や手づくりのお菓子、雑貨が売られ、淹れたてのコーヒーを飲むこともできる。こじんまりとしつつも多彩。出店者は常連組もいれば、開催毎に初参加の人も混じる。そうして顔ぶれは変わりながら、晴れでも雨でもわきあいあいとした雰囲気を保つマーケットを覗きに、遠くから近くから老若男女がやってくる。お気に入りの品を探す人、会話を楽しむ人、神社へお参りしてゆく人。この日の境内は、懐かしい町の新しい営みの舞台となる。


市場に再びお客さんを―玉手箱オープン

 大門玉手箱は、2009年8月にスタートした。当初の開催場所は、昭和色を濃く残す大門市場という場所。豆腐店や鶏肉店など数店が集合した建物の一画だった。イベント名の「大門」は、この市場の名前から取られており、市場の名前は、市場眼前に建つ国宝「東大寺転害門(てがいもん)」の地元での呼び名から取られたという。
「良心的な昔ながらのお店ががんばっているけれど、空き店舗スペースが目立ち、集客できていないのも事実でした。時代に取り残された感が否めなかった。何か賑やかしをして、市場に来たことがない人の目を、ここに向けられないものかという思いを持っていました」
と話すのが、大門玉手箱の発起人のひとりで地元住民の新井忍さん。もう一人の発起人である下村信人さんは、
「僕と新井さんの間では、お互いが大好きな『本』で何かをしたいねという話がもともとありました。だから古い市場で古本を楽しむ催しをという流れがごく自然に。知り合いの本好きの方に声をかけたり、ブログに書いたら、みるみる賛同者が集まり、小規模なりに実行しようかと」。
 開催にあたっては、東京で行われていた「不忍ブックストリートの一箱古本市」を参考にした。その上で、大門玉手箱では古本の出品を必須条件としつつ、そこにプラスして手作りアイテムを並べることも歓迎するルールに。結果、興味を持ってくれる人の間口が広がった。雑誌を用意し淹れたてのコーヒーを提供する人、暮らしの本とハンドメイド雑貨を並べる人。自作リトルプレスやポストカード、季節によっては自家菜園の野菜も持ち込まれる。いろんなものが詰め込まれたゴッタ煮具合は、「玉手箱」という名前にぴったりだ。出店者、来訪者ともが気安く集う、肩肘張らない場づくりに成功している。


再出発は春日大社ゆかりの小さな社「初宮さん」で

 2010年1月23日、大門市場での3回目の開催を終えた後、岐路を迎える。その月末、大門市場が閉鎖されたのだ。場所を失った。「市場の活性化」という目的もなくなった。さてこれからどうしよう? となったとき、
「大門市場のあったこの界隈の、町の人と関わりあえる場所でなら再開させたかった」
と新井さん。そんなある日、ふと思いついたのが前述の初宮神社で、
「あそこで着付け教室をされていたことを思い出しました。もしかしたらお借りできるんじゃないかしらと」。
 予感は的中、2010年10月、大門玉手箱は二つめの場所を得て、リスタートを切った。不定期だった開催も、2012年に入ってから毎月1回コンスタントに続けている。
 新天地の初宮神社は、小さいながらも春日大社末社のお社。毎年12月17日には、奈良を代表する祭「おん祭」の神事の一つである芸能奉納「田楽座初宮詣」が行われる。地域に根付いた大切な場所である。また、
「昭和の終わり頃までは、弁天さまのご縁日7月7日に願い事の短冊を笹に吊ったり、例大祭の日はみたらし団子やわらび餅のふるまいもあるなど、地元の子どもたちが楽しめる場所でもあったようです」
と新井さん。下村さんは、
「その頃の様子を懐かしんでくださる年配の近隣住民の方の声が励みになっています。玉手箱にはお子さん連れの方もたくさん遊びに来てくれますから」。
 ちなみに、大門市場があった場所と初宮神社は、徒歩15分ほどの位置。ともに「奈良きたまち」と通称される、奈良女子大学を中心とした生活圏域にある。


県境を越えて広がる人の縁、地の縁

 輪の広がりは町内・市内にとどまらない。6月に行なわれた大門玉手箱には、遠方からの出店者も多かった。奈良県中部からの参加者の「羊の本棚」さん(出店者はそれぞれに屋号を持つ)は、
「お客さんといろんな話ができる距離感がいいですね。同じ奈良県といっても、私にとって奈良市などの北部エリアは、あまりに環境が違い苦手意識がありました。でも、大門玉手箱で毎月通うようになって、このあたりの懐かしく親しみある空気を知ることができたし、奈良を愛する人にたくさん出会えました」。
「ツイッターで大門玉手箱というイベントがあることは知っていました。地元での一箱古本市に参加していたとき、ほかの参加者さんからも、ここの話を聞きました。数年前まで奈良に住んでいたこともあって、気軽に遠征してみることにしました」
と言うのは富田林市から参加の「小窓文庫」さんで、「ほかの方の出品物を覗かせていただくのはわくわくしますし、情報交換できるのも楽しいですね」とも。
 発起のときはブログ、近頃はツイッター。インターネットのソーシャルネットワークサービスが、大門玉手箱のようなある種の趣味的側面を好む人たちへのダイレクトで効率のよい情報発信ツールになっていることがうかがえる。
 他方で、初期からの参加者の一人であり、各種イベントへの協力経験も多い池崎継仁さんは、出店者同士が身近で家庭的なのが大門玉手箱の良いところと前置きしつつ、
「もったいないなあと思うのは、宣伝がヘタなところ(笑)。せっかく魅力的な人が集まってくれているのだから、より多くの人に情報が届くように考えてみては。近所の人でも知らない人がまだまだ多いよ」
と話す。
 そこへの解の一つは、大門玉手箱の開催日、門が開かれた初宮神社と周辺に、子どもたちの声が返って来つつあることだろうか。高齢化が進む町の中で、子どもが安心して遊べて、そして大人も一緒に楽しめる機会があることが、町づくりに果たす役割は大きい。子どもの存在で活気が生まれ、活気がまた人を呼ぶという循環に期待したい。
 大門玉手箱にとって新機軸となりそうな挑戦が控えている。滋賀県の図書館からの招きで出張企画が進んでいるそうだ。アウェー開催での広報は一段と頭を悩ますところかも知れないが、幸運にも多くの共感を得ている大門玉手箱である。奈良での経験を生かし、場と人、人と人、場と場を結ぶビックリ箱となって来てほしい。