「まち むら」119号掲載
ル ポ

まちを金魚でいっぱいに! 地場産業×新しい風で町に活気を
奈良県大和郡山市 K-Pool Project
 奈良県北部に位置する大和郡山市。筒井順慶、豊臣秀長の居城だった郡山城を中心として発展した歴史を持つ城下町だ。城壁や堀が残る城跡、創業400年余という老舗和菓子店などが、往時の面影を今に残している。
 町中から外れると、田畑と住宅地、工業地が広がる。こうした風景に混じり目に付くのが溜め池。大和郡山市は全国有数の金魚の産地であり、市内にいくつもの金魚池を有する。毎夏、大変な盛り上がりを見せる全国金魚すくい選手権も同市で開催されるイベントだ。
 この地場産業である金魚を旗印に活動しているK-Pool Projectというチームがある。彼らは金魚にまつわるアートイベントやワークショップなどを通して、古い町に新しい風を呼び込もうとしている。時に行き当たりばったりにも見えるが、いつの間にやらいろんな人を巻き込み巻き込まれしつつ、注目を浴びる存在だ。


「金魚の展覧会を開きたい」活動は思い付きから始まった

 K-Pool Projectは2008年に始動した。スタートは、地元でインダストリアルデザインなどを手がける小山豊さんの「金魚の展覧会を開きたい」という思い付きによる「ほぼ一人プロジェクト」。
「昔ながらの家並みが残る紺屋という町でアートやクラフト作品の展示をしたいと思ったのが最初です。金魚をテーマに活動する作家さんがたくさんいて」
と小山さん。この際の参加作家は、「12人か13人くらい」だった。
 本格的に動き出したのは2011年。サポートスタッフを公募し、K-Pool Projectは3人体制へ。新しいメンバーは、小林征子さんと飯村有加さん。メンバーを募った理由は、
「地元出身の映画人、塩崎祥平さんから、『大和郡山を舞台にした映画を撮りたいんだ』という話を聞きました。面白いから制作に協力したいなあと思って」
 面白いと思ったことと実行することの間には壁があるように思うが、この映画制作、すでに成功を収めている。2012年新春に公開された『茜色の約束 サンバdo金魚』が、その作品。ちなみに映画制作が最終決定したのは2011年6月、サポートスタッフの募集はそれに先んじて行っていたそうで、
「映画制作を既成事実化して、作らないわけにはいかなくしたというか」
とつぶやく小山さん。無謀なのか深謀遠慮なのか……。
 完成した映画は、大和郡山の風景、金魚の美しさが織り込まれた作品になった。地元で温かな支持を得て、後日「ブラジル映画祭2012」の特別招待作品にも選ばれている。


イベントから生まれる次なるイベント、人の輪

 スタッフの飯村さんにとって、もっとも印象深いイベントは、2011年、2012年の夏に開催したK-Pool Project主催の「大金魚博覧会」だという。
「日本人に身近な生き物の金魚。そこにスポットを当てることで、普段気づかない美意識や日本の素晴らしさを再確認することにつながりました」。
 このイベント、大和郡山市に残る川本邸という建物で開かれている。川本邸は花街として賑わった地区に残された木造3階建ての遊郭建築。この古建築の成り立ちと金魚は絶妙の取り合わせとなった。
 川本邸は、解体の危機を逃れ、市民の手によって掃除や修繕が積み重ねられている貴重な存在だが、
「そうした保存活動のリーダーともいえる大学生の伊藤哲史さんとの出会いがあり、川本邸での展示が実現しました」。
 そう小山さんが話すように、一つの企画への参加が自然と次の目論見へ移行し、その都度、町との関わりを深める結果になることが多いようだ。
 例えば、2011年の昔ながらの町家を展示会場とした現代アート展「奈良・町家の芸術祭HANARART(はならあと)」。K-Pool Projectは「大金魚博覧会」を突破口に、この催事での大和郡山会場をとりまとめている。その実績を買われて参画することになったのが、2012年の「大和・町家サブリースPROJECT」。こちらは使われていない古民家を期間限定で貸し出すことで、貸主・借主がともに町家の価値や利用方法を見つけてゆこうというもの。飯村さんは、
「町の皆さんが協力的でイベントを開きやすいんです。場所もあるし、実行する人が少ないから、私たちが中心となって動いていける。一方独自で大きなことをするのは、やはり場所も人も、まだまだ育っていないと感じています。資金的にも難しいことが多いです」。
 ちなみに2012年は、「奈良・町家の芸術祭HANARART(はならあと)」と「大和・町家サブリースPROJECT」が同時期開催だった。しかも期間中に金魚用の琺瑯製タライを使った古本市の主催などまでこなすという馬車馬ぶり。
 イベントを1回切りにしないこと、またイベントとイベントをリンクし継続させながら町の活性化を目指すことを、K-Pool Projectはやってのけている。小さなチームゆえの機動力や瞬発力、一方で周囲の助けを受け入れていくオープンで柔軟な姿勢。映画制作への協力、地域活性事業、オリジナル企画と、大小のイベントを、ここ2年間、隙間なくみっちりこなして来ていることに本当に驚く。
 連鎖は思いがけないかたちになることもあった。JR郡山駅の通路壁面を金魚の写真で飾ったことがきっかけで、地元の医療法人・郡山青藍病院の廊下でも写真展を開催したこと。郡山金魚資料館からの声掛けで、中国・福州市で開催された「2012首届世界鑑賞魚博覧会および首届世界金魚品評会・アロワナ品評会」に参加したことも一例だ。


「地元の人に向けたことはあまり考えない」という爆弾発言!

 こうして地場産業の金魚を通したアピールを主体に地域貢献するK-Pool Projectだが、ここへ来て小山さんから、
「地元の人のためにということは、あんまり意識しないです」
という衝撃の一言が。
「外から面白い人に来てもらうこと、若い人に注目してもらうことを考えてやっています。でも結果として、地元の人、年配の人にも見てもらえていますね。外の人も地元の人も、年齢も関係なく、楽しいと思うことは同じなのかなと。そういうモデルケースをしっかり作って、次はお金を生み出して行けるように」
 K-Pool Projectの軸はここかも知れない。地元の特色を生かしながら、外か内かといった線引きからは自由で、外と内をつなぐ役割にとても自覚的だ。
 小山さんにK-Pool Projectの活動について改めて尋ねると、金魚の不思議な存在感になぞらえてくれた。
「金魚は、手間がかかるし、よく死ぬ。めんどくさいんですが、ひらひら美しくて魅力的です。人為的に交配されていますが、人為的な掛けあわせで必ず成功するわけではない。偶然の産物なんです。こういうところが、人のつながり方とかイベントに携わっているときの経過と似ている気がするし、面白いです」