「まち むら」121号掲載
ル ポ

自治組織とNPOの協働のコミュニティづくり
秋田県湯沢市 岩崎地区自治会議/NPO法人岩崎NPO
 国道13号線を秋田市から南下してくると、横手市から皆瀬川を越えて湯沢市に入ったところに岩崎地区はある。国道沿いにはこの地区の守り神である高さ4メートルの鹿島様がどんと飾られているのを見つければそこが岩崎だ。
 秋田県湯沢市の北部にあり、人口は1700人余り。明治初期の廃藩置県のときは岩崎県ともなった歴史のある地域だが、その独立自尊の気風はいまも地域の自治活動に脈々と受け継がれている。


岩崎モデル

 地域の衰退はまず伝統行事に現れるものだが、岩崎では各種の行事が目白押しだ。なかには一度途絶えたものが復活しているものもある。千年公園藤まつり、岩崎盆踊り、八幡神社みこし行列、初丑祭りなど。また、能恵姫伝説竜神太鼓などの創作芸能もある。
 伝統芸能ばかりではない。少子化・高齢化の波は岩崎にも押し寄せているが、「みんなであそばねがー!」という行事で、世代間の交流を図り、地域がひとつのまとまりになる仕組みができている。
 こうした実績が評価されて、岩崎はしばしば県や国から表彰されてきた。地区のリーダーとして長年自治活動に携わってきた岩井川正雄氏が、平成18年にあしたの日本を創る協会会長賞、22年には地域づくり運動推進功労者として内閣官房長官賞を受賞している。
 なぜ岩崎ではそうなのか。その理由を知りたがって、これまでに多くの自治体、自治活動組織、NPO、または大学などの研究機関が視察、見学、調査に入っている。
 岩崎には現在『湯沢市ふるさとふれあいセンター』、愛称かしま館がある。同センターは平屋建て685平方メートルの広さで、多目的ホール(体育館や大会議棟を兼ねる)と展示交流ホール、調理実習室、四つの会議室からなり、350人を収容できるりっぱなものだ。
 平成20年に竣工するや、ただちに岩崎地区自治会議(以下自治会議)が指定管理者となって管理運営に当たることになった。自治活動の拠点となるコミュニティセンターは岩崎の人たちが待ち望んでいたものだった。
 自治会議は下部にいくつもの枝をもつ複合体をなしている。岩崎地区の九つの町内会、社会福祉協議会や老人クラブなど各種多様の目的別団体、そしてNPO法人「岩崎NPO」が自治会議を構成している。
 自治会議は、長い歴史の積み重ねでできあがった組織だ。しばしば「岩崎モデル」と称されるように、他の地域がマネしようにもできないといわれる独自の自治組織である。
 なんでもとことん話し合う、これが岩崎の自治活動40年の特徴だ。それを可能にしているのが対話集会と巡回町内懇談会だ。
 対話集会は「住民のつどい」といって、住民どうしが一堂に会して語り合うというもの。ときには市長などを講師に招くこともある。巡回町内懇談会は九つの町内会各所で行われる。自宅前の側溝のにおいが気になる、泥上げをしてほしい、夜校庭に人だかりがあるが治安の面からどうかなど、小さいが地域のみんなで考えたいことが話し合われる。結果は行政や土地改良区、国交省河川事務所などに相談したり要望したりする。
 みのがせないのは、話し合われたことを住民共有の知識にするために自治会報があることだ。自治会議通信『かしま館』はA4判8ページ。毎月2回の発行で岩崎地域全戸に配布されている。『かしま館』の最終ページには半月分の行事案内が載っているが、これを暦代わりにしている人もいる。


公園美化運動に有償ボランティア

 岩崎の住民自治活動の特色のひとつは「有償ボランティア」制度だ。
 ビジネスのように利潤を含む対価を払うというほどではないが、ボランティアの地域貢献度をある程度満足させられるような、その分責任感をもって参加してもらえるような仕組みはないだろうか。
 そういう問題意識で、コミュニティビジネスなどを参考にしながら立ち上げたのが、岩崎式有償ボランティアだ。岩崎には千年公園がある。地域自慢の藤棚が初夏には花を咲かせ、藤まつりも行われる。この公園の整備作業に有償ボランティア制度が適用された。草刈り、ゴミ拾い、植栽の根周り除草、雪囲い、囲いほごし、藤棚の枝払い。
 作業の評価には、当初さまざまな案が出された。報酬やサービス料をどう設定するか。時間当たりか、キロ当たりか、一食当たりか、それとも坪当たりか。現在では時間当たりの評価になっている。90分以内は1点、半日は2点、1日は3点。10点で、地区内の食堂で使える食事券(500円相当)と交換できる。
 ポイント制有償ボランティアには財源をどうするかという課題もある。千年公園の場合は、千年公園愛護会が負担しているが、岩崎NPOは、これを高齢者の生活支援や冬季の除排雪など、ミニシルバー人材センター的な活動にまで広げていきたい希望をもっている。
 有償ボランティアを担当しているのが、NPO法人岩崎NPOだ。
 自治会議とは別の組織だが、NPO法人設立のアイデアは自治会議のなかから起こった。自治会議ではカバーしきれない地域課題をどうするか。NPO法が成立して4年目。ボランティアやコミュニティビジネスといった新しい手法で地域の問題を解決する組織としてNPOは注目されていた。
 自治組織では手の届かない問題を、NPO法人を作って解決しよう。NPO法人は自治会議の補完的な役割をすればいい。こうしてできたのが岩崎NPOだった。現在では、有償ボランティアの環境づくりを担うほか、地域活性化のための学習プランの研究など、シンクタンク的な役割も期待されている。


指定管理者

 2003年から国は指定管理者制度を導入し、公共の施設でも私企業を含む民間組織が管理運営できるようになった。最近では、武雄市の市立図書館にTSUTAYAが指定管理者になったことが話題になっている。
 従来の業務委託とはちがって、指定管理者になると、自主事業を積極的に企画できたり、施設の利用料を自主的に決めることができるなど大きな権限が与えられる。それと同時に責任も負う。経営がまずければ赤字分は自己負担となる。
 自治会議はみずからかしま館の指定管理者に手をあげた。じつは、湯沢市には岩崎地区のほかに十ばかりの地区があり、それぞれに公民館やコミュニティセンターが存在している。住民自治40年の歴史をもっている岩崎は、住民自治が活発に続いていくには事務局機能がちゃんとしていること、そのためには拠点が必要なこと、その拠点を自分たちで管理運営することが、けっきょくは自治を学び育て強化することになることを、体験を通して学んできた。
 だから、岩崎モデルはほかの地域にとっても大いに参考になっている。岩崎地区のほかにも、コミュニティセンターの指定管理者になろうという動きも出てきた。
 自治会議は、かしま館を拠点としたさまざまな自主事業に取り組んできた。地域の子どもたちをひとり残さずほめる「子ほめ運動」、世代間交流をめざした「みんなであそばねがー!」、また平成23年からは「ゆざわCommunity協働体験塾=リーダー研修事業」を現在まで毎年実施している。
 かしま館の指定管理契約期間は5年。平成25年3月でいったん契約は終了する。市は3月議会に契約の更新について議案提出する運びだが、これが承認されれば岩崎の自治はさらなる一歩を踏み出すことになる。