「まち むら」121号掲載
ル ポ

高齢者の力を、まちづくりの主役へ!
自助・自立・協働・共生を具現化した自主活動事業
熊本県上天草市 上天草市中央公民館
 今、公民館を起点とした画期的な事業モデルが全国から注目を浴びている。平成22年度に上天草市でスタートした「高齢者生きがいづくり支援事業」は、受身で当たり前とされてきた公民館の利用者を、自主運営活動主体に、さらには生き生きとしたまちづくりの主役へと変身させたのだ。これまでの“公民館”の殻を破り、大きな一歩を踏み出したその取り組みとは。


平成の大合併が招いた地域住民と公民館の混乱

 平成の大合併以降、校区の再編成や人の流出入の激化、公民館事業を委託する指定管理者制度の導入など、地域と公民館をめぐる環境は大きく変化した。その影響によって住民と公民館共に混乱が生じていることは、全国的な傾向として広く知られている。ここ上天草市においても、平成16年3月の4町合併後、過疎化と高齢化の進行はとどまることを知らず、その人口は約10%減少。この状況に対し行政は、生涯学習の場として親しまれてきた公民館に対しても、事業のスリム化・効率化を求める。そして、6年前15人いた職員は、館長を含めたった3人に削減された。
 「こんな体制で、何をできるというのか…」。“地域住民の自助・自立、協働・共立を図るべし”との使命を受けた公民館ではあったが、打つ手はなかなか見つからない。停滞した空気の中、民間企業出身の公民館長として中央公民館に赴任してきたのが、「高齢者生きがいづくり支援事業」の陣頭指揮を執ったMア富雄さんだ。


民間出身の館長が実現 公民館事業の大方向転換

 民間出身ならではの経営感覚を見込まれて抜擢されたMアさんは、館長に就任するや否や、明確な方針を打ち出し公民館改革に乗り出した。「まずは“おんぶに抱っこ”の事業形態から脱却し“小さな政府”を目指すこと。そして、公民館側から活動内容を提案するのではなく、住民の意思を尊重し、その活動を支援する体制に移行することにしました」
 中央公民館は、13の地域公民館の統括をする組織だ。しかし、今は資金もない。人手もない。多くの職員数を必要とする事業は継続不可能として見直しの対象とした。また、事業の恩恵を受ける人が少ないサービスに関しても、ばっさりと切り捨てた。
 こうして事業の大幅なスリム化が瞬く間に行われたが、それでは、新しい公民館事業の柱となる「生きがい支援」のアイデアはどこから生まれたのだろうか? 解決の糸口は、公民館利用者の主である高齢者の「私たちも社会奉仕をしたい」という切なる叫びだった。
 これまで“生涯学習の場”を標榜してきた公民館は、結果として高齢者の遊び場と化していた傾向にあった。「そんな中で、何人もの方に『若い人たちが懸命に働いているのに、私らばかり何もせんのは気が引ける』『私たちも、何か社会の役に立ちたい』という悩みを打ち明けられたのです」。その声に後押しされたMアさんは、高齢者が生産活動と社会奉仕に参加することで生きがいと自主活動のための費用を生み出す「生きがい支援事業」の着想を得たのだという。


自主団体の立ち上げから活動報告まで一貫してサポート

 そうと決まれば、善は急げ。Mアさんをはじめとする公民館スタッフは、すぐに行動を起こした。即座にモデル地区を設け、自主活動団体「創造ネット・二間戸」の立ち上げを行ったのだ。
 「自主運営を成功させるための鍵は、活動資金の捻出です。そこで、まずは民間・行政問わず、ありとあらゆる補助金を調べ、支援を得られるよう申請を出しました。そこで知ったのは“地域住民の自立のための支援は比較的得やすい”という傾向です。やはり、私たちが取り組んでいる“自助・自立”を目指す活動は、間違っていない。そう実感を得られ、事業を推進する上での力になりましたね」と振り返る。
 無事に補助金の対象団体となった「創造ネット・二間戸」では、耕作放棄地を活用してニンニク栽培を行い、その様子は地元の新聞社、テレビ番組にも取り上げられた。「メディアに取り上げてもらうことで、実績を認めてもらいやすくなります。そういった話題づくりの面も上手くいき、初年度の取り組みはひとまず成功を収めることができました」
 この成功事例を受け、平成23年度には、上天草市全体で事業を展開することに。具体的な推進方法としては@さまざまな媒体・活動を通して情報発信を行い、事業の告知を行う。A手を挙げた住民をリーダーとして、団体を設立する。Bリーダーの指導のもと、テーマの設定や年間計画を立案し、活動を開始する。というシンプルな三つのステップを採用。公民館は、あくまでリーダーの育成や活動計画の補助など、ソフト面でのサポートを行った。
 呼びかけの結果、平成24年度には、「創造ネット・二間戸」に加え、買物難民のための「お買物代行センター」、皇帝ヒマワリの植栽による景観づくりを行う「合津金比羅川土手会」、耕作放棄地再生を主とする「夢・ネットワーク長砂連」、耕作放棄地の再生と地域の美化活動に取り組む「NPO法人かみあまくさ」という、四つの団体が運営を開始した(平成25年度は、さらに1団体が加わる予定)。さらに、取り組みが認められ、平成24年度には、内閣府外郭団体である公益財団法人「あしたの日本を創る協会」が選出する「あしたのまち・くらしづくり活動賞振興奨励賞」を受賞。全国175団体中の33団体に選ばれるという快挙を成し遂げた。「この賞をいただいたことで、ずいぶん仕事がやりやすくなりました。立ち上げ当初は、賛同の声と同じくらい『あなた方のやっていることは、公民館事業を逸脱している』という批判もありましたから。しかし、公民館の活動方針を定める社会教育委員会も、はっきりと『まちづくりの主役は公民館』と明記しています。これから、全国の公民館は、まちづくり・地域づくりの拠点として、強い自覚を持っていかなければならないでしょうね」と語る。


今後の課題は収益性とモチベーションの向上

 「NPO法人かみあまくさ」代表の大石正勝さんは、地元で長年建設会社を営んできた経営者でもある。「Mアさんの呼びかけを知ったとき、荒れ果てた耕作放棄地の光景が頭に浮かんできました。天草を、昔のような美しい姿に戻したい。そう思ったのが、手を挙げたきっかけです」と振り返る。大石さんは、思いを同じくする住民たちとNPO法人を立ち上げ、耕作放棄地の開墾、ブーゲンビリアの植栽を行ったが、「もちろん達成感もあります。しかし、労力に対して時間も人手も足りていない。活動が独り立ちしていくためには、まだまだ時間がかかると思います」と課題も尽きない。
 それに対して、Mアさんは「社会奉仕による満足感・達成感も重要な要素ですが、今後は農作物の品質向上や6次産業化も進め、収益性アップにもこだわっていきたい。“自分たちの活動が収益を生む”という実利は、モチベーションに大きく関わってくる部分ですから。とにかく、限られた地域でも構わないから、一つ成功事例を作る。それを軸として多くの人を巻き込んでいく“トルネード戦法”で、大きな波を起こしたいと考えています」と自信を覗かせる。


新たな取り組みにも意欲 上天草市の魅力を再発見

 上天草市中央公民館による「高齢者生きがいづくり支援事業」は、この春4年目を迎える。今後は、自主運営活動のサポートを主として行いながら、新たな事業「上天草ツーリズム計画」にも取り組んでいくつもりだ。「上天草ツーリズム」とは、都市部の小学校や企業、一般から募った参加者を上天草市に呼び込み、産業体験や自然とのふれあい、観光を組み合わせたツアーを開催して、地域の魅力の掘り起こしを図るというもの。「まだまだ企画段階ではありますが、まちづくりで培った魅力を、市外や県外の方にも知っていただきたいですね。道のりは長そうですが、少しずつ歩みを進めていけたら」と瞳を輝かせた。