「まち むら」121号掲載
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低料金で、困り事の解消を手助けする「地域支え愛」事業を推進
埼玉県ふじみ野市 NPO法人ふじみ野明るい社会づくりの会
 埼玉県ふじみ野市では、高齢者や子育て家庭などの身の回りの困り事を有償ボランティアが援助する「優=You&I=愛で地域支え愛事業」が進められている。ふじみ野市を拠点に活動している特定非営利活動法人(NPO法人)ふじみ野明るい社会づくりの会が主体となって実施している取り組みで、ボランティアの輪を広げて誰もが安心して暮らせる地域を築いていくのがねらいだ。利用者、ボランティア活動者とも増え続け、利用時間は月1500時間を超えるなど、全国のモデルともなる仕組みを構築している。


「いい顔みたい!」が活動の理念

 「支え愛事業」は、急速に進む高齢社会に対応するため、介護保険の対象とならないサービスなどを地域の元気な高齢者や大学生などによる有償ボランティアで担っていこうという埼玉県の「地域支え合いの仕組み推進事業」のひとつ。ふじみの市が実施主体となるNPO法人を全面的に支援して進めており、市報を通じてボランティア活動への市民参加を促進するとともに、ボランティア謝礼に地域商品券を取り入れて地域の活性化をめざしているのが特徴だ。
 実施主体のふじみ野明るい社会づくりの会は、1981年に任意団体の上福岡明るい社会づくりの会としてボランティア活動を開始した。2006年にNPO法人格を取得。上福岡市と大井町の合併でふじみ野市が誕生した後、2008年に現在の名称に変更した。地域の高齢者や病気の人、子どもなどの力の弱い人々を大切にすることを目的に、インターネットによる医療と健康よろず相談、高齢者の自立支援・出会いの場としての料理教室や食事会、癒しの集い、笑顔の集い、手芸教室、青少年健全育成のための講座・研修会、子育てサークル、資源回収などの様々な事業を展開。年会費は個人1000円、法人1万円、団体2000円で、現在188人の会員が参加している。
「『あなたのいい顔みたい!』を活動の理念とし、ふじみ野市の不特定多数の市民を対象に活動を進めてきました。2011年に30周年を迎えるに当たり記念事業の企画を考えたところ、高齢者が喜ぶことを行いたいという意見が多数を占めました。そこで、2010年にアンケート調査を実施し、具体的な検討に入ろうとした矢先、市から地域支え合い事業の実施についての話が舞い込んできました」とふじみ野明るい社会づくりの会代表理事の北沢紀史夫さんは振り返る。
 県からの3年間450万円の補助金(1年目200万円、2年目150万円、3年目100万円)で、支え合い事業を運営できないかというのが、市の要請・提案だった。アンケート結果で病院の付添いや掃除、買い物代行などのサービス提供を求める回答が多かったことと、地域支え合い事業の趣旨が会の目的と合致していたことから、事業主体になることを引き受けたと話す。


利用料金は1時間300円

 「支え愛事業」は、2010年11月に支え愛センターを開所して、サービスを開始した。
 ボランティアが提供するサービスは、通院や買い物などの付添い、子どもの送り迎え、部屋や庭の掃除、家具や建具の修理・取り付け・移動、食事づくりなど身の回りの世話、ペットや庭木の世話、パソコンの個人指導などで、幅が広い。利用者は、@センターに電話で依頼し、Aセンターはボランティアを利用者宅に派遣、Bボランティアは仕事が終わったら利用券を買ってもらって料金を受け取り、Cボランティアは利用料金をセンターに持参してボランティア謝礼の地域商品券と交換――というのが事業の流れ。センターの営業時間は日曜・祝日と年末・年始を除く午前9時〜午後4時30分で、活動範囲は原則ふじみ野市内だが、市外でも近隣であれば対応している。利用料は1時間当たり300円。
「県内他地域の事業に比べ、利用料金が半額以下で安価なのが最大の特色。当初は無償にしようと考えましたが、かえって利用者が気を遣うのではないかという意見もあり、気兼ねなく利用できるように料金を決めました。その場合、これまでの会の活動の経験則から、年金で暮らしている高齢者が払えるのは300円が限度だと感じていたので、その金額にしました」と北沢さんは説明する。
 思いやりが評判となり、利用者は日を追うごとに拡大し、リピーターも増えている。センターでは再利用の際の利便性を高めるため利用者データを作成しているが、2012年12月現在813人に達している。事業開始時に284時間だった月別利用時間数も増え続け、同年12月は1785時間に上った。病院への付添い、部屋や庭の掃除、網戸や障子の張り替え、庭木の剪定、買い物代行などの依頼が多いという。


190人以上がボランティアに登録

 一方、ボランティアは登録制で、これまでに経験した仕事と希望する仕事を申告してもらってリストを作成。利用者の住所や依頼内容とボランティアの登録内容をマッチングさせて派遣する。ボランティア謝礼は2時間500円で、約170の加盟店で利用できる地域商品券(ギフトカード)を渡している。
「地元商店で組織するふじみ野市スタンプ会と協定を結んで進めており、地元商店の活性化にもつながっています。1時間当たり250円の謝礼でボランティアが集まるのか不安もありましたが、登録者は現在190人を超えています。お金の問題ではなく、元気なうちにボランティアを行ない、社会の役に立ちたいという高齢者が増えていることに言葉では言い表せない嬉しさを感じています。また、継続的に活動すれば月1万円以上の収入になり、生活費の足しやお小遣いになります」と北沢さん。ボランティアに話を聞くと、「人の役に立つのが嬉しい」「生きがいにつながっている」「ありがとうと感謝されると元気になる」という声が返ってくる、と手応えを話す。
 事務局スタッフは20人で、全員無償のボランティア。ローテーションを組み、1日3〜4人が利用者からの電話の受付とボランティアの手配を行っている。
 今後の課題としては、事業運営費の確保が挙げられている。現在、利用料とボランティア謝礼の差額(1時間当たり50円)と県の補助金で運営しているが、補助金は平成24年度で終了し、次年度からは自立が求められている。そのため会では、PRに力を入れて利用時間の増加とボランティアの募集に努めるとともに、賛助会員を募っていく予定だ。市民からも「支え愛事業」を継続してほしいという声が高まっていることから、ふじみ野市では事務所の家賃補助などの支援策を検討しているという。
「地域では高齢者が増えていますが、行政の財政難から自助が求められるようになりました。しかし、自助には限界があります。高齢者が安心して地域で暮らすには、行政によるボランティア活動の場所の提供という公助、有償ボランティアによる共助、年金生活者でも負担可能な低料金での自助、という三つ巴の支え合いの仕組みが今後ますます重要になってきます。できるだけ利用しやすい料金で運営を維持し、利用者を増やす市民活動にしていきたいと思います」と北沢さんは意欲をみせている。