「まち むら」126号掲載
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花と緑で潤いのあるまちづくり
北海道釧路市 「緑いっぱい市民運動」世話人会
「緑が少ない」道東の中核都市・釧路市

 北海道の東部、「道東」の中核都市・釧路市。国内最大の湿原を中心とした釧路湿原国立公園と阿寒国立公園を有し、近隣には世界自然遺産でもある知床国立公園があり、タンチョウをはじめとした貴重な動植物が息づく道内でも最も豊かな自然に恵まれた地域にある。人口は約18万人。釧路市は水産業、製紙業、石炭産業を基幹産業として発展してきた。また、広大な後背地で営まれる酪農を中心とした農業も地域経済を支える重要な産業で、物流の拠点としての釧路港は重要港湾として発展している。
 1960年代から70年代にかけての高度成長期の釧路市は、生活基盤は整備されている状況とはいえず、冷涼な気候もあって「緑が少ないまち」というイメージがつきまとっていた。実際、当時、市内の公園に植えられていた樹木も、湿原に生えるヤチダモで、5月ころから緑が濃くなるが、9月ころには枯れてしまい、当時の街路ますも小さく、植える木の数も少ないことなどの要因も重なって「緑が少ない」と言われていた。


緑と花で埋め尽くそうと世話人会が発足

 釧路市に緑を取り戻し、美しい街並みをつくろうという願いのもと、1971年に発足したのが「高「っぱい市民運動」世話人会。会長は中野知性氏(故人)で、同年3月には多くの市民が参加して「釧路市を緑と花で埋め尽くし、全市民が総力をあげここに強力な緑化運動を展開する。この運動は私たちの変わることのない願いとして今後100年間継続する」などとする「緑化宣言」市民大会を市内北大通で開催し、活動をスタートさせた。発足直後から活動に参加し、現在2度目の会長職を務める濱木義雅会長は「緑と花は心豊かにする。環境保全の機運も高まり、先輩達は先見の明があった」と語る。
 発足当時から現在まで続いている活動が「春季市民植樹祭」と「花壇コンクール」。植樹祭は現在、大規模運動公園で行われているが、当時は公園造成のため運河を埋め立て、そこに植樹祭として木々を植えた。「市民の森」「ライオンズの森」など「○○の森」として現存しており、埋め立てた運河は柳町公園となり市民の憩いの場となっている。


花壇という“点”から“線”となる通りに広がる花と緑

 もう一つの大きな事業の花壇コンクールは、今年で56回を数える。花と緑の豊かな環境づくりに向けて、花壇作りに取り組んでいる町内会や職場、学校、一般家庭に参加してもらい表彰している。職域、学校、自由参加(個人参加)の3部門で審査が行われ、自慢の花壇は釧路市内に広がり、学校などは花壇の美しさを競い合った。活動は、次第に地域や個人、学校の取り組みから通りに広がっていった。現在では、市内に「コスモス街道」と呼ばれる通りや、商店街ごとに街路の花壇整備に取り組む地域が増え、審査部門に「フラワー通り」の部も加わった。濱木会長は「個人や団体の花壇という点としての取り組みが広がり、通りという線になった」と活動の広がりに笑顔を見せる。


市内にサクラ守が誕生

 同世話人会は、これまで市内各所に植えた木々は約70万本にのぼるという。しかし、成長する木々の育樹も重要な事業。植樹を行ったのは主に市が管理する公園などが多いが、行政が木々を整備する予算に限りがある中で、手入れに取り組んでいるのも同世話人会の呼びかけで参加した市民。この育樹活動の象徴的な取り組みがサクラに特化した「サクラ守」。市内にはエゾヤマザクラが公園や街路に植えられているが、5、6年前から「てんぐ巣病」が目立つようになり、その対策の重要性が叫ばれてきた。運河を埋めたあとに造成された柳町公園にも多くのエゾヤマザクラがあるが、そこにもてんぐ巣病が見つかった。「サクラを何としても守ろう」と造園業者からの研修などを受けながら2009年に発足したのが「柳町公園サクラ守」。その後も「橋南西部サクラ守」「運動公園サクラ守」「美原サクラ守」が発足、合計で4団体44人のサクラ守がそれぞれの地域でサクラを守っている。今年もサクラ守は柳町公園など各地で植樹などの活動を行っている。濱木会長は「どれだけ多くなったとは言いにくいが、かなりの数のサクラが市内に増えた」と語り、「日本で最後の花見を柳町公園で開けるようになればうれしい」と思いをはせる。


福島県相馬市にもサクラ贈る

 世話人会の活動とは異なるが、濱木会長が代表となって釧路市民の有志で設立した「福島県相馬に桜を贈る会」は、祖父が相馬出身の佐藤義美さん=釧路市美原在住=が、釧路町の私有地で育てたエゾヤマザクラを、東日本大震災に見舞われた先祖の土地で咲かせたいとの思いを実現させるため、2012年11月に780本のサクラを相馬市に贈った。濱木会長と小西功圃(いさほ)副会長、平光二さんの3人は今年、相馬市を訪問しサクラの状態などを視察してきた。その際には相馬市長にも面会、同市長は同会の活動に感謝の気持ちを伝えている。この取り組みも同世話人会の取り組みと無縁ではない。
 同世話人会は今年で発足して43年となる。40周年を記念して北海道知事から認定されたフラワーマスターの活動を円滑にして、釧路市の植花活動をアピールすることなどを目的にフラワーマスターの認定講習会を開催、現在は「フラワーマスター花くらぶ」も発足し、緑と花のまちづくりの事業は広がりを見せている。同世話人会会員の高齢化などの問題はあるが、2013年度末の会員数は法人会員が76団体を数え、このほかに個人や賛助会員、特別会員が名を連ねる。


釧路市全域への広がり目指す

 「緑が少ない」との指摘から、緑豊かで住みよい町にすることを目指して「緑でいっぱいにしよう」という運動を推進するため発足した同世話人会は、趣旨に賛同した市民各層が自主的に参加した「協働のまちづくり」を実践している。濱木会長は「春が遅く、秋から冬が長い地域という特性はあるが、今や緑が少ないとは言わせない」と胸を張る。さらに、「花壇作りに取り組んでいる人を見た人が、『きれいですね』と声を掛けることだけで作業している人はうれしい。この交流の例はプレイヤーだけではなく評価する人も花壇作りに参加していることに等しいといえる」と語り、多くの市民が緑と花によるまちづくりに関わって欲しいと強調する。そして、運動が花壇という点から通りという線へ広がり、さらに釧路市全域という面への広がりを目指している。