「まち むら」128号掲載
ル ポ

本質を見据えた取り組みでより効果的な課題解決へ
岩手県北上市 口内町自治協議会・口内地区交流センター・NPO法人くちない
指定管理者制度で町内の地域づくり団体に変化

 八つの工業団地を擁する経済産業都市・北上市中心部から車で15分とは思えないほど長閑な山村、口内(くちない)町。地方のほとんどのまち同様、少子高齢化、人口減少といった問題と対峙してきた。
 地域づくり活動は、昭和38年に設立された「口内町自治協議会」(以下、自治協)を軸に行われてきた。町内各区の代表者らを中心とし、会員は全住民。総務部、地域づくり部、生活環境部など6部会を持つ組織で、インフラから教育、福祉まで広範囲にわたる地域の課題解決に向けて取り組んできた。しかし8年ほど前、自治協のむかしながらの地域づくりに転機が訪れる。
 平成10年代後半、行政施設の管理等を民間に代行させる「指定管理者制度」が登場した。北上市でも市内16ヶ所の市立公民館の管理者を募集し、自治協がこれを受けた。施設管理のほか市と連携の下での生涯学習事業、地域づくり事業の推進を業務とし、専属職員5名を雇用して、平成18年、公民館は「口内地区交流センター」(以下、交流センター)に生まれ変わった。
 自治協はまた、平成21年、バス停まで徒歩30分以上もかかる地域に居住する交通弱者のために「ボランティア輸送」に取り組んだ。しかし、事業を実施するには法人格が必要だったことから、翌22年「NPO法人くちない」(以下、NPO)を立ち上げる。これで現在の口内のまちづくりに取り組む三本柱が出揃った。

事業実施前にニーズを確認

 これらの団体は、それぞれ特性を持ち、互いに棲み分けとフォローをし合う関係にある。
 小回りを効かせて小さな事業も推進しやすく、自治協ではできなかった補助金の活用もできるのがNPOである。輸送事業から始まり、現在は、日用品店の少ない町内で、農協の古い建物を活用したバスの待合所兼店舗を運営するなど、生活に密着した活動に取り組んでいる。
 交流センターは推進役。2年毎に役員改選が行われるため継続して事業に携わることがむずかしい自治協をサポートし、事業推進・継続の大きな力となっている。
 組織や体制が変化すると、事業の実施方法や成果にも変化が現れ始めた。
 まず交流センター内では、職員が交替で地域づくりの先進地視察などさまざまな研修に参加しているが、研修で学んだ手法とともに新たな意識、認識をもって帰ってくると、これまで当然のように行っていたことへの疑問や問題点が見えてきた。
 たとえば、前々から検討されていた空き家と人口減少への対策。それまで「移住してきた人が空き家に住む」という図が中心にあったが、単に誰かが移住することで解決されるのではなく、「自分たちの活動の結果として人口増加があり、空き家は地域課題解決のために活用しうる資源のひとつ」と考えるようになったという。それまで課題と思っていたことが、実はそれ自体を解決することが目的なのではなく、解決していく過程が重要だったのだ。
 そして取り組みの手順や方法も、「自分自身が本当の課題をよくわかっていなかった」というある交流センター職員は、課題の本質や解決の目的を理解するために、過去に自治協が行った住民アンケートの見直しに取り組んだ。意識の変化はほかの職員たちにも見られ、職員間の目下の大きなテーマのひとつは「研修で学んだことをどのように生かし、共有するか」なのだという。
 意識の変化が広く浸透するにはもう少し時間が必要かもしれないが、推進役である交流センターの前進は、自治協やNPOの前進も導くだろう。
 また、前述のアンケートの見直しで、住民と自治協が考える「課題」にズレが見つかり、その後職員たちは事業の前のニーズ確認と、「誰のために?」「何のために?」「誰が行う?」といった事業の根本を強く意識し始めた。その結果、集約した課題を行政への要望で解決するという、従来のどことなく漠然とした手法から、住民自らが参加する活動へと推移していく。
 そして、地域活動が盛り上がってくるとそこに市も共鳴し、市内各地域の空き家情報の把握に乗り出し、定住化促進の補助金制度も設定された。

住民理解で「結い」の力を発揮

 平成23年度から27年度までの口内町の事業計画には、施設整備などのほか、住民たちで取り組む環境整備や交流事業などが並ぶ。一覧表には「必要性・緊急性の理由」「事業実施による効果」という欄が設けられ、目的は実施することではなく、その先にあることが見てとれる。
 町内の財産には、南部と伊達の藩境を守っていた「館(たて)」の跡である「浮牛城(ふぎゅうじょう)」や昭和天皇にも献上した「口内傘」、数多くの伝統芸能などが数えられており、それらを守るべく「浮牛城まつり」や口内傘ほか地域の文化・特産品を学ぶ講座も開催されている。「浮牛城まつり」は、数回開催するうちにマンネリ化が気になり始め、当初活用していた補助金の期限切れを機に新しい方法を探った結果、実行委員会が組織され、現在も引き続きにぎやかに実施している。
 口内の地域活動における特筆すべき変化は、これまで述べてきたように、地域づくりを自分たちのことと捉え、事業効果を意識するようになったことであろう。さらに、組織から住民に対して理解が得られるよう工夫した情報発信に努めるようになったことも挙げなければならない。これまでも、情報発信は行われてきたが、その情報が誰もが理解できるものかというと、必ずしもそうではなかった。自分たちが暮らす地域のことである、関心がないわけがない。ましてや「結い」の農村地帯で、町内一斉清掃と決められた日に都合が悪くて参加できないと、当日までに自分の分くらいは行ってしまうような住民性のまちだ。主体は住民にあると理解すれば、さまざまな力も集まってくる。
 平成26年度には、口内地区ほか市内の地域が参加して「きたかみグリーンツーリズム協議会」が発足した。まだ十分に認識されていない頃に行ったアンケートでは、不安の回答が目立っていた体験の受け入れも、昼食準備や送迎を農家以外の人たちが協力して行うことによって農家の物心の負担を軽減し、3件(各30人程度)の受け入れを実現した。
 さらに交流人口増加を目指して、転出者のUターンにつながる「口内ふるさとサポーター発掘事業」も推進中だ。
 活動によってすでに手にした効果もあるが、やるべきこと・やれることはまだまだある。しかし、道は平坦でないとしても、活動の先に光があることは多くの人が確信していることだろう。