「まち むら」139号掲載
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地域資源の活用と交流で北九州を元気なまちへ
福岡県北九州市小倉北区 NPO法人北九州タウンツーリズム
団体設立の経緯と背景

 北九州市は、海山に囲まれた自然豊かな都市であり、九州の玄関口として古くから交通の要衝として栄えてきた。明治に入り、日本三大国際貿易港として発展した門司市、官営八幡製鐵所が創業し発展した八幡市や戸畑市、全国一の貨物取扱量を誇り石炭の積み出し港として賑わった若松市、軍都として発展した小倉市といったこれらの都市は、日本の産業をリードし、近代化を支えてきた。
 この五つの都市が昭和38年に世界に類を見ない対等合併を行い、北九州市が誕生した。
 日本の近代化を支え、発展してきた北九州市だったが、重化学工業を中心とした産業構造であったため、高度経済成長期には深刻な公害に悩まされ、昭和50年代には「鉄冷え」と呼ばれる構造不況に陥った。
 その後、北九州市は公害を克服した経験を活かして環境首都を目指している。
 また、観光振興やにぎわい創出に向けて、明治や大正期に栄えたエリアを「門司港レトロ地区」として整備するなど、様々なまちづくりに取り組んでいる。しかしながら、私たちは「市民が自分たちのまちのよさに気づいていない」「少子高齢化によって年々まちの元気がなくなっている」と感じるようになった。
 そこで、北九州市の都心部の集客性を高め、宿泊する観光客を増やすことや、市民にもっと自分たちのまちを好きになってもらうことを目的として、平成19年に「北九州ナイトツアー実行委員会」を立ち上げ、本市が持つポテンシャルを生かした事業を開始した。具体的には滞在時間を延長させるために、「@夜に、地産地消の料理が食べられる店や特産品をお土産として買うことができる店の情報発信」「A文化施設の夜間開放など、夜の楽しみ方を市民や観光客に提案するだけでなく、当団体がイベントを実践し、施設を運営する側にもその企画運営方法を提案」「B安全・安心なまちというイメージを持ってもらうため、地域の財産(たから)である施設や人にスポットをあてた体験型まち歩きの開催」を行っている。
 また、事業の多様化に対応するため、平成23年には、実行委員会を改め、「北九州タウンツーリズム」を設立し、平成24年にNPO法人化した。
 現在は、地域資源を活用したまち歩きなどを通して、シビックプライド(都市に対する誇りや愛着)の醸成や交流人口の増加を図り、持続可能な活き活きとした地域社会を実現することを目的に活動をしている。

活動内容
(1)体験型まち歩きによるまちづくり事業
@北九州ナイトツアー
 北九州市の夜の魅力を多くの方に体感してもらうために、工業都市の発展に寄与した労働者の習慣から生まれた文化である“角打ち”や、政令市でありながら豊かな自然をもつことが体感できる地産地消の食事などを体験し、参加者や店主が交流するまち歩きガイドツアーを開催している。また、平成22年から平成24年まで、北九州市の公共施設と協働し、近代化遺産とその遺産を生んだまちを感じるツアーを実施した。現在は、旅行業者などが同様のツアーを開催するに至っている。

Aようこそ北九州ツアー
 北九州市では、毎年約5万人の転入者がいる。マイナスイメージを持って本市に来られた方も多く、そのような方に早くこのまちでの暮らしに慣れて日常を楽しく過ごせるように、商店街や市場でのつまみ食いや、地元の人から長く愛されている老舗店での飲食などを体験するまち歩きガイドツアーを開催している。
 参加者には、まちを盛り上げようとがんばっている店主等、まちづくりに取り組んでいる方々との出会い(交流)が楽しいと好評を得ている。

B北九州エコツアー
 北九州市の小倉都心部では、「環境(エコ)の見える化」への取り組みをまちなかで見ることができる。私たちは、自分たちのまちに誇りを持ってもらうため、ツアーを企画している。例えば、親子を対象とした「まちなか探検隊」を開催した。このツアーは、子どもたちが感じた「エコなもの」を写真に撮ってもらい、その後まちなかのカフェでスクラップブッキングを作ったり、「まちなか探検隊」のミッションとして、地元産の野菜を市場で探して購入してもらった。このように、楽しみながらエコについて、親子で考えるきっかけづくりをしている。
 また、ゴミ問題を考えるために、資源化センターの工場見学を行ったり、自然エネルギーを考えるために、風力発電や太陽光発電の施設を見学したり、私たちの身近なエコについて考えるツアーも実施した。
 その他にも、現在工場夜景ツアーで人気の洞海湾を昼間にクルーズしながら、昔の写真と比較して公害克服の歴史を学んだり、里山ツアーを行っている方などをお招きし、地産地消の食材を使った鍋を囲みながら、「私らしいライフスタイル」について考えるツアーも実施した。

Cサイクルガイドツアー
 市内のNPO法人が運営している「レンタルサイクル」(電動アシスト付自転車)を利用して、広いエリアを移動することで、テーマ性のあるツアーを実施している。
 「くきのうみ(洞海湾)サイクルガイドツアー」では、洞海湾周辺の豊かな自然を感じることができる場所や世界文化遺産の「官営八幡製鐵所の関連施設」等を自転車で巡り、製鐵所と共に歩んできた商店街などをまち歩きすることで、北九州市のまちの成り立ちやまちの新たな魅力を体感してもらった。

(2)地域資源の発掘やまちづくりの人材育成事業

 北九州市は、旧五市が合併してできた都市のため、広いエリアに地域資源が分散している。私たちの団体は、主に北九州市の中心市街地である小倉都心部で活動を行っているが、それ以外のエリアで継続的に活動を行うまでに至っていない。そのため、私たちの考えるまちづくり事業に賛同してくれる個人や団体が、市内の様々なエリアで活動を行ってくれることを願っている。そこで、「まち歩きによるまちづくり」や「着地型観光や地域資源の活用方法」、「シビックプライドの成功事例」などについて、勉強会や講演会などを積極的に行っている。
 平成23年と平成24年には、これらの講座を受講した参加者にまち歩きガイドツアーを作成してもらい、市内全域で「北九州まち歩き博覧会」を開催した。
 平成25年には、北九州市制50周年記念事業として、「北九州まちのナビゲーター養成講座」を企画運営した。6回の講座には、北九州市観光協会(現北九州市観光コンベンション協会)で活躍するボランティアガイドも参加しており、この講座を受講したことによって、「正確な歴史の年号などアカデミックな情報を伝えることよりも、お客様の視点に立ち、おもてなしの心で接することが一番であることがわかった」といった感想や、「自分たちのガイドスタイルを見直して新コースを作った」とのメッセージをいただく等、一定の成果を残すことができた。
 また、同年には「日本まちあるきフォーラムin北九州」を開催し、「まち歩きによるまちづくり」を行っている団体(個人)が全国各地(北海道から沖縄まで)より、のべ683名参加した。多くの自治体では、まち歩きのガイドはボランティアでまちの歴史を語るため、高齢者にしかできないと考えている。また実際に高齢者のガイドで構成されている団体も多い。
 そこで、私たちは当フォーラムで、「まち歩き」を「まちづくりの手法」として捉え、地元で活動するアーティストや起業したばかりの若手店主たち、学生などをまち歩きとコラボレーションさせ、「様々な人をまちの主役にするまち歩き」を提案した。

(3)大学との連携事業

 北九州市では、市内に10大学あり、地域課題解決に向けて様々な活動に取り組んでいる。私たちの団体では、これらの大学からの依頼を受け、大学生が企画するツアーのアドバイスやガイド指導、講義や実習(フィールドワーク)などを行い、まち歩きを通じたシビックプライドの醸成を行っている。この学生たちが、北九州市が好きになり、将来、市内で就職し、住み続けたいと思ってくれることを期待している。

今後の展開

 現在、自治体や商店街組合、雑誌社ではない団体や企業が制作する「まち歩きマップ」や、「路地裏散策やまち歩きを行うテレビ番組」が増えており、市民の方々に「まち歩き」が少しずつ認知されるようになった。
 また、私たちが主催する「まち歩きガイドツアー」や「ワークショップ」に参加した方々が企画するまち歩きツアーも、市内各地で開催されるようになり、まちづくりの人材育成が進んでいることに喜びを感じている。
 今後は、外国人旅行者への対応や個人旅行者の体験型(コト)志向など、刻々と変化するニーズに対応するため、情報収集や調査、団体会員の研修を行い、昨年度開始した「景観ガイドツアー」や「路地裏さんぽ」などに続く、新たなツアーに挑戦していきたいと考えている。