「まち むら」71号掲載
ル ポ

商店街はまちのリサイクルステーション
愛知県名古屋市中村区 大門エコ商店街
 名古屋駅から西へ約1.5キロメートル。大門(おおもん)商店街がリサイクル活動をはじめたのは1999年1月。1年余を過ぎたこの4月からは「エココイン」を導入、「楽しくトクするエコ商店街」づくりにはずみをつけた。


小学生が環境学習

 名古屋駅から市営地下鉄桜通線(6号線)に乗り、1駅で終点の中村区役所駅。区役所に寄って『「ごみ減量先進都市」へ、ともに挑戦しましょう』や『なごや環境家計簿』などの関係資料をいただいた。こういう資料が、ロビーのだれでもすぐ目につく所に置いてある。名古屋は本気だ。
 地下鉄の駅から太閤通を西へ徒歩約10分で、大門交差点に着く。
 交差点の手前の本屋さんの脇に電話ボックスがあった。いや、電話ボッタスそっくりだが、表示されている文字はNTTではなくて「Omon Navi」。入ってみるとコンピューターの端末があって、両面にタッチすると大門商店街の成り立ちや味所、周辺の見所、そして「エコ商店街」の仕組みなどがガイドされる。ナビゲーターはイメージキャラクターの「ねねちゃん」。ご存じのとおり、「ねね」は太閤秀吉の奥方だ。「エコステーション」があると聞いていたが、Omon Naviの情報には入ってなかった。だれかに尋ねようと思っていると、太閤通の横断歩道を小学生の一団が先生に引率されて渡ってくる。列の一番後ろから付いていくと、あったあった。黄色いノボリが何本もはためき、新聞や段ボールの束を抱えて大勢の人たちが集まって来ている。ノボリには「リターナブルびんつくってネ!メーカーさん」「ぺツトボトルはカッコわるいヨ!」の文字。大門商店街からのメッセージが風にはためいていた。
 子どもたちは、エコステーションに環境のお勉強に来たのだ。“先生”は商店街の青年部長の山本幸太郎さん。ひととおり資源の分別についてお話を開いた後は、すぐに“実習”だ。地域の皆さんが持ち寄る資源を分別して、それぞれ決められた場所やコンテナまで運ぶ。みんなワイワイ楽しそうに、いい汗流していた。


便利でトクするシステム

 いま「集団回収」は資源価格の低迷で各地で苦戦している。大門商店街のエコステーションも一種の集団回収だが、ここは元気だ。なぜだろうか。システムを紹介しながら、元気な理由を考えてみよう。
@立地がいいこと。なにしろ商店街の真ん中にあるのだから、買物ついでに立ち寄れる。
A月2回開催。エコステーションは毎月第2、第4木曜日に開催される。たとえば新聞はチラシと合わせて月に10数キログラムになるが、月2回排出できれば、1回に運ぶ重さも半分ですむ。他のビンやカンなどについても、排出する側から見れば便利だ。
B回収品目が多い。回収品目は、新聞、雑誌、段ボール、古着・古布、カレットビン、リターナブルビン、スチールカン、アルミカン、牛乳パック、発泡スチロールトレイの10品目。市町村の資源回収では見られるが、みんなで1ヵ所に持ち寄る集団回収でこれだけ多様な資源を扱う例は少ない。
C「エココイン」でトクをする。エコステーションに資源を持ち込むと、種類や量に関係なく「エココイン」が1枚もらえる。これは大門エコ商店街参加店で10円として使えるほか、先のOmonNaviの中に設置されているゲーム機で遊べる。前回ルポした早稲田商店街のゲーム機は空きカンやペットボトルを直接投入するものだったが、ここではエココインを入れるとラッキーチケットが当たり、参加店のさまざまに工夫したサービスが受けられるというもの。
 これだけメリットがあれば、多くの市民が利用するわけだ。そしてこんなサービスが提供できるのも、地域の商店街ならではのことである。


市民団体と提携

 いま四つのメリットを紹介した。@の立地について便利というのは商店街だから当たり前だが、言い換えればだからこそ各地の商店街はもっと頑張ってもらいたいと思う。
 Aの月に2回開催は、一般に月2回、2ヵ月に1回といったところが多い集団回収の実態のなかでは、きわめて異例だ。これは立地がいいから月2回開催でも十分な量の資源が集まることと、何度も商店街に足を運んでもらいたいという主催者側のもうひとつのねらい、商店街活性化というねらいが考えられる。
 Bの多品目回収も一般の集団回収では、やりたいと思ってもなかなかむずかしいことだ。これが可能なのは、もう20年もリサイクル活動を続けている市民団体の中部リサイクル運動市民の会とタイアップしているからだ。古紙問屋、カレット商、金属商など個別の再生資源業者さんでは少量すぎてとてもトラックを回せないという量でも、市民の会はまとめて引き受けて個々にリサイクルルートに乗せるという活動を地道に続けている。
 なお、いま「少量」と書いたがそれは営業的に見た場合で、実際にエコステーションに集まってくる資源はかなりの量になる。空きカンや空きビン、トレイなどのコンテナは数十になるし、古紙は10トンを超える。それだけの資源を山積みして、さらに回収する市民の会の大型トラックが入るだけのスペースが確保できるのも商店街ならではのパワーだ。夜間の営業が主体の飲食店が、昼間は空いているお客さま用の駐車場を提供しているのである。
 そして、この4月からスタートしたCのエココインが、便利さの上に経済的インセンティブ、お楽しみインセンティブを加えてシステムをより魅力あるものにした。


エコマネー顧客でまちおこし

 商店街の規模を示す尺度のひとつに通りの長さ「街長(がいちょう)」があるが、大門商店街のそれは約500メートル。商店街組織の「新大門商店街振興組合」加盟店は155店である。「大門」は昔は「花街」だった土地で、いまでも木造大型建築の料亭や旅館なども残っているし、モニュメントとして太閤秀吉の「千成瓢箪」がまちのあちこちで見られるなど歴史を感じさせる雰囲気もある。しかし、この商店街も隣接して大型店ができるなどの影響を受けて衰退傾向にあったことは否めない。そこで「エコ商店街」づくり。「ペットボトルは――」とか「リターナブルびんを――」とかのノボリは、市民団体なら普通だが商店街としてはかなり思い切ったアピールだ。それだけ本気ということだ。
 エココインは、資源リサイクルに参加した人だけがもらえるのではない。
 買物袋(マイバッグ)持参の方に1コイン、簡易包装でOKのお客に1コインなど、大門商店街で買物をして、環境に配慮するとどんどんたまる仕掛けになっている。業種によって、環境図書お買い上げの方に1コイン(書店)、マイ箸持参でお食事の方に1コイン(飲食店)、自然素材・リサイクル品お買い上げの方に1コイン(内装品店)など、それぞれ工夫されている。
 エココイン=エコマネーによって環境に配慮して暮らす市民を増やし、そうした人々を顧客(リピータ)に商店街も元気になろうという戦略。今後の発展を期待していきたい。